ミュルグレスがカステラを取り、頬張る。至極の瞬間を味わいながら、蕩けそうな顔で頬張っている。
「ん〜!」
その顔を見れば大満足なのは誰でもわかるだろう。ギャラルが若干呆れながらも、尋ねてみる。
「これで満足かしら?」
「いや、満足はしないわよ。あるのなら無限に食べられる〜!」
なんでミュルがカステラを食べているのか、それもギャラルの前で。それは口止め料として言われていたカステラをギャラルが買ってきたからである。
そもそも収入源はコマンド達の貯金にミュルのバイト代であり、自腹で食べているようなものなのだがそこは気にしていないらしい。
「……一つ聞いてもいい?」
「何?今は機嫌いいし、幾らでも聞いてあげる」
「ミュルはさ、その。割り切れてるの?」
「は〜。またそのことねえ」
ギャラルは一つ引っかかっていた。あの日ミュルが言ってくれたように、あまり考えすぎないようにはしているけど。でも自分が人殺しって一点は揺らがない事実でもある。
「考えすぎなのよ。じゃあ何?レギオンを助けられる可能性があるからって、目の前で殺されそうになってる人は見捨てるの?」
「………それは、違うけど」
「仕方ないで済ませてはいけないかもしれないけどさあ、みんな出来ることに限りはあるし、どうしよもないじゃん?」
それは結局、仕方ないで済ませているのではないだろうか。ツッコみたくなるが、分かった上で言っているのだろう。
罪を償うのは、目の前の人を少しでも助けることですればいいのだ。それでも足りないなら、平和になってからも色々なことと戦えばいいのだ。
レオナールも自身の罪があると言っていたけど、ずっと悩んでいたのだろうか。まあレオナールの言う罪が何なのかは想像は出来てしまっているが。
レオナールのことがチラついて、げんなりした顔になっていたのだろう。これは重症だね〜とミュルが呟く。
「じゃあさ、明るい話題にしようよ。せっかくの休みに暗いこと話しててもしょうがないでしょ」
「……うん」
ギャラルは病み上がりだからと、しばらく大人しくするように言われてしまっている。なので今家にいるのは自分とミュルだけ。
因みにミュルがいるのは、単に今日はシフト入れてないとのこと。
「じゃあまた一つ聞くわ。ミュルってその、恋愛とかってしたことあるの?」
「ない」
即答だった。完全に聞く相手を間違えた。多分ロジェに聞いた方がまともな返事が返ってきていた気がする。
「まあ隊長とならしてもいいかもしれないけどね〜、ライバル多すぎでしょ」
「隊長?……ああ、マスターのこと?」
「そうそう」
マスターはかつての世界でもこの世界でも、交友関係はかなり広いし、救ってきたキル姫も沢山いる。だからこそ、キル姫の大半は大なり小なり彼に好意を持つ。それが恋愛感情かは別として。
ミュルも、まあ好意がないかと言われたらある程度には思っているというだけ。
「でも、そんな質問するってことはギャラルには好きな人いるんだ?」
ニヤけ顔でミュルが聞き返す。面白そうな話だからこそ食いついてきたのだ。
「好き、なのかはギャラルも分からないけど」
「え〜……もしかしてカイム?あの無愛想で無口でヤバい目してるあいつのこと好きなの?」
「い、いや!カイムは確かに怖いところもあるけど、強いし頼りになるしカッコいいわ!口の代わりに手が出るのは悪い癖だけど最近は大人しくなってきてるし、可愛いところもあるのよ。意外と目を合わせるのを恥ずかしがることもあっ……て……」
「へ〜」
ミュルは笑い出すのを必死に堪えながら、なんとか反応する。ミュル自身はともかく、他人が恋愛をしている様子というのは見たことがあるし、早口で捲し立てていたギャラルの顔が惚気ける女のソレであるのも分かってしまう。
「これは口止め料、もう一回貰わないと駄目かな〜」
「なっ!?」
「その様子だと告白とかしてないでしょ。というかしてたら相談なんてしないでしょ」
「……またカステラ?」
「話が早くて助かるね」
勢いで恥ずかしいことを言ってしまったのと、それに気が付いてカステラをまた貰おうとするミュルのたくましさになんとも言えない表情になる。
「でも、そこまで好きなら素直になればいいじゃん」
「嫌われたら、イヤだし」
「は〜面倒臭いね。そんくらい」
「待って」
「?」
ミュルの言葉をぶった斬って止めたギャラルだが、真剣な表情になっている。理由は分からないけど素直に待っていたほうがいいと感じたミュルも大人しく待つ。
ギャラルが目を閉じて集中している。もしミュルに気が付けなくてギャラルが気が付く異変があるなら……
「もしかして何か聞こえる?」
「うん。誰か戦ってるわ!」
「嘘……こんなところで?」
そこからは二人共早かった。ミュルは神器ミュルグレスを、ギャラルは月光と闇を持ち家から飛び出した。