カイム達は封印を守る為、砂漠の神殿へと向かう。
一方、イウヴァルトは何処とも知れぬ帝国の牢獄に囚われていた。
それに語りかけるのは「天使の教会」の……
カイム達が向かった捕虜収容所とは、違う牢獄にイウヴァルトは囚われていた。
イウヴァルトが目を覚ますが、そこには誰もいない。腕につけられた鎖を外そうと力を込めるが、びくともしない。
「俺に、俺にちからがあれば……」
イウヴァルトが呟くと、突然脳内に男の声が響く。
「俺にちからがあればフリアエを守れるのに」
「誰だ!?」
「フリアエを守り、俺だけのものにするのに」
「やめろ!」
イウヴァルトの心の中を見透かしてるかのように、声は次々と畳み掛けていく。
「俺の腕に抱いて誰にも渡さないのに」
「俺の許婚なのに」
「俺だけを愛してくれるはずなのに」
「やめてくれ……」
イウヴァルトの懇願虚しく、言葉は続く。
「俺だけのもの。俺だけの女。フリアエ……」
「誰にも渡さない。フリアエは渡さない。誰にも、誰にも、誰にも……カイムにも!」
「ちがうっ!ちがうんだ!」
必死に否定しようとしても、それがイウヴァルトの想いだと肯定してしまっているようなものだ。
「僕だけを愛してフリアエ。僕だけを見て」
「僕だけを抱いて。抱き締めて」
「僕だけを愛して。愛して。愛して」
「僕を許して」
「深く。深く。深く」
「許してください」
「僕だけを見つめて」
「見つめてください。見つめて……」
イウヴァルトは絶叫する。次々と暴かれていく心の中を、それを淡々と告げられる余りの苦しさに耐えきれないのだ。
「……女神は死ぬ」
しかし、突然告げられた言葉にイウヴァルトはハッとする。
「封印役は精神、体力共にむしばまれる。必ずや近い将来、命を落とすだろう。……それが女神の役回りだ」
「そんなっ!」
愛する人が、封印の女神として選ばれ幸せになることもなく死ぬ。その理不尽に戸惑いを隠せない。
「本当はただの女なのに。おまえの横で子を抱き、しあわせに笑い続けるのが似合う、ただの女なのに」
「女神の任を降りれば、ただの女に戻れるのか?」
「……命は延びる」
男の声は明らかにぼかすような答えをしたが、精神が追い詰められているイウヴァルトはそんなことに気づけない。
「俺は……どうすればいい?フリアエを助けたいんだ!」
「ちからが必要だ。ドラゴンと手を結ぶような強大なちからが……」
「……カイムだ。カイムなら!」
イウヴァルトの脳裏の浮かんだのはカイム。実際にドラゴンと契約し、圧倒的な力を得た親友の姿。しかしその考えを男の声はあっさり否定する。
「カイムで良いのか?フリアエの感謝と愛を一身に浴びるのが本当に、カイムで良いのか?」
「……俺は……」
「俺が許婚なのに」
「フリアエのキスは俺が受けるべきなのに」
「俺だけを見ていて欲しいのに。愛して欲しいのに」
男の声は、甘い誘いをする。イウヴァルトを堕とす為に。
「ちからがあれば、俺は、ちからがあれば、」
「ちからがあれば……」
気がつけば男の声を、自らの口から発していたイウヴァルトの瞳は、赤く染まっていた。