ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第8節 幸セナ死

 ギャラルが剣を振り上げると同時にイチイバルの足元と、ミュルの進行方向に火柱が上がる。イチイバルは横に跳びながら反撃の矢を放ち、ミュルは僅かに進行方向をズラしてからカイムへと向かう。

 カイムとアンヘル、どちらかを無力化すればもう一人も沈黙するのだ。それも高い生命力を持つドラゴンを、ただの人間であるカイムを倒すだけで止められるのだ。

 

「おりゃああ!!」

 

 素直にミュルへ向かってくるカイムを裂く為に、身を屈めながらも進んでいきまずは足元を狙う。お互いの刃が触れるであろう距離まで接近した瞬間、しかしカイムは飛び上がりミュルを超えながら、炎の弾を撃ち出した。

 振り向きながらの一閃。炎はあっけなく消し飛び、お返しに雷の衝撃波を放つ。当然ながらそれが命中することはなく、ひらりと躱したカイムはそのままもう一度距離を詰めようとする。

 それと同時だった。飛び上がっていたアンヘルの火球がミュルへ向かって飛んでくる。それもカイムとはさみ撃ちにする形で。

 炎の対処をすればカイムの剣を防げず、逆もまた然り。ミュルが普通の相手ならだが。能力を全開しているミュルには単純明快な解決法がある。

 どちらも直撃しそうな距離まで引き付けたあと、ミュルは横へと走り出す。稲妻のような速さで駆け出したミュルへ二人の攻撃は当たらない。むしろアンヘルの火球がカイムへと直撃しそうになる。

 カイムは咄嗟の判断で火球を斬るが、同時に背後へ回り込んでいたミュルの神器の音が響く。

 これはしめたと思った瞬間、ミュルの視界が突然変わる。今にも剣をこちらへ振りかぶるであろうギャラルの姿が目の前にあった。

 ギャラルの猛攻を凌いでいたイチイバルが空間跳躍の力を使い、二人の立ち位置を入れ替えたのだ。

 突然のことにギャラルは止まることが出来ずに、二人の刃が接触する。一瞬だけ拮抗するが、回転する歯と雷が月光と闇を傷つけていく。

 痺れながらも後退するギャラルと追うミュル。このタイミングで入れ替えを行ったのは、ギャラルへの不意打ちの為だろう。敵を騙すには味方からとは言うが、もしこっちがやられていたらどうするつもりだったんだと内心思いつつも、追撃の手を止めない。

 単純な速さならばミュルの方が速くあっという間に距離を詰められる。ギャラルは上空へと逃げるという選択肢があるものの、今逃げようとすればミュルがカイムへと向かうのは誰でも分かる。つまり、ギャラルには迎撃する択するしかないのだ。

 

 入れ替わりが行われた瞬間、イチイバルが狙ったのは目の前のカイムではなくアンヘルだった。戦略的にカイムを狙うほうが現実的であり、実際カイムを狙いある程度追い詰めた瞬間での不意打ち。

 カイムからステップで距離を取りながらの、光を纏った全力の一撃。しかし空間跳躍で位置を変えた直後の一撃、心臓を狙うまでは至らずに右翼へ向かっての一撃となった。

 矢が翼へ刺ささった直後、大爆発を起こした。光の力が解き放たれ右翼を焼いていく。

 アンヘルが痛みで絶叫を上げながら地上へと堕ちていく。カイムも流石に驚き振り返り叫ぼうとするが、声は出ない。ただ手を伸ばして、直後に改めてイチイバルを見据える。

 

「アンヘル!?」

 

 目を奪われたのはカイムだけではなくギャラルもだった。形勢逆転の為の一撃を狙おうとして、直後に絶叫に驚き視線を逸してしまった。

 

「何処見てんの!?」

「くっ!」

 

 再びミュルの斬撃を防ぐために月光と闇で鍔迫り合いを狙うが、神器の攻撃に二度も耐えることは出来なかった。

 折れた刃が勢いよく飛び、ギャラルの左肩を斬り裂いた。剣が折れたことと左肩を負傷したこと、二つの理由でバランスを崩したギャラルへ神器の刃が直接身体を斬ろうとして、無理矢理身体を捻らせて躱した。その勢いで転んでしまったが。

 イチイバルへ距離を詰めようとしたカイムだったが、ギャラルまで倒れたことに気が付き慌ててそちらへ走り始めた。同時にミュルもギャラルへの追撃は止めてカイムと相対する。

 感情任せになったのか、大上段から放たれた剣を神器で受け止める。僅かな拮抗のあとにやはり剣は折れてしまい、刃は勢いよく飛んでいく。

 しかしそれも計算の上だったのか、剣を振り下ろした低い姿勢からタックルを繰り出そうとするカイムの脇腹に、イチイバルの放った矢が容赦なく突き刺さる。そうしてカイムもギャラルの近くへと倒れ込んだ。

 切った場所が悪かったのかドクドクと血を流すギャラル。そして矢で脇腹をカイムと、右翼を失ったアンヘル。これはもう、助からない。少なくとも二人には助けられない。

 時間にしてはあっという間だった死闘。二人は息を整えながらその様子を呆然と見ていた。

 

「……トドメ、刺した方がいいかな」

「それは僕がしよう。元々僕が撒いた種なんだ」

 

 助からないのなら、いっそ楽にした方がいいのだろう。倒れている二人へと近づくイチイバルだったが、そこに人型へと戻っていたアンヘルがおぼつかない足取りで近づいてきていた。

 警戒して二人は構え直すが、戦えるような様子には見えない。

 

「これ以上は、させぬぞ」

 

 力のない身体とは反対に、力強い瞳で二人を見つめる。アンヘルを退かすのは簡単だろうが、そうとは思えないだけの気迫を感じた。

 

「……待ってくれ、君達はどうしてこんなことを」

 

 抵抗するからと容赦なく殺そうとしておいて、今更何を言っているのだと我ながら思うが、今のアンヘルの様子からして自棄になったようには見えないのだ。もっと何か、信念のあるような。

 

「我らは賢者になったのか、或いはどちらも選んだ真の愚か者なのか……」

「はい?」

 

 苦笑しながら帰ってきた返事が、全く返事になっていなかった。意味がわからないと言おうとしたミュルだったが、アンヘルはその場に崩れ落ちた。

 その後ろで、身体を引きずり近づいていた二人は指を絡めていた。幸せそうな表情で、静かに眠っていた。

 

「何よこれ……何が……」

 

 理解が追いつかないミュルだったが、頭の中によぎったのは一枚のメモのことだった。

 いや、まさか……と口にしおうとして閉ざす。それを口にしてしまったらそれが現実になりそうで怖かったのだ。

 三人の死体の前で、ただ、立ち尽くすことしか許されなかった。

 

 

 meaningless [C]ode




 剣が弾き飛ばされる。体力も気力も限界になっていたかのには、ただその場に跪くことしか許されなかった。

「最後のチャンスをあげます。我々の仲間になりませんか?」

 剣が首元に当てられる。冷たい刃が肌を裂く。血が滴る。

「わたくしは、人々の幸せを踏み台にして得た幸せなど望みません!」
「そうですか。残念です」

 言葉とは裏腹に、これっぽっちも残念でなさそうな声色で刃は振るわれた。
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