第1節 虚ろな夢
重い瞼を開く。悪い夢を見ていたような気がする。どんな内容だったのかはもう思い出せないが、ただただ嫌な夢だったような気がする。
「何だこいつ?」
「報告∶生体反応あり。推測∶人間」
「……人間はもう滅んでるんじゃなかったのか?」
「肯定。しかし、この生体反応を確認する限り、人間である可能性は高い」
誰かの声が聞こえる。二人分の声だ。そもそもここは何処だろうと思いながら身体を起こす。
「………なに、ここ」
近くに廃墟群が見える。そしてその中心にそびえ立つ巨大な白磁の塔。何処までも青い空が広がっていて、蒸し暑い。
そして目の前にいるのは、白い髪をした女性と、浮いている機械のようなものだ。
「お前、何者だ?」
「……」
明らかに敵対心を露わにしながら聞いてくる女性をぼんやりと見つめる。それから、ふと足元を見た。熱を放ち続けている剣が一振りそこにあった。
なんとなく拾ってみる。その場で軽く振って、それからそういえば質問されていたんだなと考える。
「ギャラルホルン」
「疑問∶旧人類の記録に残されているその名称は、神話に登場する角笛へと付けられたものである。本当にそれが君の名前か?」
「はあ」
自分は誰なのかと考え、なんとなく出てきた単語を言っただけだ。それが自分の名前なのかは、自分自身理解はしていない。
「それで?お前は何処のアンドロイドだ」
「アンドロイド?……そんな名前じゃないけど」
うーん、なんだろうそれは。考えようとして、ふと何かに呼ばれたような気がした。誰の声な
キル姫ギャラルホルンの、記憶の混濁を確認。世界線の統一された世界で発生している新たな分岐は、重度の混乱をもたらしている模様。
あまり猶予は無さそうですよ、リサナウト?
「うわあっ!?」
「ぎゃあ!?」
勢いよく飛び起きた。そしてその勢いのままミュルと頭をぶつけて、再びベッドに落ちる。
なんか、変な夢を見ていた気がする。背の低い爺さんだった。その爺さんは何か愚痴りながらも、そう、あれは狼だっただろうか。とっ捕まえたソレに、自身のアレを取り出して、狼のアソコに……
「ひゃああ!?」
なんなんだ。なんなんだそれ。夢が支離滅裂な内容なことはそう珍しい話ではない。でも、でもでもでも、あんまりではないだろうか、ソレは。
「何よ!?人が心配して来てやったのに、いきなり頭突きするわ叫ぶわで!」
元々横から覗き込んでいたのだろうか、ぶつかった衝撃で床にへたり込んでいるミュルが怒鳴る。
「そんなこと言われても……」
「ふん!心配した分損したわ。その分詫びカステラ寄越しなさい!」
「何よそれ!?」
ミュルが飛び掛かってくる。突然の展開に困惑しっぱなしのギャラルの上へと跨り、脇やら首元やらあちこちくすぐってくる。
「やっ、やめてっ!ギャラルが悪かったからあ!」
「ふーん……」
じゃあカステラ一個追加ねと言いつつもくすぐる手を止める。それから笑みを引っ込めて、少しだけ真面目な表情でミュルは言う。………跨ったまま。
「でも、随分元気ね?大切だった子殺しちゃって凹んでたんじゃないの?」
「……あー、うん。そうよね?」
「なにそれ?」
ミュルの言葉を聞いて、そうだったと思い出す。つい昨日、落ち込んでいる自分にミュルがカステラついでに励ましてくれて、それでようやく起きれて。
そんな大事なこと、言われて初めて思い出すなんてどうしてしまったのだろうかと考える。そして夢のせいで色々と混乱していただけだと結論付ける。
「ちょっと、凄く変な夢見ちゃって……」
「まー元気ならいいけどね」
ミュルがニカッと笑い、ギャラルから降りる。
「みんなもう出かけちゃったよ〜。ミュル達は留守番ということで」
「……ギャラルも、手伝いたい」
「気遣いくらい、素直に受け取っておきなよ」
とりあえず朝食食べる?と誘ってくるミュルについて部屋から出る。そしてリビングに到着したのとほぼ同じタイミングだろうか。
激しくドアを叩く音。そして、誰かいませんかと叫ぶ声。
突然のことだったこともあり、驚いて固まる二人。しかしギャラルが驚いたのにはもう一つ理由。
ギャラルは慌てて玄関へ走り、ミュルも遅れて向かう。ドアを開けるとそこにいたのは、七支刀とパラケルスス、そしてその二人に支えられている血塗れのロンギヌスの姿だった。