負傷しているロンギヌスを、とりあえず出来るだけの手当をして空いてる一室に運び安静にさせた。
想像だにしていなかったことで、あわあわとしながらもなんとか対処し終えた二人はほっと一息を付く。それから改めてギャラルは、ロンギヌスと七支刀の顔を見る。
「生きていたのね」
「はい、なんとか。ギャラル様も無事で何よりです」
それから少しの間見つめ合っていた。なんというか、突然の再開だったこともあってイマイチ実感が湧かない。
そこでパラケルススが一つ咳払いをした。視線が自然とそちらへと集まる。
「それより、わたくしの話を聞いてくれないか。天使の教会も気になるが、わたくしがいつまで正気でいられるか分かったものではない」
「……もしかして、な〜んかヤバい感じ?」
「ええ」
パラケルススが幾つか背負っていた荷物を下ろし、それから鞄から数枚の紙を取り出した。
「これは魔素の研究について纏めたメモだ。後で読んでくれ」
メモをテーブルの上に置いてから、少しだけ辺りを見回してからギャラルとミュルに質問を投げかけてくる。
「ところで、この家に魔素を排出するための装置とかあるのか?」
「いや、見ての通りのふっつうの家だけど?」
「……なるほど。ならばこの家にある魔素は違うものなの?或いは神が干渉できない何かがある?」
少しだけ考え込んでから、すぐにやめる。話を聞いてと言い出した側から考え込み始めたらどうしよもない。
ただ、焦る理由が一つ減ったなと少しだけリラックスしてから改めて話し始める。
「わたくしはパラケルスス。少し前まで研究所で白塩化症候群とキル姫の暴走について研究をしていた。その上で、どちらも魔素、そして異世界の神の干渉であることまでは突き止めた」
「神の干渉……」
ギャラルは渋い顔になる。その可能性については元々考えていたものの、改めてそうであると言われると思うところはある。
あちらの世界もあれだけ滅茶苦茶にしておいて、一体何をしたいのか。封印を解き世界を変えようとしていたようだが、それがなんの為なのか。
「そして、わたくしも神の洗脳を受けそうになっている。ずっと頭の中で響くんだ、人間を滅ぼせとね」
「洗脳?暴走じゃなくて?」
「ええ、最初はわたくしも暴走だと思っていたけれどね。君達の言うところの赤目の病を経由して洗脳させられるからこそ、暴走しているように見えていたようだけれど」
赤目の病?と視線で問いかけてくるミュルに、ギャラルが簡単に説明する。
「へえ。つまりミュル達もその帝国のやつらみたいな状態にされそうってことなんだ」
「ただ、この家に入ってからは神からの干渉が減っている。だから何かあるのかと思ったけれど、自覚はないか」
「ふーん。そもそもミュル達は赤目の病なんてかかってないし、よくわからないわね」
……ギャラルの視線が、先程パラケルススが置いた荷物へと移動する。ずっと気になってはいたが、話を聞くのに集中して一旦意識の外に置いていた。
だが集中力が切れてきた。これも疲れのせいだろうか?
「これは……君の方が詳しいんじゃないか?」
「そうですね。ギャラル様は見ていただければ分かると思いますが」
そう言いながら七支刀は、その荷物を開いていく。そこから出てきたのは幾つかの見覚えのある武器だった。
古の覇王、鉄塊、兵士長の聖槍、信義、三つの剣と槍である。
「これ、全部カイムのじゃない!?」
「はい。これらを、エンヴィ様……いえ、ロンギヌス様と共に取ってきたのです」
「?」
エンヴィという名前にピンと来ないミュルはもちろんのこと、ギャラルもわざわざ言い直したことへ疑問を感じる。
その雰囲気を察したのか、七支刀はすぐに言う。
「ロンギヌス様が言っていたのです、もう自分は
「そっか、そうなんだ……」
「ああ、さっきのロンギヌスのことね」
合点がいったミュルと、事情を理解してほっとするギャラル。エンヴィと名乗ることも別に悪いことではないと思うが、形から入るのも悪くはないだろう。あのロンギヌスが不器用な所があるのは、一緒に旅をしたからこそよく知っている。
「そういえば、その武器は何処から取ってきたのかしら?」
しかし、ギャラルは嫌な予感がしていた。さっきはしれっと聞き流したが、聞きたくもない言葉が聞こえていた気がしたからだ。だからこの質問もしたくはなかったのだが、そうもいかない。これ以上逃げたら、何も救えない。
「天使の教会です」
「……え?それってカイム達の世界にあったやつでしょ?どういうこと?」
「ラグナロク教会が乗っ取られて、天使の教会になっているのです」
「うっそ。一度も噂も聞いてないんだけど?」
「ええ、かなり姑息に立ち回っているようです。……それに、司教も司教ですから」
まさか、またあのマナが?とギャラルは考えた。確かにマナはセエレのゴーレムによって殺されていたが、この状況では何が起きてもおかしくはない。
だが、そんなギャラルの想像を斜め上を行く答えが返ってくるばかりだった。
「その司教って、まさかマナ?」
「違います。ティルフィング様です」
「………は?」
ティルフィング。魔剣ティルフィングの名を関するキル姫。女神セイレーネの子でもあり、マスターと共に続けようとした数少ないキル姫でもあり、そして現在、このラグナロク大陸における神と言って差し支えない立場にあるキル姫。
そんな彼女が、天使の教会の司教?
戸惑いを隠せないギャラルに、パラケルススが追撃を入れた。
「パラシュも見たよ。他にもいる可能性はないとは言えないね」
「パラシュが……?」
ラグナロク大陸で出来た、数少ないキル姫の友人の一人。そんな彼女さえもが天使の教会に味方している?
「ま、待って。洗脳されてた、って話だったりしないの?」
「いや、彼女は赤目の病を発症しているようには見えなかったよ。間違いなく、パラシュ自身の意思だ」
「わたくしも信じたくはありませんが……」
「そんな!?」
特にパラシュとの関わりのないミュルだけは、ふーんといった様子で二人を落ち込んでいる二人を見ていた。
「ところで、生き残りは君達だけなのか?」
「いや、他にも数人いるよ。その内帰ってくるでしょ」
この場の空気にいたたまれなくなったミュルは、それだけ言うと自室まで逃げ出した。
パラケルススも、なぜこの家の中だと神の干渉が弱くなるのか調べるために、何か使える器具はないかとリビングから抜け出す。
そうして残された二人だったが、特に言葉を交わすこともなく他の面子の帰りを待つことにした。