パンッパンッパンッパンッパンッ……
音が聞こえる。なんの音だろうかと首を傾げようとして、その音をよく知っていることを思い出す。なんたって、毎晩聞いているのだから。
それを認識すると同時に怒りが湧き上がり、テントの中から飛び出した。
「うるさーい!」
コトの最中だった二人は驚いてギャラルの方を見て、一瞬だけ固まる。それから背の小さい爺さんの方が口を開く。
「おっほっほ、夜中でも元気ですな。一緒に致しますかな?」
「誰もしないわよ!」
近くの小石を勢いよく投げる。繋がったままひょいと避けた爺さんはニマニマと笑う。
「駄目だよギャラル……夜は静かにしないと駄目だよ〜」
眠たげな声が背後から聞こえる。それは白亜の姿をした竜の姿。その姿から想像もできない可愛らしい声を出しながら、目を擦っている。
「ごめんね、起こしてしまったかしら。……あんたらもするならどっか行け!」
白亜の竜へと謝罪を入れて、それから致している二人へと再び小石を投げる。なんでこの状況で平気で出来るんだとか、毎晩毎晩うるさいとか、まあ色々あるけど兎にも角にも怒りしか湧いてこない。
「ああ、君は耳が良いのでしたね。今日はここまでにしておきましょう」
「おやおや、まさか貴方様はこれ以上出来ないと……」
「何か?」
「いえ、滅相もない」
爺さんの相手であった、片目が花になっている女性がキツく睨むと爺さんは素直に静かになる。
なんなら行為の後始末を放り投げ最低限の身支度をして寝ようとする。
『起きよ、ギャラル……』
「うん?」
誰か呼んだだろうかと考え振り向くが、見張りをしていた筈の少年がギャラルを見てニヤついている以外は特に不思議なことはない。
『早く起きよ、ギャラル!』
身体が揺さぶられる。いや、そんなことあるだろうか。今ギャラルは普通に立っていて、誰かに支えられてる訳でもなければ、寝ている訳でも……
「ギャラル!!」
「わっ!?」
カバっと飛び起きる。何だ何だと辺りを見回して、知らない部屋だと気が付く。それもそうだ、初めて来た村で宿に泊まっているのだ。見慣れない景色でおかしくない。
部屋はほとんど真っ暗だ。辛うじて近くに誰かいることが分かる程度。
つまりだ、さっきのは夢だ。これまた不可解な夢を見ていたものだ。一昨日の宿で起きたことのせいだろうか、変なことを考えてしまったのか。ブンブンと頭を振り、自分のことを起こしてきた人物、つまりアンヘルへと話しかける。
「どうかしたの?」
「妙だとは思わぬか?」
「ん?」
アンヘルの言葉の意味が分からず首を傾げ、それから遅れて理解する。なんというか、静かだ。夜中だしみんな寝ているだろうが、それにしても静かだ。まるで、ギャラルとアンヘル以外いなくなってしまったかのような……
「かすてら……」
いや、それはない。ミュルの寝言で気を取り直す。普通に周りのみんなの寝息は聞こえる。
だが、それだけだ。例えるなら、世界が今いる広間しかないような、そんな違和感。
「……変ね」
「夕方の話を覚えておるか?」
「イチイバル達のこと?」
夕方、全員が戻ってきた後の話。既に熟睡していた人達は除いて、イチイバルの話を聞いていた。というのも、どうやら天使の教会についてはみんな知らなかったようだ。
まあ、近くにあんな教会が出来ているのだから、教会があるってこと自体は流石に知っていたのだが、それはそれこれはこれ。
「イチイバルがどれだけの人に聞いてきたかは分からぬが、この村の全員が近くの教会のことを知らぬなどあり得るのか……?」
「えっと、つまり?」
「我らは既に罠に捕らえられていると思った方がいい。確信したのはついさっきだがな」
身震いする。天使の教会がどれだけ狡猾で恐ろしいものかは身をもって知っているが、改めて実感させられる。
ただそれと同時に異音が一つ。それから遅れてパチパチという音と、焦げ臭い臭い。
「……火事!?」
「ああ、これは間違いなく火だな」
それからは早かった。慌ててみんなを起こして回る。実は先にアンヘルから起こされていたカイムも含めた三人で、全員を起こす。寝相の悪いミュルに蹴り飛ばされそうになるというアクシデントはあったものの、みんな起きて避難をする。
幸い火の手が大きくなる前に宿から抜け出し、その後火も信義の魔法で消化することが出来た。
それとほぼ同時だろうか、周りが急に騒がしくなる。一人の老人が駆け寄ってきた。
「何があったのだ?皆様、大丈夫ですかな?」
「はい、わたくし達は。でも宿の方が……」
火は収まったとはいえ、結構焼けている。戻って寝直すのはちょっと厳しいなというくらいには。
しかしアンヘルはこの時既に確信していた。今の火事も事故ではなく故意であるということを。それを裏付けるように、宿にはカイム達しかいなかった。
「……家に来ますかな。宿に比べれば狭いですが」
爺さんが言い終わる前だった。カイムが走り出していた。それも、古の覇王を握り。
「カイムさん!?」
「がッ!?」
驚く一行を無視し、カイムは爺さんの腕を斬り飛ばした。それから顔面を一発殴り、蹴り飛ばす。抵抗できぬ間に倒れた爺さんを上から踏みつけ剣先を向ける。
「あ、ああ〜……」
「そういうことですか」
ようやく事態を飲み込めたミュルとロンギヌスがそれぞれ武器を構える。
「そうか、何故気が付かなかったんだ……!」
「イチイバルさん?」
「アンヘル、これは罠だと言いたいのだろう?」
「天才と自惚れるなら、真っ先に気がつくべきだったな」
遅れて理解したイチイバルとロジェ、そして最後まであたふたしていた七支刀も大慌てで神器を構える。
「ぐっ……何故キル姫が天使の教会を仇なす!?天使は……天使を歌っては……!」
「何を……!?」
直後、爺さんの身体が急激な変化を起こす。暗い中なので、それに気がつくのが遅れてしまったが。
カイムがもう一度蹴り飛ばし、距離を取る。するとそこにいたのはもはや爺さんではない。レギオンだ。
同時に村の中で次々と爆発が起こる。分かりづらいが、レギオンの群れだ。更には赤い瞳が暗闇の中で揺らめいている。
「レギオン!?今まで何処に隠れて……」
「いえ、今なったのよ。この村にいる全員が」
「やはり嫌な予感ばかり的中するものだな」
『ふん。こいつらは全員信者ということか』
ならば、殺すのに遠慮はいらないなと、カイムは無意識の内に笑う。今までも散々レギオンは相手にしてきたが、ここまで明確に悪意を持ってる相手ならば尚更遠慮はいらない。
レギオンを殲滅するために、カイムは走り出す。