愛剣の一つを取り戻したカイムの勢いは凄かった。容赦なくレギオンを斬り捨て、次の獲物をまた斬り裂く。やることはそんなに変わってはいないものの、その速さと正確性が段違いだ。
アンヘルも慣れないながらも鉄塊を振り叩き斬る。剣術に疎く、腕力には自身がある彼女には鉄塊がちょうどいいと考え渡していたのが正解だったようだ。
暗闇の戦場の中で唯一存在しているのは、ロジェが咄嗟に作り出した炎だけだ。それを維持するのに集中しているので、ロジェを守るためにイチイバルとミュルが側で様子見しているが、あまり出番はなさそうだなと猛攻っぷりを見て感じる。
敵にレッドアイがいるため何やら陣形を組もうと動いているようだが、それ以上の速さで五人がレギオンを潰して回っているのでうまく連携が取れておらず、肝心のレッドアイも以前戦ったものとは違い外見はレギオンと相違ない。そんな見た目の通り強さもそこまでではないのだろう。強気に攻めてきたりはしない。
前線で大暴れするカイムとアンヘル、そしてロンギヌス。そして上空からの不意打ちに徹しているギャラルと、そんな四人を抜けて迫ろうとするレギオンを迎撃する七支刀。一見各々が好き勝手戦っているように見えて、自然と連携が取れている。
「あいつら強くない?」
「それだけ帝国との戦いが熾烈だったのでしょう」
小さな村とはいえ、村一つにいるだけの人間がレギオンになっただけあり数は多かった筈なのだが、もはや数えるだけのレギオンしか残っていない。
いい加減にレッドアイが鬱陶しいと感じたカイムはそちらへ一直線に走り出し、それに気が付いたレギオンの一体が食い止めようとするが、ギャラルが急降下し首を斬り落とす。
ギャラルが援護してくれるというのを理解していたので、特にそちらは気にしないでそのままレッドアイへと走る。流石にレッドアイも見ているだけなのは諦めたようで、迎撃の構えを取る。
真っ先に首を狙い剣を振るうが、左腕で受け止められてしまう。他のレギオンなら腕くらい軽く斬れたが、どうやら皮膚が硬化しているらしい。
更に右腕を振るい反撃しようとするが、カイムは咄嗟の判断で離れ、更に炎の魔法を飛ばし反撃する。幾つか放たれた炎の球はレッドアイへ向かっていき炸裂。しかし致命傷にはなったとは全く考えない。むしろ狙いは目眩まし。
また、魔法を放つ時にギャラルへとアイコンタクトをしていた。ちゃんと気がついてくれていたようで、挟撃の準備をしている。
煙を振り払ったレッドアイに映ったのは、低空飛行しながらも斬りかかろうとしているギャラルの姿。ギャラルの攻撃に合わせて腕を振り、拮抗させる。だがそれと同時に、カイムが背後から喉笛を貫いた。そのまま勢いよく剣を振ると、あっさりと首は取れ地に転がる。
そして、それが最後のレギオンだったことを確認してロジェは灯りを消す。戦いが終わったからというのもあるが、既に日が登り始めていた。
「この程度で我らを倒せると思ったか?」
吐き捨てるようにアンヘルが呟き、レギオンの腹に刺さった鉄塊を引き抜く。ロンギヌスも、最後に相手したレギオンの頭を兵士長の聖槍から振り落とす。
そして七支刀だが、地に膝を付き祈っていた。全ては天使の教会、ひいては神の仕業であり彼らの死そのものを冒涜すべきではない。そう思い祈っていたが、それを見たカイムが早足でそちらに向かい、蹴り飛ばした。
「カイム!?」
まさかの行動に元コマンド三人はギョッとするが、蹴られた七支刀本人は苦笑いしている程度で気にしなかった。
むしろ、こちらの世界で再開してからはやけに大人しいとまで思っていたので、ある意味カイムらしい行動をされて少しだけ安心しているまであった。
「敵に祈るな、祈っている時間があるなら戦え、ですか?」
『分かっているならするな』
「それでもわたくしはします」
カイムと七支刀が、少し好戦的な表情で睨み合う。ただ、お互い本気で怒っているような雰囲気ではない。
カイムからすれば、相変わらず気に入らない女だとは思っている。しかし旅の中で守る戦いを教えられて少しだけ丸くなったこともあり、この女はこういうやつなのだと諦めることが出来ていた。
まあ、それはそれとして気に入らないので蹴り飛ばしたのだが。
「揉めるのは後にせよ。ここから攻める時間だ」
「それはどうだろうね」
アンヘルの言葉に返事したのは、この場にいる誰でもなかった。全員驚きそちらを見ると、村の出口の方から一人のキル姫が。
「パラシュ!?……いえ、グラトニーね」
「エンヴィから聞いていたか。まあ僕が誰かという点は重要じゃない」
「ならば、何のために」
グラトニーは一度だけ深呼吸する。それからその場にいる全員に訊ねた。
「君達も天使の教会に加わらないか?君達の実力が本物なのは見させてもらったし、望むのであれば拒まないよ」
「ふざけたこと言わないで!誰が……!」
「ならば君達は人間の道具であることを望むのか?」
その問いかけに、一度静かになった。特にその質問に関係ないアンヘルとカイムは静観していた。その中で真っ先に答えたのは、イチイバルだった。
「確かにかつての世界にはマスターとキル姫という主従関係はあったかもしれない。けれどこのラグナロク大陸で、僕達キル姫と人間はよき隣人なんだ。その関係性を崩すつもりはないよ」
「それに、その代わりに神の道具になるのなら何も変わらないですよね」
言葉を続けたロンギヌスを、グラトニーがジッと見つめる。その瞳にあるのは、失望。
「それが嫌で友情ごっこに逃げたのかい?ひたむきに力を求めていた時の君の方が、幾分かマシだったと思うけどね」
「変わりませんよ。ただ、貴方が人間の道具になりたくないという消極的な理由で神に味方してるとは思いません。何故です?」
「大した理由じゃない。ただ神の理想に準ずる姿勢を評価しているだけさ」
良くも悪くもパラシュらしい、そんな答えが返ってくる。まあ、グラトニーのことだしその理想を食らいたいのでしょうと、ロンギヌスが心の中で呟く。
「神の理想、それは何だ?」
「知らないことはないだろう。ただ、人間のいない世界を作る、それだけさ」
「その為にこうも汚い術を取るか。それがお主の言う理想に準ずる姿勢か?笑わせる」
「まさしく神の道具である竜種に、それを理解する知能は求めていないよ!」
突然斧を構えたグラトニーが、赤黒いエネルギーを纏わせながら勢いよく振り上げる。エネルギーは波となりこの場にいる全員と襲いかかる。
七支刀が神器を巨大化させ、盾として構える。なんとか攻撃を凌げたが、収まった頃にはもうグラトニーの姿はなかった。
「人間のいない世界……それが神の目的」
改めて告げられた事実を、イチイバルはもう一度反芻していた。
なんて、くだらないだろうか。
一度はユグドラシルのためだと牙剥いたからこそ分かる。本当に、くだらない。
「あの時のロジェだったら着いてったんじゃないの〜?」
「ミュルグレスさんだって、酷いこと考えてましたよね!?」
「……昔話はそこまでにせよ」
言い合っていたミュルとロジェ含め、皆の視線がアンヘルへと集まる。確かな怒りをはらんだアンヘルへと。
「くだらぬ理想のために世界を破滅させようとした罪、償わせようぞ!」