ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第8節 黒の倨傲

 よくやく教会まで辿り着いたカイム達だったが、そこには門番が立っていた。目を閉じ斧を地面に突き立てて立っているグラトニーが、ゆっくりと目を開く。

 

「なるほど、君達が残ったんだね」

「貴様と話すことなどない。疾く失せよ」

「そうはいかないんだ」

 

 グラトニーが血のような赤い刃を持つ漆黒の斧、黒葬斧を持ち上げ構える。その様子を見たロンギヌスは覚悟を決めた。

 

「私がグラトニーの相手をします。カイム、ギャラル、アンヘル。三人は中へ入ってください」

「ロンギヌスでも、一人じゃ流石に危険だわ」

「構いませんよ。どうせ既に二度死んだ身ですから」

「でも……」

 

 カイムとアンヘルはともかく、どうしても心配なギャラルが渋る。

 しかし本来の歴史であれば敗北し、また"敵"に殺される目前だったこともあって、自分を生者だと思えないロンギヌスはそこまで心配されることもないなと考える。

 

「いいから行ってください」

「覚悟を無駄にするつもりか?」

「……分かったわ」

 

 四人が何やら話している様子を見ていたグラトニーだったが、全員がグラトニーへと視線を移したことを確認する。

 

「作戦会議は終わりかい?まあどうせ君達はみんな僕に食われることになるけどね」

「いえ、グラトニー。貴方の相手は私一人です」

「何?」

 

 ロンギヌスが槍を突き刺し氷を放つ。氷が波のように侵食していきグラトニーへと迫るその瞬間、悪魔の血を纏わせた一撃でグラトニーは粉砕する。エネルギーは鉤爪のようになり、氷など容易く砕ける。

 しかし氷の波が崩れ落ちたその後に残っていたのは、ロンギヌスたった一人だけだった。

 

「ちっ!」

 

 今の一瞬で突破されたのか。驚き半分でチラッと教会の入口を見たその瞬間、ロンギヌスが猛スピードで突貫しその身体を貫こうとする。その一撃は斧の腹で受け止めるが、威力に堪えきれずにグラトニーは吹き飛ぶ。

 悪魔の血を失ってしまったエンヴィに、これほどの力が?これはまるで……

 口には出さないが驚愕の色に顔を染める。

 

「なるほど、君のことを侮っていたようだ。強さという理想を捨てた弱虫と言ったこと、謝らせてもらうよ」

「嫉妬の業がなくても、私は強くなれます」

 

 それはロンギヌスが一人で天使の教会へと潜入したときのことだ。あくまで武器を手に入れるのが目的だったので、グラトニーの追撃からも逃げるだけだった。だからこそ、戦うことから逃げた、強さから逃げ出したとグラトニーは思っていた。

 しかし今、ひたむきに強さを求めていた時の君の方が、幾分かマシだったと言っていた時の落胆の表情はそこにはない。道は違えどロンギヌスなりの理想を捨てずにいる彼女を、好敵手として見ていた。

 

「ならば暴食の業の前に食われることだね」

 

 キル姫らしい、戦いへの快楽を一切隠さない凶暴な表情でグラトニーは飛びかかる。高く飛び風を纏わせ、絶大な威力の一撃を放とうとする。

 普通なら避けるであろうその攻撃を、あえてロンギヌスは真正面から受けた。同じ氷を纏わせ、振り下ろされる斧へ目掛けて槍を突き出す。

 とてつもない威力のぶつかり合いにロンギヌスは勢いよく吹き飛ばされる。グラトニーも斧を握る手へと反動が来て、一瞬だけ斧を手放してしまいそうになる。

 しかしグラトニーが気にしていたのはロンギヌスよりも、ロンギヌスの握る槍の方だった。これだけの威力のぶつかり合いを起こしてなお、傷一つ付いてない。

 

「君の神器、そんな形状だったかな?」

「……なるほど、神器と言われると納得できますね」

 

 ロンギヌスも笑いながら立ち上がる。本来は戦いを望まない優しい性格のロンギヌスだが、エンヴィとして人格が一度変化を得て好戦的になっているからこそ、純粋にこの戦いを楽しむ気持ちがあった。

 更にグラトニーの指摘にも、素直に頷く。この武器を、兵士長の聖槍(The Spear Longinus)を一目見た時から感じていた感覚は、まるでこれにキラーズが宿っているかのように感じていたのだと納得する。

 互いが互いの強さを認め、ニヤリと笑う。一瞬の静寂のあと、それから先に手を出したのはグラトニーだった。斧を勢いよく地面へと叩きつけると、衝撃波が地面をえぐりながら迫っていく。

 ロンギヌスは腰を落とし深く構えると、あえてその衝撃波の中に飛び込み真正面からの一撃を放とうとする。衝撃波の中を貫くその一瞬で、全身が傷だらけになるが気にすることなく突き進む。

 まさかの判断に驚きながら、グラトニーは斧にもう一度悪魔の血の力を溜める。しかし驚きで僅かながらも対応が遅れたせいで、真っ直ぐ飛んでくるロンギヌスを迎撃することが出来ない。諦めて防御に徹するが、それさえも貫かんとばかりの重い一撃が突き刺さる。

 更に、ロンギヌスが頭部か心臓を狙ってくると考え構えていたせいでうまく防御することが出来なかった。ロンギヌスが狙っていたのは脇腹。かつて聖人の脇腹を突いたとされるロンギヌスだからこその一撃。衝撃を殺しきれず、今度こそ斧は弾かれてしまう。

 しかしそこからの判断は早かった。全速力でロンギヌスが突っ込んできたせいで、その一撃を放ったあと退くのが遅れる。その隙に全力の拳を腹に叩き込む。

 

「がッ!?」

 

 決して体術への精通している訳ではないが、力には自身のあるパラシュが放った一撃は重く、ロンギヌスの身体をくの字に曲げる。もう一撃を狙おうとするが、ロンギヌスは殴られた勢いで槍の柄をパラシュの脇腹へぶつけていた。

 

「ぐッ!?」

 

 二人共よろめいて、それからグラトニーは斧を拾おうと視線を反らしてしまう。その隙を見逃すはずもなく、ロンギヌスは飛びかかりグラトニーを押し倒す。それから槍を持ち上げ、その脳天目掛け……

 

「………?」

 

 反射的に目を閉じてしまったグラトニーだったが、何も来ないことに違和感を覚え目を開ける。槍の刃先はグラトニーの眼前で止まっていた。

 僅かばかりの静寂。しかし思い出したかのようにグラトニーが動く。怒り任せに、今度はグラトニーがロンギヌスを押し倒した。そして首を締める。

 

「目の前の敵一人殺せないなんて、随分と弱くなったね!」

 

 グラトニーは今度こそ大きな落胆と失望を感じていた。確かにロンギヌスは以前よりも強くなったように見えていたが、キル姫として、武器として弱くなってしまっていた。同じキル姫を殺すことに一切の躊躇がなかったあのエンヴィが。

 しかし、ロンギヌスの首を締めながらもエンヴィは困惑をしていた。流石に苦しそうにはしているが、それでも笑っていたからだ。自分のことを殺せず、そのせいで逆に殺されそうになっているこの状況で。ついに頭がおかしくなってしまったのかと思ったが、ロンギヌスの手が優しく自分の手に触れる。混乱がますます大きくなり、ついには締める手の力を緩めてしまった。

 

「何なんだ、君は……」

 

 ロンギヌスがゆっくりと息を整えて、それから喋りだす。

 

「貴方は、私達が友情ごっこをしていると言いましたよね」

「それが何だい?事実だろう」

「カイムという男が、そんなことをするような人物に見えますか?」

 

 グラトニーが知っているのは、カイムは契約者であり、とてつもない力を持っているという点だけだ。それは神から教えられた事実であるが、人物像については全く知らない。知る必要もないからだ。

 

「カイムは復讐と殺戮のため。レオナールは贖罪と正義感で。アリオーシュは狂乱と食欲、セエレは妹探しと勇者ごっこ。ヴェルドレは神官長としてと言いつつも、本当は一人じゃ何も出来ないから。ギャラルはカイムのことを大して知らないのに依存しているし、七支刀だけ本気で世界を救おうとしていて滑稽でした」

「……」

 

 ロンギヌスが何を語ろうとしているのかが分からない。興味半分、混乱半分のまま続きの言葉を待つ。

 

「みんな自分勝手だったんです。そんな中でも、本当なら敵である私をみんなは受け入れました。とても奇妙な旅でした」

「それは、都合が良かったからじゃないのか?」

「そうですね。でもそれは私達ブラックキラーズも同じ。神の命令だからこそ一緒に行動しただけで、心に抱えているものは違う。お互い利用するだけの関係性」

 

 そう言われれば、似たものなのかとは思う。もちろん、彼らの旅路を実際に見てきた訳では無いので、あくまでロンギヌスの言う通りならという点。

 

「でも、一つだけ違うのは、みんな誰の道具でもないということ。誰に命令されるわけでもなく勝手に集まって、違う意思を抱えながらも同じ道を歩んだ。グラトニーは、パラシュは、どちら側ですか?」

「何が言いたいんだ」

「神の道具として戦うか、皆の理想と共に戦うか、どちらですか?」

 

 ロンギヌスは笑みを絶やさない。今ロンギヌスは、エンヴィはパラシュを説得しているのではない。挑発しているのだ。神の理想とか言っているけど、結局今のお前は神の道具でしかないんだぞと。お前の大好きな理想とやらは、その程度なのかと。

 

「かつて同じ神の道具として戦ったからこそ、理想を重んじる貴方が神の道具のままであること、納得出来ないんですよ」

 

 神の側と、カイム達では本質的な所は同じなのだ。違いは道具なのかそうではないのかの違いしかない。それでもお前は道具であることを選ぶのかと。

 ふっとパラシュは笑った。確かにパラシュ個人にとって、この世界の人間を絶滅させることへの興味はない。パラシュ個人の理想はそこにはない。

 パラシュが横に倒れる。ロンギヌスと並ぶように、地面へと転がる。

 

「君の理想に免じて、ここは引き分けにしようか」

「私が勝ってませんでしたか?」

「いや、トドメを刺せなかったのだから勝ちはないだろう」

「ならば今からでも再開しますか」

「それは……やめておこう」

 

 二人の負けず嫌いが笑う。ふざけて言い合っているが、実のところ二人共限界である。

 塩の降る空を見上げながら、二人はゆっくりと瞳を閉じた。

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