カイムを先頭に、三人は教会の中を走る。しかし教会の中は不気味なほど静かだ。
広いが特に構造が複雑ということはない。真っ直ぐ進んでいく先にあるのは祭壇。その中央に、ティルフィング、いやグリードが佇んでいた。
「何故人間を助けようとするのです?」
三人を、いやカイムとアンヘルの二人を見つめながらグリードは問いかける。
「さてな。敢えていうのならば、愛故か」
「……そんなくだらないもののために、竜が人に味方を?」
「見ているだけでは解らぬものよ。我も愛がここまで複雑で面倒で、愛おしい感情とは知らなかった」
「ねえ、それよりもどうしてグリードは神に従うの?」
グリードとアンヘルの問答を遮り、ギャラルは問いかける。出来ることなら話し合いで解決したいという意思がそこにはあった。
すべての元凶は神であり、従わされているだけなら彼女に罪はないと信じたいから。
「貴方は、この世界を救えると考えてますか?貴方なら分かるはずです。こんな世界、一度終わらせた方が幸せなのだと」
「ギャラルも考えたことがあるわ。でも、それは真に幸せじゃないと教えたのはティルフィング達じゃない!ティルフィングの貴方がそんなこと、言わないでよ!」
「……世界は滅ぶ。その事実は変わらない」
毅然とした態度で語るグリードだが、その瞳の奥には僅かながらの悲しみが見えていた。ギャラルは何て言えば分からずに、口をパクパクさせるものの結局言葉は何も出ない。
その様子を見かねたアンヘルが代わりに言葉を発する。
「その諦めは覚悟か、或いは逃避か」
「何?」
「賢者は戦いより死を選ぶ。更なる賢者は生まれぬことを望む。……貴様は自らが賢者になったと考えているようだが、時には大馬鹿者になったほうが救われることもある」
誰が大馬鹿者だと反論したげなカイムだが、本気で怒っている様子はない。カイムもまた、馬鹿げたことをしていると自覚した上でここに立っている。
「確かに大馬鹿者ですね。貴方がたは何も分かっていない」
「ああ愚かだとも。愚か故に、愛になど縋るのだろうな」
アンヘルは鉄塊をカイムへと放り投げる。それを受け取ったカイムは静かに構える。もう話すことはないと言わんばかりに。
「待って!まだ話は……」
困惑するギャラルをよそにグリードも構える。
「……見せてください。私一人倒せないようで、何か出来るとでも?」
「なんで、なんでそうなるのよ!」
やりきれない気持ちを胸に、ギャラルも諦めて月光と闇を構える。彼女の瞳に映る諦観と覚悟は、言葉で揺るぐことはない。
アンヘルは炎の球を生み出し無差別に撃ち出すと同時にカイムは走り出す。続いてギャラルも走り出す。炎の球は簡単に切り払われ、カイムの斬撃も軽くいなされる。カウンターで拳を叩き込みながらもギャラルの剣も防ぐ。
するとグリードの身体が突然床に沈み始める。床に広がる黒い空間。それを床と表現するのが正しいのかさえ分からない。その空間に消えてしまったので、攻撃なんて出来ない。
直後、アンヘルは足元へ僅かな違和感を覚える。咄嗟に飛び退いた瞬間、グリードが飛び出しながら素早い斬撃を放った。少しでも遅れていたらアンヘルの身体は真っ二つになっていただろう。
その上でグリードは外したことを認知すると、天井を蹴りもう一度アンヘルへと攻撃を仕掛けようとする。しかし目の前に火柱が上がりグリードの身体は吹き飛ばされる。ギャラルの魔法だ。
更に落下地点目掛けてカイムは走り、重たい一撃を食らわせようとするが、落下しながらも体制を整え直撃を防いだ。床に立つが、更にいつの間に背後へと回っていたギャラルが、大上段からの一撃を浴びせようとするが、再び暗闇の中へと沈んでしまう。
次は誰を狙うのか。警戒する三人だったが、今度はカイムの足元から現れる。素早い連撃を放ちながら出てきたグリードだが、今度は飛び上がることはなくそのまま怒涛の連撃を浴びせる。カイムは全て鉄塊で防ぐものの、華奢な腕から放たれているとは思えないほど重く的確な連撃に、腕が耐えきれない。
アンヘルが一撃の威力を高めた火球を放ちグリードの妨害をする。直撃すれば不味いと判断し、振り返りながら一閃。しかし火球は爆発を起こす。
直後、挟み打ちの形でカイムとギャラルの刃が迫る。しかもカイムは足元を狙っている。三度も同じ手は使わせないために。
グリードの剣はカイムの剣を受け止め、ギャラルのことは蹴り飛ばした。見事に顔面に蹴りが直撃し、その勢いで吹き飛んでいく。
しかし蹴るために片足を浮かせたのなら当然、受け止める力が減ってしまう。鉄塊の重さも乗せた全力の一撃は、グリードの体制を僅かに崩す。しかしそれで十分だった。その一瞬で古の覇王へと持ち替え、先程のお返しとばかりに連撃を放つ。
更にアンヘルの大魔法がグリードを追撃する。剣へ悪魔の血を纏わせ、全力の一撃でカイムを強引に弾き、連撃で大魔法さえ防ぎ切る。
それから更に、グリードはもう一撃を放つ。しかしそれは誰もいない方向へと放たれた。教会の壁が崩れ外が明らかになる。
グリードはそのまま外に向かって走り出ていく。閉所での戦闘は不利だと感じたのか。カイムが慌てて追いかけると、漆黒のドラゴンの背に飛び乗る彼女の姿が。そのままドラゴンは炎を放ちカイムを焼こうとする。
全力で跳び、何とか炎から逃れる。しかしその黒いドラゴンの姿は、カイムの中からかのブラックドラゴンを想起させるのに十分だった。国を襲い両親を殺し、狂ってしまった親友を乗せたあのドラゴンを。
続いて飛び出したアンヘルと、遅れて来たギャラルも状況を認識する。
しかし、カイムとアンヘルの視線は一度ギャラルへと向く。
「待て、それは……」
ギャラルが首からかけているのは巨大な笛。神器ギャラルホルン。持ってなかった筈のそれを手にしていることに驚く。
「偶然見つけたのよ。教会に隠されてたなんてね」
吹き飛ばされた先でキラーズの気配を感じ、ついでに回収してきていたのだ。
グリードとドラゴンを追撃するためアンヘルも竜の姿へと変身する。二人が背に乗り、空へと舞い上がる。