ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第3節 檻の中

 ギャラルは何をするでもなく、ただぼんやりと座っていた。近くでカイムが素振りをしている。体力に余裕されあれば、すぐに素振りを始めるのは、凄いなあと考える。

 何となく隣を見れば、七支刀も同じく座っている。目を閉じて何か考えているようだが、それが何なのかまでは分からない。

 本当なら、ギャラルも作戦のために説得して回る役をやりたかったのだ。魔素を裏側を通じて還元させるのはいいが、この世界の魔素全てを裏側へ送り込まないといけない。だから、作戦の規模も大きくなる。なので、借りれる限りの力を借りないといけない。

 しかし、キル姫への誤解と反感は完全に解けたわけではない。危険も付き纏うから、ギャラルは作戦の時まで休んでいて欲しいと言われてしまったのだ。最初はそれでもやると押し通そうとしたが、誰も認めてはくれなかった。

 

「カイムは、いいわよね」

 

 素振りに没頭しているカイムを見て、呟く。ああやって一人で時間を潰せるし、素振りとはいえあれだけ行っていれば強さにも繋がるのだろう。

 

「ギャラル様も、してみたらどうですか?」

 

 今まで口を閉じていた七支刀が、ようやく口を開いた。その言葉に悪意は一切ない。

 

「休めって言われてるのに、体力使うのも変だわ」

「身体を休ませるのも大切ですけれど、心も休まないと、ですよね?」

 

 七支刀が立ち上がり、ギャラルの手を引き立たせる。手にはいつの間に持ってきていたのか、二振りの木刀があった。

 

「わたくしから挑戦させていただきますよ」

「……もう!分かったわよ!こてんぱんにしてあげるんだから!」

 

 七支刀から挑んだのだから、ギャラルが休むという言いつけを無視したのではない。そういう理屈でやらせようとしている。

 それを理解したからこそ、遠慮するつもりはない。それっぽい理由付けて挑んできたことを後悔させてやろうと、全力で挑む。

 二度三度、木刀同士がぶつかり合う音がする。カイムは素振りをやめて、ギャラルと七支刀の"決闘"を見守ることにした。

 

「心配なら、気にしてやればいいだろう」

『あの子に必要なのは、俺みたいな人間じゃないだろう』

 

 側で見守っていたアンヘルへ、カイムは答える。一度はフリアエのために、二度はギャラルのために世界を救おうとはしている。けれど、そこに大義があるわけではない。心から人々の幸せを願っているギャラルとは、対極の位置にいる人間だ。

 そんなカイムの心情に、アンヘルはため息を吐くしかない。この男は気がついているのだろうか。殺戮への衝動を、復讐という理屈で正当化させようとしたことと、同じことをしているのに。ギャラルを純粋に想うことを恥ずかしがって、自分はギャラルに相応しい男ではないと理屈を掲げ諦めようとしていることに。

 何度目の攻撃か。特に技とかもない、力まかせの攻撃が七支刀を狙う。しかし、一歩、また一歩と引きながら確実に攻撃を受け流している。剣筋には、意外と感情が乗りやすい。まして、ギャラルは元々剣に精通しているわけではない。尚更崩れやすいのだ。

 有効打を出せないことに焦れたギャラルが、大上段からの重たい一撃を放とうとする。しかし大技を放つ時というのは、どうあがいても隙が出来るもの。受け流しながら足を引っ掛けると、ズルリとギャラルの上半身が落ちていく。慌てて身体を起こそうとするが、ギャラルの首へ木刀の刀身が当てられる。

 

「わたくしの勝ちです」

「………ふん!」

 

 ぷいっと顔を背けて、木刀を放り投げ、地面に寝っ転がる。塩が目に入らないようにフードを目深に被る。

 誰がどう見ても分かるくらい、不貞腐れていた。

 

『……子供だな』

 

 ここ数日、カイムから見てギャラルは子供っぽい言動が増えた気がする。ミッドガルドからこちらの世界に来た直後も似たようなことを思っていた気がするが、まあ、それは悪いことではないのだろう。ギャラルの精神年齢は見た目通りであり、むしろ今までが大人しすぎたのだ。

 

「放っておくつもりか?」

『ほっておけばその内機嫌も直すだろ』

 

 七支刀は、ギャラルが投げた木刀を回収してから、今度はカイムの方へ歩いてくる。

 何だかんだ付き合いは長いが、やっぱりカイムは七支刀という女が嫌いだ。偽善者ぶっているのもそうだが、いまいち掴み所がないのも相手していて苦手と感じる。

 

「やっぱり、ギャラル様を元気づけられるのはわたくしではなくて、カイム様です」

『ミュルグレスの方がいいんじゃないのか』

 

 特に皮肉とかではなく、素直にそう考えた。レッドアイを殺し塞ぎ込んでいたギャラルを叩き起こしてきたのは、間違いなく自分ではなくミュルグレスだ。

 説得するのが得意そうには見えないし、単純に相性がいいのだろう。

 

「我がエンシェントドラゴンを超えられたのは、お主のお陰だ。伝説へ無謀にも挑んだ大馬鹿者が、小娘一人に怖気づくか?」

『……!』

「わたくしは、決してカイム様が善い人とは思ってませんが、常に前線に立ち戦う姿はかっこよかったですけどね」

『お前はもっと積極的に戦えばどうだ?』

 

 二人に煽られて、流石にカイムも見て見ぬふりは出来なかった。少しの間。覚悟を決めて、ギャラルへと歩き出す。

 

「何よ?」

 

 もちろんギャラルには、先程のやり取りは全て聞こえていた。けれど、あえて知らんぷりする。

 すると、カイムが急に手を引いて立ち上がらせる。また"決闘"でもするつもりかと目を逸らしたままでいたが、次の瞬間ギャラルの感情はぐちゃぐちゃになった。

 ぎゅっと、優しく、でも力強く抱きしめられた。カイムとの身長差に、改めて自分が子供だと実感させられる。でもそれ以上に、胸の鼓動が収まらない。それはカイムも同じだということも伝わってくる。

 いつまで抱き合っていたのか。それからカイムはギャラルの手を引いたまま歩き始める。

 

「カ、カイム!?何処に……!?」

 

 ずかずかと歩いていくカイム達を、二人、いや三人は見守っていた。

 

「……あれ?」

 

 想像とは違う方向に進んだと、七支刀は思っていた。ギャラルがカイムに好感を持っていることには気がついていたが、カイムがギャラルを女として好いていることは知らなかったのだ。

 

「初々しいですね……」

「ひゃっ!?ロジェスティラ様!?」

 

 いつの間にそこにいたのやら、恍惚とした表情で立っているロジェに驚く。

 

「何のようだ?」

 

 アンヘルが聞くと、真面目な顔に切り替えて話し始める。

 

「段取りが決まりましたので、皆さんにもお伝えしようと思ったのですが。……明日でも大丈夫ですが」

「ああ。夜は長いだろうな」

「ですよね!」

「……?」

 

 具体的に何とは言わずとも、どうやら通じ合っているようで七支刀は目をパチクリさせる。

 

「それとですね、エンヴィさんとグラトニーさんを見かけませんでしたか?出来ればお二方にも参加してもらいたいのですが、何処にいるか分からなくて」

「知らぬな。今から少し探してもよいが、あまり期待はするな」

「わたくしもお手伝いします。……何処に行ってしまったのでしょうか?」

 

 アンヘルも七支刀もロジェも、天使の教会との戦いの後、二人が姿をくらましてから一度も見ていない。

 これからどうするか考えたいというグラトニーと、それに付きそう形で付いていったロンギヌス。今更神に寝返ることは誰も心配していないが……

 少しづつ、最後の戦いへと日は迫っていく。

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