ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第4節 最終兵器

 パラケルススが咳払いをする。各々が最後の作戦へ向けて休息は取った。もう、やることは一つだ。

 

「ちょっと待って。なんでパラケルススがいるの?」

 

 街の中。改めて作戦の説明をするということで、多数が集まっている。……そう、街の中。だからミュルは質問をした。

 

「ここ数日、神の声が聞こえなくなってね。白塩化症候群に新たに掛かった人がいないというのも、みんな知っての通りだろう」

 

 天使の教会を落としてから何日経った後だったか。パラケルススを洗脳しようとしていた神の干渉が失われていた。もしかしてと思って確認した所、新たな白塩化症候群の患者がちょうどその日から出ていない可能性が高い。流石に世界の隅から隅まで確認を取る術はないが、どちらにせよほとんどいないという一点に間違いはない。

 

「神は諦めたのでしょうか?」

「いや、むしろこれは嵐の前の静けさだと思うべきだ。あの性悪が素直に身を引くとは思えぬ」

 

 アンヘルはカイムとギャラルを尻目に、楽観的な発言をした七支刀を咎める。

 これから真面目な話になるというのに、二人共周りの目を気にせずにくっついている。今までが中途半端な関係だったからなのか、結ばれた途端これである。特にギャラルが甘えたがるのは分からないでもないが、カイムもデレデレなのが仲がよくなくとも察せられるレベルだ。

 

「エンヴィとグラトニーは?」

「それっぽい二人組を見たという話はあるが、連れてくることは出来なかった」

 

 曰く、ユグドラシル方面へ向かっていったそうだ。あの二人がこのタイミングで行動を起こしたのは気がかりだし、追うべきではあったのだが作戦の日程へ影響が出そうだったので諦めた。

 何しろ、今回の作戦には人類のほとんどが関わることになる。おいそれと日程は変えられない。

 

「……そうか。作戦を確認しよう」

 

 ロジェスティラが合図をした後、各地にいる魔術師に特定のポイントを狙って風を起こしてもらう。一人一人が起こせる風は大したことないが、相当数が参加するので嵐くらいの風にはなることが想像される。

 なので、家屋への被害を可能な限り減らすために上空へ裏側へのゲートを開くことになる。マナナンとマクリル、そしてカイムがアンヘルで上空へ生き、風が来るまで待機。来たタイミングで開く。

 ゲートの下部でロジェスティラが、ゲートへ風が向かうように制御。そして、魔術を使えるものがいなくなればそれでおしまい。

 魔素を用いた魔術なのだから、それが唱えられる者がいなくなった時、魔素の大半を排除することが出来たことになるだろう、という理屈。

 と、流れはそこまで難しくない。問題は神が無抵抗でその作戦を通すとは考えられないことである。

 一つはレギオン。数は減ったとはいえ完全にいなくなった訳ではない。そこは魔術師と同様、各地の戦力を合わせて抵抗することになる。

 そして一つはゲート。マナナンとマクリルを操れなくなった以上、神が裏側を使える最後のチャンスとなる。何か仕掛けてくる可能性は非常に高い。なので、キル姫全員がロジェスティラと同じくゲート下部で待機し、迎撃を行うというもの。

 作戦が終われば当然ゲートを閉じる必要があるので、アンヘル達にはゲート付近の上空で待機してもらうことになるが、ゲートから襲撃されるとしたらかなり危険だ。それでもカイムとアンヘルの実力はみんなよく知っているので、彼らに任せることにした。

 

「仮にだが、この作戦が失敗すれば二度はないと思ったほうがいいだろう」

「……風を起こすだけなら、いつでも出来ないかしら?」

 

 ギャラルが素朴な疑問を出す。待機組だったからこその疑問だ。

 

「いや、今回の作戦は信用問題なんだ」

「?」

「僕達が本当に敵ではなくて、本気でラグナロク大陸を取り戻そうとしている。それを各地の人々に信じてもらって、協力を得た」

「世界の為にどれだけ貢献したとて、知らねば英雄にはなれぬ。人間とはやはり、面倒なものだな」

 

 アンヘルがいつも通りの憎まれ口を叩くが、そこに悪意はない。言葉は相変わらずだが、喋り方がいつもより優しいものだとカイムとギャラルは気がつく。

 

「まあミュルにはカステラという報酬があるからね。その分は働くよ」

「全く、にゃんころは素直じゃないね」

「?………あ!?今ミュルのことなんて言った!?」

 

 そのあだ名で呼ばれることが久々すぎて、理解が遅れながらもぎゃーぎゃーとミュルは抗議。しかしイチイバルもミュルも、見守っているロジェも楽しそうにしている。長らく解決策も見つからず、仲間も失いずっと緊張の糸が張っていたのだが、平和が目前に迫っているという事実が少しだけ心を和らげたのだろう。

 

「……ほんと、楽観的だね」

「いいじゃないですか。下を向いたままでいるよりも、前を向いていた方がきっと幸せです」

 

 呆れながらも微かに笑みを浮かべるパラケルススと、いつぶりに見たか分からない平和な光景に安堵する七支刀。

 しかし、そんな時間は終わりを告げる。

 

「さて、これが本当に最後の休息だ」

 

 ズルズルと、マナナンがマクリルを引きながらやってくる。約束の時間通りなので特に問題はないが、何で引っ張られてるのかと周りは疑問を浮かべる。

 というのも、マクリルは流石に緊張していた。マナナンと再開して少しだけ明るくなったとはいえ、世界の命運を握る今回の行為からはちょっと逃げ出したかった。

 

「そんな怖がらなくても大丈夫だよ。喜劇的なことが待ってるって!」

「う、うぅ……」

 

 相棒を恨めしそうな顔で見てから、色々と諦めた。やらないわけにはいかない。

 

「アンヘル、カイム。頼む」

「承知した。……が、暴れたら振り落とすかもしれぬぞ?」

 

 落ち着きのないマナナンを睨んで警告する。はいはーい大丈夫でーすと本当に大丈夫か怪しい返事を聞きつつ、アンヘルは竜の姿へと変身する。

 アンヘルの背に三人が乗る。そこにギャラルが追いかけて、カイムへ手を伸ばした。アンヘルが察して背を低くする。

 

「カイム。気を付けてね」

『心配するな』

 

 完全に男と女の関係になってるな〜とロジェが内心思うが、特には言わない。

 アンヘルが勢いよく飛び立つ。赤い身体が小さくなっていく。それと同時に、全員が移動を始める。流石に街のド真ん中で戦闘する訳にはいかないので。

 少し離れた所にある、空き地。平地なのでここの辺りがいいだろうと予め目星は付けておいた。特にイチイバルは狙撃ポイントを先んじて調べてある。

 そうしてその上空で、アンヘル達が停止する。イチイバルが腕時計を見て、時間を待つ。三つのが12に触れた瞬間、イチイバルは叫ぶ。

 

「ロジェ!」

「はい!」

 

 ロジェが信号弾代わりの魔法を空に放つ。ロジェの信号弾を見た者達が、更に遠くの者へ伝えるために信号弾を放つ。その繰り返しで世界中へと、作戦の開始が告げられた。

 

「始まったか。……そなたらの仕事だぞ」

「うんうん。やるよ!」

「……!」

 

 二人が上空へとゲートを作り上げ開いていく。その間にも風が吹きすさぶ。カイムは風で暴れる髪を抑えながら、現れるであろう脅威を見るために目を逸らさずにゲートを見続ける。

 そして、少し大きめの空間の裂け目が出来上がる。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……!?」

 

 アンヘルはすぐに異変に気がつく。空気が震えている。風の影響とは全く違うなにか。恐ろしいまでの魔力を秘めた存在が、裏側から顕現しようとしている。

 それはエンシェントドラゴンと対峙した時か、"敵"の母体と対峙した時か。或いはそれ以上かもしれないだけの、潜在的恐怖がアンヘルを襲う。

 カイムが首元へ手を伸ばし、抱きつくようにして暖める。しかしそのカイム手も僅かに震えていた。

 

「こ、これは……?」

「だから嫌だったのに」

 

 マナナンとマクリルも、裏側を通過しようとしている何かへと驚きを隠せない。

 そうして、劇場の幕は上がる。いや、むしろその幕を突き破るようにして現れたモノ。その姿を見た全員が、驚愕と困惑に襲われる。

 

「「「「「「「「「ウワアアアアアアア!!!」」」」」」」」」

 

 絶叫を上げながらソレは、複数の巨大な球体が連結していた。複数の脚が生え、まるで百足のようになっていた。笑顔にも見えるような、恐ろしい顔を付けていた。

 ソレは、世界への、絶望を撒き散らしていた。

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