ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第5節 エミール/絶望

「「「「「皆!ミンナ!」」」」」

「「「「消エテシマエ!!!」」」」

 

 誰もの想像を上回る異様な存在に、全員が竦む。羽の類は付いていないが、それは浮遊していた。空を徘徊しながらも、弾を降らせる。雨のように降り注ぐそれは住宅街へ降り注いでいく。

 一つ一つはそこまで大きくないが、凝縮された魔素は地面に触れる度弾けていく。住宅街だった場所は、あっという間に更地へと変わっていく。

 

「何だあの化物は!?」

「助けてくれー!」

「いやあああ!」

 

 ギャラルの耳に届くのは、悲鳴。悲鳴、悲鳴、悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴。そして、嘆き。

 

「このぉ!」

 

 イチイバルが矢を番え、ロジェが攻撃するための魔法を唱え始める。アンヘルは火球を吐き、マナナンとマクリルもそれぞれ魔弾と魔法をぶつけていく。

 正気を取り戻したギャラルも、慌てて神器をかき鳴らす。

 

「わたくしは避難誘導をしてきます!」

「あーもう!ミュルも!」

 

 想像していた遥か上を行く脅威。人々の自衛など全く意味をなさない。今回の作戦を聞いていても、個人の都合で街から離れられなかったものも多数いる。

 それでも敵の誘導はできると踏んでいたが、その程度の敵ではなかった。

 その間にも、放たれた全員の攻撃が敵へと命中する。しかし、外傷は全くない。そもそも本当に当たったのか、自分の目を疑いたくなる程度には。

 

「僕が全力の攻撃を撃つ!ロジェも合わせてくれ!」

「はい!」

 

 イチイバルが番えた矢、いや光そのものが収束していく。ロジェの周りに業火が吹き上がる。敵は巨大なせいで感覚は狂うが、かなり移動速度が早い。確実に命中させるために、二人共神経を研ぎ澄ませる。

 アンヘルも上空への待機をやめて、二人の攻撃に巻き込まれないように迂回しながら合流することにする。

 

「こんなに離れると閉じられないよ?」

「人のいない世界、守っても仕方なかろう!」

 

 炎で牽制しながら距離を取る。そこへ、二人の放った一撃は叩き込まれた。

 光が空を照らした。舞い散る塩が延焼し空が燃えた。吹き荒れる上空で炸裂した二人の技は、神々しい光景を生み出した。

 

「効いたか!?」

「いや、どうだ……」

 

 爆煙の晴れた空には、相変わらず敵が浮かんでいた。しかし、やはり傷らしきものは見えない。

 しかし視線はイチイバル達へと注がれていた。そこで初めて脅威だと認識されたのだ。

 

「来るぞ!」

 

 反撃が来る。そう思ってみな身構えたが、違った。それは分裂した。繋がっていた九つの玉は全てバラけ、四方へと散り地上へと落ちてくる。

 

「ちょ、ちょっと〜!?」

「させません!」

 

 その一つが、ちょうどミュルと七支刀、そして逃げ遅れた避難民のいる方向へと落ちてきた。励起した神器は激しく回転を始め、暴虐と化した風が降ってくるそれへと直撃する。

 あくまで自由落下していただけだったようで、方向がズレて人がいない所へ着地する。

 しかしそこでまた恐ろしい事実に気がつく。分裂した玉全てに、同じ顔があることに。

 

「みな伏せよ!」

 

 空から観察していたアンヘルが、地上の全員へと警告する。アンヘル自身も、降りていた所を急旋回して少し飛び上がる。そして、次の瞬間。

 

 光が走った。そして轟音と共に薙ぎ払われた。

 

 何が起きたのか。伏せていたパラケルススが顔を上げると、そこには……何もなかった。いや、残骸と、近くにいる仲間達だけがそこにあった。

 

「は……?」

 

 唖然とする。地形が書き換えられたと言われたら、そうだと納得できる程度には恐ろしいことが起きた。

 

「ま、まま……?」

 

 七支刀が咄嗟に庇った、腕の中にいる少年が声を漏らす。決して戦場になんか慣れていない一般人が、アンヘルの警告で間に合うはずもなく。

 首から上が抉り取られた挙げ句、身体も耐えきれなかったの吹き飛び損壊していた。それを見てしまった少年は、オェと吐き始めた。

 

「なに、これ」

 

 ギャラルの身体から力が抜けそうになる。今まで相対した敵とは比べ物にならないナニカが、一瞬でこの辺りを壊滅に追いやった。

 

「何なんのだあれは!?」

「悲劇だね。悲劇的すぎて、うん……」

 

 空から見ていたアンヘルは見たのだ。地上に落ちた敵の、全ての目が赤い光を纏い出したのを。そしてその直後、赤いレーザーが放たれたこと。そして、放ちながらぐるりと回転し、全てを薙ぎ払ったのを。

 しかしカイムは空を見上げる。まだ風は止んでいない。壊滅的な被害を受けたのは事実だが、何も終わってはいない。

 

『アンヘル、しっかりしろ!』

「あ、ああ……そうだな、まだ終わってはおらぬな」

 

 アンヘルが自らの恐れを払拭するために、一際大きな咆哮を放つ。それと同時に、九つの敵は全てアンヘルを睨んだ。

 地上から空へ、全てを焼くかのようにビームが放たれる。逃げ場を潰すように無数の弾がばら撒かれる。どれか一つでも触れれば致命傷は免れないだろう。アンヘルは全力の機動で躱し始める。

 

「数だけの弾など、今更当たるものか!」

「うわああああ!?」

「ほらほらほら!」

 

 アンヘルの機動に目を回すマクリルと、反撃を始めるマナナン。マナナンが攻撃に集中できるように、カイムがその身体を掴む。

 

「ふざけんなあ!」

 

 雷が落ちた。ミュルが掲げた神器ミュルグレスへ、莫大の雷が注がれる。トールの力を得たミュルグレスは、まさに雷神そのものに見えた。

 七支刀ももう一度全力を出す。空へ向けられた神器七支刀は、天を割く竜巻へと変わっていく。

 

「!?」

 

 近くの敵が、そり大きな脅威が側にあることに気が付き二人へと振り向く。

 しかしそこには七支刀しかいない。雷そのものと化したミュルグレスが肉薄し、歯が敵の身体へと食い込んでいく。

 

「七支刀!ミュルごとやれぇ!!」

「なっ!?…………はい!」

 

 ミュルの言葉に驚くが、きっと彼女なら大丈夫だと信じ神器を振り下ろしていく。落ちていく嵐はミュルを巻き込んでしまうが、全身を裂く痛みに堪えながらも押し通す。そして最後には、歯と刃が敵の身体を貫いた。

 

「アアアアアアアアア!?!?」

 

 それは絶叫を上げながら、機能を停止した。その背後で、ミュルが地面に伏す。

 

「ミュルグレス様!?」

 

 慌ててその身体を抱き起こす七支刀。全身に傷が出来てしまっているが息はある。とにかく避難させなければと背に抱え、更にショックで気絶してしまっている少年も連れなければと顔を上げて、気が付いた。

 幾つもの赤い相貌が、七支刀を睨んでいることを。

 

「あっ」

 

 変な声しか出なかった。死を、直感した。

 逃げ回るだけのアンヘルよりも、仲間を死に追いやった敵へと敵意を移す。それは、何もおかしなことではない。

 しかし、アンヘルがその巨体で一体を押さえつけた。狙いがズレて、空へと赤い光が放たれた。終焉を纏った一撃が、敵の側面へと命中する。他にも脅威はいると、狙いを変えた。

 アンヘルから飛び降りたカイムが剣をその身体につき刺そうとし、マナナンが追い打ちする。距離を取り直していたマクリルは、ロジェと共に魔法を放っていた。

 半数の敵意が反れた。七支刀は死にものぐるいで跳んだ。生きられる可能性があるなら、諦めてはいけない。

 ミュルの長い髪へとレーザーが掠った。千切れた髪は落ちることなく灰燼へと帰す。

 

「はっ……はあ……はっ……」

 

 生きているし、ミュルも巻き込まれなかった。その事実に安堵しながらも、何とか息を整えようとする。しかし、七支刀の視線の先には先程の少年がいた筈の所があった。そして、今そこには何もなかった。

 

「………」

 

 ふらふらとした足つきで、七支刀は走り出す。都合よく命を救えないことは、もう嫌ほど知っていた。無知ながらも世界平和を願っていた七支刀もう、何処にもいない。

 

「「「「ボク達ハ!!」」」」

「「「「守ッテ来タ!!!」」」」

 

 敵は叫ぶ。絶望に塗れた呪いを口にする。

 

「これの何処が!?」

「ええい、神の戯言など聞く必要もないわ!」

 

 アンヘルが再びカイムとマナナンを回収しながら飛び立つ。

 

「「「「永遠……!」」」」

「「「「仲間ガ倒レテモ戦ッタヨ!!」」」」

「この!」

 

 自分がどれにも狙われていないと悟ったパラケルススが、神器パラケルススを勢いよく突き刺そうとする。

 

「ッ!?」

 

 直後反転し、転がって距離を取りレーザーを放ってきた。

 

「まずッ!」

 

 反応したということは効いているということ。それ自体はありがたいことだが、逃げるのに間に合いそうにない。やってしまったと、最期の反省をしようとした所で、誰かに手を引かれた。

 そして、パラケルススがいた所にレーザーが走る。そこには、もう誰もいない。

 

「約束と違うよね」

 

 灰色のドレスを身に纏い、墓石のような物を抱えた少女がそこにいた。

 

「タスラム!?君は関わりたくないって……」

「死ぬのは嫌だって言ったんだけど」

 

 突如として現れた強烈な死の気配へ、敵の視線は再び集中する。

 

『もう一度だ!』

「決めちゃうよ?」

 

 その隙を狙ってカイムが再び空を舞う。続いてマナナンが魔銃を乱射しながら降りていく。先程カイムが突き刺した部分へ狙いアンヘルが大魔法を放ち、マナナンの攻撃が続けて刺さる。そして最後に古の覇王が、傷口を抉り開いた。

 再び絶叫を上げながら、また一つ機能を停止する。

 

「「「デモ!」」」

「「「「永遠ニ続ク戦争ガ……!」」」」

「「「永遠ニ終ワラナイ争イガ!」」」

「「「「「「「ボク達ニ叫ブンダァァ!!!」」」」」」」

「黙れぇえ!!!」

 

 パラケルススが一撃を加えていた敵の側に、イチイバルが現れる。遠距離で駄目ならば、ゼロ距離で全力の一撃を撃ち込むだけだ。

 パラケルススが作った小さな傷目掛けて、怒りのままに光を撃ち放った。それは刹那の閃光の後に、爆発を生み出した。撃った自分も当然巻き込まれて吹き飛ばされていく。

 しかしイチイバルが特攻した甲斐あってか、更に一つ停止へと追い込んでいく。

 

「「「「「「コンナ世界、意味ガ無インダァァアアア!!!!」」」」」」

「そんな自分勝手!」

 

 ギャラルが再び笛を鳴らすと、扉から獣が顔を出す。全力のエネルギーを込めた、最大の一撃を繰り出すために。

 

「私も合わせます!」

「……!」

 

 炎と闇の魔法が、ギャラルの隣で練り上げられていく。一般人が見れば、それだけで世界の終焉なのだと感じられる程度には恐ろしい力がそこにはあった。

 助けに来たのはいいが、特に逃げる手段を持っていないタスラム・獣刻・バンシーとパラケルススは、全力で逃げていた。しかし三人が放とうとしているエネルギーへと視線が移り難を逃れる。

 そして、炎と闇を纏った終焉そのものが敵へと撃ち込まれる。

 

「アァ……」

 

 ようやく、永遠が終わる。抵抗を諦めた一体へと直撃し、地獄を生み出した。地獄へと飲み込まれいったそれは、二度と機能することはなかった。

 しかし残った五体は、ギャラル達三人へ狙いを定めたまま。全力を出し切った直後で動けない。助けられる人はもう限られていた。

 

「マクリル!?」

 

 少なくともカイム達の背で、相棒のピンチにマナナンが叫ぶ。それと同時にアンヘルは加速し、三人の元へ着地した。そして尻尾で三人を吹き飛ばし、カイムはマナナンを掴んで放り投げた。

 そして、敵の視線は、落ちてきたアンヘルへと。

 

「生きよギャラルホルン!!」

「待っ……!」

「……達者でな」

 

 赤が、赤に飲み込まれていく。

 放たれた十のレーザーは全てアンヘルの上半身を狙っていた。光が収まった時、そこに立っていたのは上半身を無くし血を吹き出していた、かつて偉大だった竜の姿だった。

 

「………」

 

 ギャラルは吹き飛ばされた衝撃で背中を打ち、そのまま倒れていた。疲れとは違う。身体に力がハイラない。ナニが、起きた?

 意識が黒い泥の中に落ちていく。ロジェが何とか立ち上がり、ギャラルを担ぐ。その視線の先には、血の海に沈んだ、愛する人達の亡骸。

 

「タスラム!」

「……あ、うん」

 

 バンシーの力を解き放つ。死者の嘆きが、死告精の叫び声と共にあがる。太陽神が魔眼を打ち破ったとされる力と合わさり、冷酷な死がそこに顕現した。

 敵の一体が凍りつく。氷の棺へと、閉じ込められたのだ。そして、その棺へとパラケルススが向かっていく。風を帯びた短剣は容赦なく棺ごと敵を打ち破る。

 しかし、反撃はそこで止んでしまった。各々が全力を出し負傷し、あの強大な敵を破るだけの力は損なわれた。

 

「オマエ達ニ!」

「コノ痛ミガ!」

「苦シミガ!」

「絶望ガ分カルカァアァ!!!」

 

 四体の敵は、今度こそ全ての敵を殺し世界を終わらせようとする。再び赤く光りだす瞳は、まるで死刑を告げるようだった。

 

『承認しました』

 

 意識が落ちきる寸前だったギャラルの耳に、妙な音が届いた。直後、誰かが途轍もないスピードで接近してくる。

 

「うおおおおおおお!!!」

「「ッ!?」」

 

 攻撃を仕掛けるために、敵同士が接近していたのが悪かったのか。突如現れた、鞄を持った女性。何処かで見たことがあるような気がするソレの特攻を、二体のエミールが直撃することになる。

 飛び掛かった女性の身体から放たれた、超濃縮された魔素が破滅的な威力を生み出した。閃光が、全員の視界を焼いた。二体のエミールが、特攻へ飲まれ停止した。

 自爆の勢いでギャラルとロジェの前に落ちてきたソレに、ギャラルはただ困惑する。

 

「アコー……ル……?」

 

 前に月光と闇を買った商人の、アコールの筈。そのアコールがどうしてここにとか、さっきのは何だとか、疑問はひたすら湧くが、一番はその姿。

 剥き出しになった()()の身体。彼女が人間ではない証拠。

 

「このルートが、唯一世界の滅亡を逃れられる可能性がある……だから、仕事を、した、まで」

 

 アコールは、機械は、そこで力尽きた。

 

「……あああああ!!」

 

 ギャラルの中で、何かが弾けた。月光と闇を握り、ロジェの背から飛び、血溜まりの方へと飛ぶ。カイムが使っていた古の覇王を握り、敵の一体目掛けて飛んでいく。

 弾幕を張り迎撃しようとするが、弾を掻い潜り肉薄する。

 

「…………まだまだぁぁあ!!!」

 

 同時に、敵の背後からもう一人接近していた。雷光が疾走る。挟み打ちにされていると気が付いた敵を、もう一体がカバーしようとするが動かない。呪術で縛られていると理解することは、当然出来ない。

 三本の剣が押し当てられる。焔と雷が、敵を打ち砕く。交差しながらも、最後の全力を使い果たしたミュルを、ギャラルは受け止める。

 

「……くそっ!」

「そんな!?」

 

 ギャラルもよく見てみれば、二振りの剣の刀身砕けていた。今度こそ、今度こそ終わりなのか。

 

「ララ〜ラララ〜ララ〜」

 

 歌い出す。破滅を。絶望への祈りを。

 

「ああ……光が……見え……」

 

 祈りを、祈りを………祈りは…………果てて………………

 

 最後の敵は、エミールは、力尽きた。

 

「終わった、のか?」

 

 誰も何も言わない。ただ、互いの足を引き皆が集う。

 風は、止んでいない。けれど、少しずつ弱まっていた。これは人々がいなくなったのではない。魔素が減ってきている証拠だ。

 

「やった、んだ?」

 

 もう、エミールは動かない。犠牲は多大だったのかもしれないし、取り返しのつかないこともあるかもしれない。それでも、勝ったのだ。

 少しずつ、少しずつ絶望は希望に変わっていく。

 そして、

 

 ギャラルホルンは絶叫する。

 

「もう、もう嫌ぁあ!もう……」

「どうしたのですか!?」

 

 驚いた七支刀が、ギャラルの手を取る。

 

「どうした……ので……す?」

 

 その七支刀もまた、絶望の色に堕ちていく。空に、空にあったのは……

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