ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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第6節 尽きる

 空のヒビが開いていく。それは空となり、世界は赤く染まっていく。

 

「はは……」

 

 七支刀は小さく笑った。こんなにも希望がないと、もう笑うしかない。空から降りてくるソレへの恐怖は、ギャラルと七支刀こそよく知っているものだからこそ、二人の心はあっさりと折れてしまった。

 

 おぎゃあ。おぎゃあ!

 

 ああ、生の喜びを分かち合おう。泣いて、泣いて、いっぱい笑おう。

 降りてくる赤子達はただひたすらに笑う。泣く。世界に再び絶望を振りまくために。

 

「なんで……!?"敵"はもう倒したでしょ!?いやだいやだいやだ!」

「……選択されなかった世界。何もなく、何でもあるのなら。"倒されなかった敵"がいてもおかしくない、ですよね」

 

 嘆くギャラルと、変に冷静になって状況を分析し始める七支刀。二人の錯乱する様子に、周りのみんなも理解する。

 かつて帝都に現れ全てを蹂躙せんとした"敵"が、あの赤子達なのだと。

 そして、やはりあの時と同じ。数えるのも馬鹿らしくなるだけの数が現れていく。空が赤子で染められていく。

 

「……いや、まだ何か手はある筈だ。ある筈なんだ」

 

 意識を取り戻していたイチイバルが、それでもと抵抗しようとする。歩くのもやっとの筈の身体で神器を構え、"敵"を狙撃する。

 しかしあっさりと魔法障壁に阻まれてしまう。全力ならともかく、ボロボロになったイチイバルにそれを破るだけの矢を放つことはできない。

 

「待て、何か変だ」

 

 空で合唱をしていた赤子達は、しかしこちらへと攻撃してくる気配がない。

 比較的体力が残っているパラケルススが、真っ先にそれに気が付いた。続いてマクリルも、"敵"の不可解な行動に気がつく。

 

「さっきの敵に向かってない?」

「ほんとだね?……これはちょっと、喜劇的とは思えないな〜」

 

 "敵"の向かう先はエミール達の死体だった。魔導兵器である彼らを死体と表現するのが正しいのかは分からないが、とにかく向かっている先はエミール達。

 死体に群がる鴉のように、"敵"は集まり始める。エミールに触れない"敵"もまた"敵"の上に重なっていき、それは次第に巨大な玉になった。

 

「……まだ、あるのですか?あれ以上が?」

 

 既に勝利を投げ出すほどの脅威がそこに迫っていたのに、それを上回るさらなる脅威になろうとしている。その事実に、七支刀は呆けている。もはや絶望することにさえ飽きを覚えるような感覚。

 

「でもでも!一つになるならやりようはありますよ!あの数を相手するよりは……」

「それなら良いけど」

 

 吐き捨てるようにギャラルが呟く。濁りきった目の中に、脈々と鼓動する"繭"が映る。或いは"卵"か。

 それはゆっくりと空へ浮かんでいく。"敵"と"敵"の輪郭が失われ、完全な"繭"へと変わったそれは、ゆっくりと開いていく。白くドロリとした液体をしたたらせながら、新たなる存在が誕生していった。

 超巨大な"繭"に相応しい、超巨大な巨人が墜ちた。落ちた衝撃で幾つかの村が消滅した。ゆっくりと立ち上がる。天へ届くであろうその白い巨人は、雄叫びを上げる。

 

『オガーーザーーーン!!!!!』

 

 母を失った悲しみを、怒りを、絶望を。そして、母を奪った世界への、憎しみを。

 もはや原型を失った巨人は、赤く輪郭の歪んだ相貌で、キル姫を睨む。

 

「…………いやいやいや、終焉よりヤバくない?」

 

 ミュルが、思ったことを素直に言った。かつての世界、滅びを迎えようとしていた世界で、感情を得た終焉そのものが変化したおぞましい姿。一瞬だけあれを連想して、それからあれはもっと具体的な脅威だと認識し直す。

 

「これじゃあ死ぬどころか世界滅びない?」

「確かにそうかもしれないね。でも、それでも乗り越えなくちゃいけないでしょう?」

 

 パラケルススの発破は、二人を除いた全員に僅かながらも希望とやる気を取り戻させる。やることは単純だ。あの巨人を打ち倒すだけだ。戦力はこれしかいないし、現実的に考えて勝てるかも分からないが……それでもやらないという選択肢だけはない。やっても駄目だったと言い訳したいのではないが、それでもやる前から逃げるのはやっぱり違う。

 

「行こう。僕達ならやれる!」

 

 タスラム以外が神器を構え、走り出す。それを見送るギャラルと七支刀。

 直後、鐘の音が響いた。もう恐怖も通り越して無に近くなっていた筈のギャラルが、それでも身を震わせた。母体と戦ったときに聞こえた、あの鐘の音。

 巨人の身体から、白と黒の輪が落ちていく。鐘の音と共に、強大な魔力の塊が落ちていく。それが地上に触れた瞬間、再び鐘の音が響く。その音は、途轍もない範囲に響き、響いた場所全てを更地に変えた。

 

「ぐぁあ!?」

「何よこれ!?」

 

 それほどの威力があっても、キル姫達は即死まではしなかった。しかし風船のように身体が宙を舞い、詰めようとしていた距離があっさりと離される。

 再びギャラル達の側へ転がってきたキル姫達だったが、それでも立ち上がる。

 

「まだだ、まだ……!」

 

 赤い光が空を貫いた。巨人の口から放たれた赤いレーザーは、ゆっくりと振り下ろされていく。

 そして、




巨人の圧倒的なチカラの前に、キル姫はあっさりと全滅する。
こうして世界は、神の望むものへと作り替えられたのだった。


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