ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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"敵"が、異世界の人類が生み出した最強の兵器、エミールを取り込んだ瞬間、圧倒的な強さを持つ化物に変わった。
疲弊したキル姫へ止めの一撃が放たれようとしたその時、空から一筋の光が落ちてきていた。それは……


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 化物の口へ赤い光が収束していく。エミールが放ったレーザーよりも、更に強力な一撃が放たれようとしている。それでも世界を守るために皆は走り出そうとする。

 その時、イチイバルが気が付いた。空から化物に向けて何かが落ちていることに。その光に、諦めてしまった二人以外も遅れて気が付く。

 それが何なのか、見えていたのはイチイバルだけだった。一言で形容するなら、岩の巨人だろうか。つまり、ゴーレムというやつだ。この世界にもゴーレムはいたが、それとはまた違う形状のもの。

 一瞬だけ、イチイバルはまた敵の増援が現れたのかと苦い顔をしたが、それは間違いだったとすぐに気が付く。

 ゴーレムの巨大な、あの化物に比べれば大したことのないその拳が、化物の頭部へと炸裂する。重力を乗せた一撃は化物の身体を大きく仰け反らせ、その勢いで放たれたレーザーは明後日の方向を焼いていた。しかも変な大勢でレーザーを放ったせいで、更に仰け反りその場に倒れてしまう。

 

「うわああ!?」

 

 攻撃の反動か、ゴーレムも吹き飛んだ。それがこちらへ飛んできている。

 しかし真っ先に反応したのはギャラルだった。今度こそ泥の中へ落ちていくだったであろう意識が急速に覚醒し、ゴーレム、いやその契約者に向かって飛んでいた。

 

「わっ。ギャラルだ!」

「……セエレ」

 

 受け止めた少年の名を呼ぶ。素直に再開を喜んでいるセエレの顔と、様々な感情でぐちゃぐちゃになっているギャラルの顔は、ある意味対照的になっていた。

 ギャラルがセエレを連れて仲間の元へ降りると、ゴーレムもその場で再構築された。

 

「もしかして、みんなキル姫?」

「そうだ。君は……もしかして、セエレかい?」

 

 イチイバルはその少年を知らなかったが、ギャラルやアンヘルからゴーレムと契約し共に戦った少年がいたという話は聞いていた。

 今目の前にいる少年が、セエレなのだと頭の中で繋がる。

 

「うん」

「でも、なんでセエレが……」

 

 セエレという言葉に反応して、七支刀もゆっくり立ち上がる。それに気が付いたセエレがそちらに手を振り、それからギャラルの質問に答えた。

 

「言ったよね。僕のこと、忘れないでって」

「……うん」

 

 そう。あれはアンヘルとカイムと共に、帝都の空へ飛んだ時の言葉。確かにセエレは言った。

 しかし敗北が決まったも当然のこの戦場にセエレが来てしまったことは、全く喜べない。

 

「ねえ、カイムは?一緒だよね?」

 

 周りを見渡し探そうとするが、ギャラルの沈んだ表情を見て察してしまう。もう、いないのだと。

 

「そっか。カイムはギャラルの為に戦ったんだね」

「ええ。きっと」

「だったら、僕も戦うよ。この世界を守るんだ!」

 

 セエレの瞳は、あの化物を見据えていた。そこに僅かな恐れはあるが、それを上回る覚悟があった。

 

「セエレ、シヌ、カナシイ」

 

 セエレが何をするつもりか理解したゴーレムが止めようとする。ゴーレムにとって一番大切なのは、セエレだから。

 

「止めないで。僕はやるよ。だって、僕は"ちいさい勇者さま"だから!」

「ちょっと待ちなよ。いきなり出てきて、そんな覚悟されて。ミュル達はそんな大人げないことしないわよ!」

 

 突然やってきた少年の、する必要のないはずの悲壮な覚悟。正直勝ち目はないのだが、それでもこんな少年にそんな覚悟をさせてしまうことには、キル姫としての、いや一人の人間としてのプライドが許さなかった。

 しかし、セエレはその言葉に返事する代わりに語りだした。

 

「昔々あるところにひとりの勇敢な兵士がおりました。兵士は時の滴を飲み干し、世界の穴で眠っておりました。ずっとずっと、若くて強い、そのままの姿で……けれども、世界が血で染まった時、兵士は目覚めました。『今こそ、我が命を使う時!』兵士は時の滴にひたった体で、世界の果てを目指しました。兵士は老い、劣り、やがては死にましたが、兵士の永遠の時は、世界に新たな命を作りましたとさ。おしまい」

「何かの物語でしょうか」

「うん。"ちいさい勇者さま"の話」

 

 ロジェの質問に答えたその少年は、笑っていた。

 契約によって時間を失った少年は、そのお話の"ちいさい勇者さま"と自らを照らし合わせていた。

 

「別に死ぬことは勇ましくないぞ」

 

 タスラムが毒づく。獣刻されているバンシーの影響で、死には一際敏感になっているからこそ、はいそうですかとは通せない。

 

「それでも、やるしかないんだ。行こう、ゴーレム!」

「セエレ、トモダチ、マモル……」

 

 セエレの覚悟を受け入れたゴーレムはセエレを担ぎ、未だ立ち上がれてない化物に向かって走り出す。

 

「待って、行かないで!」

 

 ギャラルが手を伸ばすが、当然その小さな腕では届かない。飛べばきっと追いつけるが、足が動かない。

 セエレは止まらない。セエレはただの正義感だけで動いているだけでなく、物語の勇者を演じて悦に浸っいてるだけでもない。心の奥底にあるのはマナへの贖罪。母の虐待を見て見ぬふりをしてきたからこそああなってしまったからこそ、セエレは贖罪しないといけない。子供心ながらも、その意識に突き動かされていた。

 化物はなまじ巨体なせいか、中々立ち上がることができない。その間にとゴーレムがどんどん距離を詰めていく。

 化物が目の前に迫った時には、化物は両腕で身体を支え、膝をしっかり曲げて立ち上がろうとしていた。

 

「ゴーレム!」

「セエレ……」

 

 別れを惜しむように声を絞り出し、それからセエレを掴んで勢いよく投げた。セエレの小さな身体は大きな勇気と共に、化物の腹の上に落ちていく。

 直後、セエレからとてつもないエネルギーが放出される。吹き荒れるエネルギーの嵐の中で、セエレは呟く。

 

「ごめんね……マナ……」

 

 自ら殺した、愛する妹の名と共にセエレの意識は途切れていく。

 異常なエネルギーは周囲の空間へと作用していく。失われた時間が解き放たれ、時間の理を歪めていく。そうして、化物は周囲の空間と共に時間の"檻"へと封鎖された。

 ……辺りには静けさだけが残る。

 

「終わった、のか……?」

「セエレ様が、あんな力を?」

 

 ただみんな、唖然としていた。とてつもない力もそうだが、なんというか、あっさりとことは終わったからだ。あの時の止まった空間は、永遠にそのままなのだろう。

 そうみなが安堵していた時だった。ドンッと、壁を叩くような音が耳をつんざく。空気が揺れている。この異変の正体は……

 

「まさか、あの化物は止まった時間の中でも動けるのか!?」

 

 パラケルススは目を丸くする。止まっている時間の中で動くという、矛盾に等しい行動はもはや説明のつくことではない。

 それから二度三度、同じ音が響く。それと同時に、ギャラルは何かに呼ばれているような気配を感じる。その視線の先には、血の池の中心に突き刺さっている、"カイムの剣"だった。

 そちらへ足取りを進め、触れようとして止まる。いいのだろうか、触れても。少しだけ考えて、それからもう一度同じ音が響く。

 考えている時間はない。今はカイムの力を借りるしかない。覚悟を決めてそれに触れようとした時、誰かに腕を掴まれた。

 

「誰!?」

「それを使うのはやめなさい。契約は、最も大切なものを差し出す危険な行為。それもキラーズ同士で行うというイレギュラーが挟まれば、何が起きるのかは分からないわ」

 

 黒い髪に赤い瞳をした女性がいた。何処かで見たことがあるような気がするが、それ以上に何を言っているのかが分からない。

 契約?これが契約?

 

「それに、もう大丈夫よ」

「あれの何処が大丈夫なの!?このままじゃ、セエレの死まで無駄に……!」

 

 女性へと抗議している間にも、遂に"檻"は破られた。ガラスが割れるように、時の止まった空間が割れる。その不可思議な光景に、みな立ち竦んでいた。

 

「早く!早くしないと!ギャラルがやらないと!」

 

 カイムがいるなら、あの化物でさえも倒せる。確信に近い何かがあった。

 だからこそ"カイム"を手に取ろうとするが、女性の力は強く動かない。

 

「……来るわ!」

 

 化物が今度こそ立ち上がる。腹の上にあったセエレの身体がずり落ちていく。契約者を失ったゴーレムも当然、そこにはいない。

 そうしてセエレの身体は落ちていく。しかしそれと同時に、ユグドラシルの方向から一筋の光が現れた。それは化物の元へと進んでいき、セエレの亡骸を受け止めた。

 ゆっくりと地上へ降りていく。感謝の言葉を述べながら、地面へとその亡骸を降ろす。

 

「ありがとうございます、"ちいさい勇者さま"。貴方のお陰で私は、間に合いました」

 

 青白く輝く聖剣を抜き、空へと浮かんでいく。本来であれば、その柄の名は魔剣の物であるが、今は聖剣と評するしかないだろう。

 桃色の長い髪をなびかせ、化物と対峙するその姿を知らないものはいないだろう。

 

「ティルフィング!?」

 

 力強く光を放つその姿は、まるで女神のようだった。怒りと悲しみを背負ったその表情は、決して悪しき神とその下僕を許さない。

 

「この世界を踏みにじり、多くの人を殺め、キル姫を手駒にし操ろうとした貴方がたを……絶対に許しません」

「なんで、今更……?」

 

 ギャラルは呆然と呟いた。冷静に考えれば、なにか事情があったのだとは察せられる筈だが、今のギャラルにはそうは見えなかった。

 ただ、お前は不要なんだ。お前では世界を救えない。そう告げられているように見えた。

 

「オガーーザーーーーン!!!!」

 

 目の前の理不尽を前に、化物は両手から弾幕をばら撒く。一つ一つがキル姫の全力の一撃はあろう恐ろしい弾幕だったが、しかしティルフィングは一薙ぎで全て払う。

 続けてレーザーを放ち、跡形もなく消し去ろうとするが外す。確かに直撃コースだった筈なのに、無傷のティルフィングがそこにいる。

 

「オ"オ"オ"オ"オ"オ"ーーー!」

 

 鐘の音が響く。化物の周りに白と黒の輪が出現し、落下していく。しかし"オト"の輪さえも一切の容赦なく斬り裂かれる。

 

「………!」

 

 絶対の力を手に入れた筈の"敵"が、初めて恐怖する。恐怖そのものを前に、一歩後退る。

 しかしティルフィングは容赦しない。聖剣ティルフィングへ、虹色の光が集まっていく。青白い輝きと共に、それは巨大な刃へと変わる。

 

「これで、終わりです!」

 

 ティルフィングが何度かその場で聖剣を振る。斬撃が光波となり化物を襲う。一撃で腕が、脚が斬られ更に粉微塵となる。胴体へ三発の斬撃が撃ち込まれ、それが胴体だったとは思えないだろう形状へと変わる。

 そして、最後に頭部へと放たれた斬撃はそれを真っ二つへと割った。

 

「ロジェ!」

「はい!」

 

 その瞬間を待っていたロジェは、最後に空へと風を舞い起こす。化物が死の間際に魔素をばら撒く可能性を考えて、ティルフィングが出てきた直後から体制を立て直し待っていたのだ。

 それは正解だった。宙で分解されていく化物の身体からは神の魔素が撒かれようとしたが、風に乗って裏側を通り本来の世界へと還っていく。

 そんなティルフィングによる圧倒的な蹂躙を、ギャラルはただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 その後、わたくし達は復興に取り掛かりました。マナナン様とマクリル様は、ティルフィング様と共に空の亀裂を直すために三日三晩働いたという噂です。

 それから、ファーストキラーズの皆様も元気だったようです。詳しいことは分かりませんが、ティルフィング様と一緒にユグドラシルにいたとかで。

 そのユグドラシルも、花だった姿は元に戻り本来の大樹の姿に戻っています。

 それからです、大変なことがありました。"マスター"とミーミル様が無事発見されたのです。何故神は二人を生かしていたのか、パラケルスス様は神にはまだ策があったのではないかと言っていますが真相は闇の中です。でも、それで良かったのです。

 本当なら、あの時わたくしも立ち上がるべきでした。それが出来なかったことへの贖罪も込めて、復興作業の手伝いを……

 

「お〜、頑張ってるじゃん」

 

 そんな感じで一人考えていた七支刀の元へ、同じく手伝いをしていたミュルがふらっとやってくる。

 

「どうかいたしましたか?」

「いや、よく考えたらあの時のお礼を言えてなかったな〜ってさ」

 

 エミールと戦った時のことだ。あの時は間違いなく、七支刀が助けてくれなければ死んでいた。のだが、その後のことがことで礼を言えてなかったことを思い出したのだ。

 

「ということで、カステラ一緒に食べない?」

「もう、本当に好きですね」

 

 いつもの露出度の高い巫女服みたいな服とは違い、土木作業に向いた作業着を着ているので暑い。何処かで休憩を挟もうと考えていたので、ちょうどよかったなと思いながらミュルに付き合うことにした。

 ……世界は大きく傷付きました。沢山の人が亡くなり、人工物も自然も大きく損ないました。この傷は決して癒えるものではないでしょう。けれど、それでも少しずつ復興して以前の平和が帰ってくるんです。きっと。わたくしは、そう信じています。

 

 

the [E]nd of ragnarok

 

 

 そういえばと、ミュルはカステラを食べながら七支刀に聞いた。

 

「ギャラルのこと、見た?」

「いえ、わたくしは見てませんね」

 

 ふーんといった様子で食べるのを再開した。奢ってもらう約束したはずなんだけどなあと思いつつ、自費で買ったカステラを頬張った。戦いの中で出来た、新しい友達のことを考えながら。




 一頭の鹿が、水を飲みに湖に来ていた。いつも飲みに来るその湖ほとりに、今日は見知らぬものがあった。
 なんだろうなと思い見てみるが、特に動かない。少し警戒してから、それが生き物でないと判断し気にせず水を飲み始めた。

 その日は空に虹がかかっていた。その虹の下で、一振りの剣が地面に刺さり、それにもたれ掛かるように笛が置いてあった。
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