ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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イウヴァルトとブラックドラゴンの襲撃により、フリアエをさらわれてしまったカイムたち。
レッドドラゴンの傷が深く、帝都の方向へ飛んでいったイウヴァルトを追う前に追加の休憩を強いられることになる。


第2節 絶望のはざま

 カイムは感情に任せその場で剣を振り回す。虚しく空を切る剣を、今度は倒れているギャラルへと突きつける。

 ようやく感情の整理を出来てきたギャラルは、その剣先を見つめる。カイムの怒りの表情と共に。

 取り返しのつかないことをしてしまった。おかしくなったイウヴァルトを止めることすら出来ず、カイムにとって最愛の人物であり、この世界にとっても重要な人物であるフリアエがさらわれてしまった。しかも、カイムにドラゴンの方へ向かうように言ったのは自分だ。レッドドラゴンが庇わなければカイムは死んでいたかもしれないのだ。

 

「うわああああああああ!!!」

 

 どうしよもない程の絶望、その感情を言葉にすることは出来なかった。だから、ただ吠えた。

 カイムに何か伝えるべきだ、言い訳か、謝罪か、激励か、少なくとも叫んでどうにかなる問題でもない。だから、何か言わなければと義務感のようなものに突き動かされ、なんとか立ち上がりふらふらとカイムの元に歩く。カイムの腕に抱きついて、なんとか開いた口から出た言葉は……

 

「……ギャラルのこと、嫌わないで」

 

 余りにも、惨めだった。

 

 すぐにでもフリアエを取り戻すために動きたかったが、レッドドラゴンの傷は重い。流石のドラゴンといえども治癒には時間がかかってしまうため、一夜のはずの荒野でのキャンプを続けることになった。

 

 焚き火の前でぼうと座っているヴェルドレに、七支刀が話しかける。

 

「ヴェルドレ様、傷は大丈夫ですか?」

「ええ、腹の傷は大丈夫です。」

 

 まるで他の部分に傷を負っているような口ぶりに、七支刀は動揺する。イウヴァルトの襲撃のあと、ヴェルドレの看病をしたがそのような傷はなかったはずだからだ。

 しかし、その"傷"が何なのかをヴェルドレは語りだす。

 

「イウヴァルトに刃を向けられた時、私の心にあったのは慈悲でも無でも、恐怖ですらなかった。私の心には、怒り、ただそれだけがあった。……今さら、人に何かを説くなど」

 

 帝国兵とて人の子、むやみな殺生はよくないと説いていたヴェルドレに、同じく殺すことを好まない七支刀は少しだけ惹かれている部分はあった。

 しかし、ヴェルドレは帝国へと怒りに飲まれてしまったのだ。

 

「そなたは、変わらぬのだな」

「……変わりません、わたくしは。それが平和になった世界に、一人でも多くの人が幸せに暮らせるのならそれに越したことはないはずです」

 

 曖昧な世界平和を夢見て、かつてはキル姫でありながら剣を振るうことすら出来なかった七支刀だが、その胸の奥にある強い想いは簡単に揺らぐものではなかった。

 ただ、イウヴァルトを止めることが出来なかったのも事実。他の連合兵の見回りと、帝国軍の気配がないことを確認した七支刀は剣も術も精度を上げるべく、一人特訓を始めようとした。……ギャラルの語りを偶然耳にするまでは。

 

 ギャラルはレッドドラゴンの元へ来ていた。だいぶ傷も塞がってきているし、明日には元気になるかな?と考えながら頭を勝手に撫でる。

 

「ありがとう、カイムのこと守ってくれて」

「さもなくば我も死んでいた。契約者とはそういうものよ」

 

 互いの心臓を交換している契約者は、どちらかが死ねばもう一方も死ぬ。だからカイムを庇っただけで、守ったわけではないと主張するレッドドラゴンだが、ギャラルは笑みを止めない。

 

「……今からでも遅くはない、カイムに執着するのはやめよ。幼子に背負わせるには重すぎる覚悟ぞ」

「子供じゃないわ、ギャラルは立派なレディよ!」

 

 子供と言われ、ついムキになって反論する。実際、キル姫であるギャラルは見た目に比べて圧倒的に長生きである。ドラゴンよりも長生きできる可能性があるくらいには。

 しかし、レッドドラゴンはただの子供としか認識していない。例え長く生きていようが、その心が子供のままならば子供でしかないのだ。

 

「カイム!来たのね」

 

 こちらに向かってくるカイムに気がついたギャラルは、満面の笑みでカイムに声をかける。

 レッドドラゴンは、ギャラルは明らかにイウヴァルトの一件から笑うことが増えたと感じていた。何か吹っ切れたのかと思っていたが、今までのギャラルの言動を考えるともっと危うい何かではないかとも考えられる。

 

「今日も剣を教えて。じゃないとカイムと一緒に戦えないわ」

「待て、ギャラルよ。一つ聞きたいことがある」

 

 ここでキャンプを続けている間、何かに取り憑かれるかのように剣の稽古をしているギャラルを止めようとする。前から気にはなっていたが聞く機会もなかったことを、ギャラルを止めるために聞く。

 

「おぬしの過去、今一度話してはくれぬか」

 

 カイムは余り興味なさそうな態度を取るが、この場から離れようとしないのが多少は関心があるということを如実に示していた。

 

「……いいけど、あまり楽しい話じゃないわ」

 

 ギャラルは語りだす。神魔大戦の最中、ギャラルホルンとして戦い続け、戦って戦って、大戦を止めるために戦い続けて、自分の預かりしれぬところで突然戦いが終わったこと。その上、信じていた"まま"とその仲間に、欠陥兵器として捨てられ封印されたこと。

 

「幼子を騙し利用し、その挙げ句に不都合になれば封印か。天使とて、しょせんは人と同じ下劣な存在か」

 

 怒りをあらわにし、吐き捨てるようにいうレッドドラゴン。また幼子と言われたギャラルはムッとするが、当時はまだキル姫になってからも日は浅く子供と言われても仕方ないと考え反論はしない。

 

「でも、それだけではなかったのよ」

 

 更に続ける。ここからは、カイムたちには一度も語ったことのない部分。

 ユグドラシルに封印されていたギャラルは、一つの結論に達していた。人が生き続ける限り争いは起き、その度にたくさんの悲しみが生まれる。ならば世界を終わらせてしまえばそれ以上の悲劇は一つして起こらない、それが人々を幸せにするのに最善な方法だと。

 そして同じくユグドラシルに封印されていた二人のキル姫とも意気投合し、終焉という現象と共に活動したこと。

 

「ならば、今の帝国をよしとするか?封印が破られれば世界は終わりに近づくぞ」

「終わらせるにしても、もっとまともなやり方があるわよ。それに……」

 

 その話はそこで終わりではない。それでも世界の終焉に抗うキル姫たちとの戦いがあり、その中で彼女らに希望を見せられたのだ。

 結果として終焉そのものを避けることは出来なかったが、新しい希望の種を残し平和な世界が再生されたのだ。もし彼女らが終焉に抗うことをやめてしまっていれば、その平和が生まれることがなかったのだ。

 

「だから大丈夫よ。最後まで抗い続ければ希望はあるわ」

 

 ぬひひと笑うギャラルは、ここ最近見せていた何処か不安になるような笑いではなく、純粋な笑顔だった。

 そんなギャラルに対し、まるでレッドドラゴンが疑問に感じているかのような口ぶりでカイムの疑問を口にする。

 

「……なぜカイムに執着する。世界を救いたいのであればフリアエを救うべきだと考えぬのか」

 

 少し考えるような仕草をしてから、まるで言い訳をする子供ように話し出す。

 

「だって、カイムは凄く強いし。あなたもカイムと一緒に帝国を倒してくれるでしょ?ギャラルももっと頑張って一緒に戦えば平和にできるわよ」

「カイムのこと、救いたいと言っておらんかったか?」

「それはもちろん、平和になったらカイムだって幸せになってほしいし。だからしっかり帝国を倒して、復讐を終わらせましょう」

 

 ギャラルは色々と言ったものの、正直自分がカイムに強く執着している理由というのは思いつかない。いや、もっと正確にいえばカイムに執着しているという自覚がないのだ。

 見た目通り、もしかすれば見た目よりも幼い精神性をしているギャラルが突然異世界に飛ばされ、壮絶な戦争に巻き込まれ、しかも恐ろしい帝国兵たちを相手にしないといけない中で、その帝国を圧倒的な強さで薙ぎ払っていくカイムとレッドドラゴンは希望になっていたのだ。

 

 ギャラルの語りは長く、気がつけば日も落ちていた。

 

「明日には出れるぞ。だから今日は身体を休めておけ」

「……そうね。おやすみ、カイム」

 

 素直に従ってくれたギャラルを横目に、レッドドラゴンはカイムの疑問に答える。

 

「確かに人間は下劣な存在よ。しかし、その下劣な者に背負わされた宿命、見捨てるには重すぎるものよ」

 

 それぞれの思いを胸に、カイムたちは明日のために眠りにつくのだった。

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