歪な関係の三人は、逃走する帝国兵の追撃に向かう。その姿はまるで、戦うことでしかわかりあえないかのようだった。
荒野が雪に覆われていく。カイムたちが進む先は、荒野というより雪原と言ったほうがいいだろう。
しょせんは亜人、ドラゴンの翼から逃れることはできない。ハンマーを構えたオークが立ち向かってくる。カイムもまたオーク共を殺すためレッドドラゴンから降り剣を構える。本来カイムより体格がよく力がありそうで、数も多いオークの方が圧倒的に有利のはずだがそうはならない。元々かなりの剣の技量を持っていて、しかもドラゴンとの契約で更に強くなっているカイムの敵ではない。
オークの群れが、死体の山へと変わったあとにギャラルや七支刀、ヴェルドレなどの他の者も追いついた。
周りに敵がいなくなったからか、レッドドラゴンはカイムへと声をかける。
「おぬしの両親は……ドラゴンに?」
イウヴァルト襲撃の際、カイムがブラックドラゴンに襲われているレッドドラゴンを見たときに想起していたのだ。ブラックドラゴンに襲われ、目の前で殺されていく両親の姿を。
レッドドラゴンはそれにより、カイムの両親がドラゴンによって殺されたことを知ったのだ。
カイムの忠臣たちはともかく、それ以外の人は初めて聞く話だ。両親の仇であるドラゴンと、同じ個体ではないにしろ契約しているという事実に驚く者もいる。
「……よし、帝国領土へ急げ。女神もきっとそこにいる」
聞きたいことを聞けたからか、進軍を再開すべく急げと言う。
「カイム、もしかしてあの黒いドラゴンが仇なの?」
イウヴァルトが襲撃したときの、カイムの反応を思い出していたギャラルは尋ねた。その言葉にカイムも小さく頷く。
親友が帝国堕ちてしまっただけでなく、親の仇と契約までしている。どうしもない状況に、どうすればいいのかとギャラルが必死に考える。しかし悠長に考えている時間はない、亜人部隊の姿が見えてくる。考えるのは、殺してからでいい。
魔力もだいぶ回復してきたので、デボルポポルから神器ギャラルホルンへと持ち替える。カイムを狙い走り出す赤いゴブリン部隊と遅れて走ってくるオークの部隊。ゴブリンとカイムの距離は既に近く、カイムが殺すだろうと思い魔弾をオークへと撃ち出す。大部隊ということもなく、ただの亜人部隊でしかないので扉を呼び出すまでもない。
七支刀もまた神器を巨大化させ走り出そうとするが、ギャラルが呼び止める。
「あなたの神器、随分と連発できるのね?」
こう何度も力を使っていれば息切れしそうなものだが、その様子がない七支刀に疑問を覚えていたのだ。
「実は、能力を完全に解放はしてません。本気だと連発はできませんし、いざというときに使いたいのです」
「ええ、お二方が砂漠の神殿に行ってるときに見ましたが、なんとも凄まじい力でした」
ヴェルドレは七支刀の全力の攻撃を目撃していた。圧倒的な暴力で蹴散らされる帝国兵の姿も。彼女の性格も相まって、いてくれることに強い安堵感を覚えていた。
カイムの剣とギャラルの魔弾により潰れていく亜人部隊だが、やはりそれだけでは終わらない。より奥からゴブリンやオーガが雪崩込むように姿を現す。流石に剣ではきりがないとドラゴンに乗ろうとするが、亜人部隊の中に帝国軍弓兵が混じっていることに気がつく。同じく気がついたギャラルは視線をカイムに送ると、カイムはそのままドラゴンの背に飛ぶ。そしてギャラルは、弓兵を殺すために剣が届かない距離だけ飛び亜人部隊を飛び越していく。
「封印を守るため帝国を倒し、再び平和な世界が取り戻せたなら、復讐もまた大儀となるか」
復讐の駆られ帝国軍を殺戮するカイムを見てヴェルドレも呟く。今更人のことを言える立場ではないと考えつつも、やはり戦いというより一方的な殺戮を展開しているカイムを見て思うところはあるのだ。
世界だけではなく、カイムを助けるための戦いになっているギャラルにとって肯定する考えだ。この殺戮が終わるまで、きっとカイムは他に傾倒することはないだろう。それが世界を守るためであっても、復讐のためであっても。
「こざかしい虫けらどもめ。我が紅蓮の炎で一掃してくれようぞ!」
威勢よく言い放つレッドドラゴンは、大魔法を放つ。雪原と化しているはずの場を、荒野へと戻さんとばかり炎が広がっていく。逃げ場のない亜人部隊は焼かれるしかないのだ。
レッドドラゴンを止めようとボウガンを構える弓兵たちだが、亜人部隊の壁を無視し突撃してくるギャラルへと慌てて向きを変えるが遅い。弓兵部隊は剣のサビに変わっていくだけだ。
なんとか炎の海を超え、ヴェルドレを狙い走るオークも七支刀により斬り伏せられる。亜人部隊は成すすべなく全滅させられたのだ。
一番先まで飛んでいたギャラルは、そのまま偵察もかねて先に進む。すると、小さな村の姿があった。一瞬だけ安心したが、何かが破壊される音に気がつきハッとする。そもそもこの近くに亜人部隊がいたのに、都合よくそこだけ無事なのもありえないのだ。
襲撃されている村がある、それを見捨てることはできないとギャラルは更に飛んでいく。先行しすぎていることに気がついたレッドドラゴンもカイムを乗せ後を追う。
ギャラルを迎撃すべく飛んできた矢を軽く躱し通り過ぎざまに弓兵を両断するが、そこにいたのはオークなんて目ではない巨漢の亜人だった。ギャラルの2倍か3倍はあるであろう亜人、オーガ共の視線がギャラルに集中する。
オーガの一体が両手に持った鉈をギャラルへと振り下ろす。なんとかデボルポポルで防ぎはしたものの、あまりの怪力に動けなくなってしまう。止めを刺そうともう一体が鉈を振り下ろそうとするが、胸を剣が貫いた。ドラゴンから飛び降りたカイムの剣の攻撃だった。
「やつらはオーガだ、他の亜人共とは違う!」
なんとか追いついたヴェルドレが、亜人のことを知らないであろうキル姫二人へと声をかける。
流石のオーガも突然目の前で殺された仲間に驚きを隠せないのか、握っていた手から僅かに力が抜ける。ギャラルはその一瞬の隙を見計らって、鉈を弾きすぐに距離を取り直す。
「ここはわたくしが!」
オーガから剣を抜き飛び退いたカイムとギャラルより一歩前に出た七支刀は、神器の能力をもう一段階解放する。神器七支刀の刀身が回転し始める。回転は激しくなり風をまとい強大なエネルギーを生み出していく。飛び道具など持っていないオーガたちは戦うために接近するしかない。七支刀へ向かって集まるオーガたちへと、神器を突き出しエネルギーを放出する。最も近かったオーガは一瞬で切り裂かれバラバラの死体へと変わり、残りのオーガも吹き飛ばされ散らされていく。
……家屋なども巻き込まれ吹き飛んでいくが、もう住むものもいない家に意味はないだろう。
「大将は、まだ息があるようだな」
なんとか即死を免れた大将に用があるのか、レッドドラゴンはカイムに近づくように言った。