第1節 愛の紙魚
空中要塞の内部、とある一室。ベッドの上に横たわっているフリアエと、司教の姿がそこにあった。
カイム達の接近を察知したイウヴァルトは、司教へ声をかける。
「司教!カイムは、私におまかせを」
その言葉でカイムが接近していると知ったフリアエは身体を起こす。この場で抵抗することは出来ないが、救世主が現れることを期待するくらいはできる。
「天使を飛ばせてはならない」
司教からくだされた指示は一つ。
それを肯定されたと受けると、イウヴァルトはフリアエに振り向き愛を語る。
「俺は強い。俺は愛を知っている。天使への愛。君への愛」
カイムより強くなることを望み、フリアエに愛されることを願ったイウヴァルトの言葉が紡がれる。
しかし、そのフリアエへと愛を語っている筈のイウヴァルトが、首を傾げる。愛の言葉は疑問へと変わる。
「……君は……誰?」
イウヴァルトは既に正気を失っていた。自身の目的さえも見失い、帝国、天使の教会、果てには司教のために戦うだけの道具へと堕ちかけていた。
「イウヴァルト?」
古くからの友人であり、許嫁であるイウヴァルトから放たれる疑問の言葉。流石に違和感を感じたフリアエの言葉は、イウヴァルトに届かない。
イウヴァルトは何かを振り払うかのように頭を振り、フリアエに背を向け歩きだす。
何かを愛し、愛されようとした。愛だけが彼の中に残り、何のための愛かさえも見失う。赤目の病に感染し、発症させられた彼の頭の中は霧がかかったように思考が蓋されていた。
カイムへの敵意も自身のコンプレックスによるものなのか、司教に操られているからなのかさえも分からない。契約した、いや、させられたブラックドラゴンと共にカイムを迎撃すべく空中要塞から降り立つ。
空中要塞にレッドドラゴンの翼は届かなかった。代わりに空中要塞から降り立つ影。その影の正体はブラックドラゴンだった。
あんなことがあったのだ、今更友好的に話し合うために、或いは先導してくれるために降りてきたのだと甘い考えを抱く余裕はない。
また、友人同士で殺し合いが始まってしまう。ギャラルは顔をしかめるが、2匹のドラゴンとその契約相手を止められるだけの実力など持っていない。
「カイム。……負けないで」
だから、せめてカイムが負けてしまうことだけはないように祈る。
「これは我らの戦いだ、援護はいらぬ。魔力は温存しておけ」
これはあくまでもカイムとイウヴァルトの戦いだとレッドドラゴンは釘を刺す。
「カイム!おまえに今の俺を倒すことができるかな?」
カイムを挑発するようにイウヴァルトが口を開く。その口から歌が紡がれることは、二度とないだろう。