それは人類を救うものなのか、それとも死を招く装置なのか。
イウヴァルトはフリアエを復活させるために姿を消す。
絶望が支配する中、カイム達は帝都へと飛び立つ。
「再生の卵」を破壊する為。
そして何よりも許すことの出来ない司教マナを討つ為。
第1節 人ならざるもの
帝都上空へ辿り着く。赤い空の元、一匹のドラゴンが強く羽ばたく。ブラックドラゴンとの戦いから、より強く深化したレッドドラゴンが、帝都上空に群がる様々な種族を蹴散らす。
「ここにはもう人間どもの住める場所はなかろう。下等な奴らに乗っ取られたわ」
眼下の帝都を見下ろしながら、レッドドラゴンは呟く。
世界中から集っているのだろう、様々な魔物を始めとした複数の種族が集まり、互いを殺し合っている。それは再生を求めてなのか、或いは?
「おぬしの本当の復讐は、これから始まるのだな……」
これまでカイムの戦いは、復讐を言い訳にした殺戮にすぎなかった。復讐心がなかった訳ではないが、本心でもない。殺戮を楽しんでいた。
しかし、ここから始まるのは、女神フリアエを殺し世界を滅茶苦茶にしている司教マナへの復讐。本当の復讐。
「こんなおぞましい終焉、認めないわ」
かつて終焉を願い戦ったギャラルでさえ、この光景の異常さは理解できる。いや、むしろ悲しいを終わらせるために終焉を願ったギャラルだからこそ、悲しみしか生まないこの絶望的な光景を否定するのかもしれない。
近づいてくるレッドドラゴンに気がついたワイバーンが次々と群れ、襲おうとする。しかし今のレッドドラゴンにとって、その程度赤子の手をひねるより容易い。赤い炎に飲み込まれ次々と燃え尽きていく。
ただ、その程度の数を焼いた所で道は開けない。空を埋め尽くすように飛ぶ様々な種族の壁が、レッドドラゴンを塞ぐ。
「この数は異常だ。もう、この地に安住の地などないのだろう」
帝国の小型兵器が、帝都を守るために配備されている。しかし、他種族同士の争いに巻き込まれ撃墜されていく。この程度、もはや時間稼ぎにさえもならないのだ。
レッドドラゴンの行く手を散々邪魔してきた兵器でさえ何もできずに破壊されていく、そんな厚い壁を突破するためにより強くなった炎で蹴散らしていく。
ギャラルも掩護しようとしたが、神器を使いすぎてまた魔力切れだ。
『神話によれば「再生の卵」に入ることで人類には新たな道が開けると……』
ヴェルドレの声が届く。七支刀と生き残った兵と共に、帝都まで辿り着いたのだ。
七支刀の奮闘により、魔物の群れから何とか身を守っているが、彼女一人の力で進むのには限界がある。最低限の自衛をしつつ、なるべく隠れカイム達との合流を待っていた。
「一度しか言わぬからよく聞け。……人間を生き延ばせたくば……卵には入れるな」
まだ、再生の卵に希望を捨てきれていないヴェルドレの言葉を遮るように、レッドドラゴンが重々しく告げる。
「どういう意味?」
「あれは希望などではない。……言うなれば、断頭台だ」
具体的にどういうものなのか、ボカして答えるレッドドラゴン。何か知っているのか、カイムは聞こうとするがやめる。ここまで言うのだ、少なくとも言葉通り再生を望めるものではないと、嫌でも理解できる。
『カイム……女神亡き後、私はどうしたらよい……?』
世界が終わりに向かっている中、成すべきことを見失い震えるヴェルドレからの問いへ、カイムは答えない。
ただ、やれることをやる、それしかない。ギャラルがここまで必死に付いてきたように、今できることへ必死になるのだ。
「生き残りたくば、何にも巻かれるな。己を信じよ。……その様子なら、言わずとも大丈夫そうだがな」
「……ギャラルは、ギャラルのこと、信じれているのかしら」
「信じきれぬのなら、まずは目の前の男のことを信じてみよ。そやつはおまえのことを、信じておるぞ」
少し楽しそうに、カイムがギャラルを信頼していることを暴露するレッドドラゴン。復讐と殺戮に駆られ戦ってきたカイムが、一人の少女に心を許しかけている、その事実がたまらなく面白いのだ。
「ありがとう」
ギャラルはカイムになんて声をかけようか少し悩んだ後、素直にお礼の言葉を言った。そして遠慮なくぎゅっと抱きしめる。
ふへへ……と笑っているギャラルの声から、どんな顔をしているか想像しようとして、やめる。今考えるべきはこいつのことではないと、目の前のことへ切り替える。
話しながらも壁を開き進んでいくレッドドラゴン。その先にいたものは……