ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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エンシェントドラゴン。
数千にも及ぶ子を従えるその威容は、カイム達を圧倒する。
最強の生物であり、人の目前には殆ど姿を見せないはずのエンシェントドラゴンですら「再生の卵」に誘き寄せられて下界に降りてきたのだ。


第2節 伝説への挑戦

 レッドドラゴンの進む先に現れたのは、伝説だった。

 エンシェントドラゴン。レッドドラゴンさえも小さく見えるほどの巨体と、その周りにいる数千の子にカイムは圧倒される。

 しかし、伝説に圧倒されるのはカイムだけではなかった。レッドドラゴンの翼が不自然に強張り、身体は震え、奴の咆哮が聞こえるたびにびくりと身を固まらせていた。

 

「伝説が来おった……」

 

 これまで様々な種族を相手に圧倒し、ブラックドラゴンとさえ好敵手にしてきたあのレッドドラゴンが、伝説と言い怯える存在。

 

「これ以上……進めぬ」

 

 エンシェントドラゴンとは、そういうものだ。一般的なドラゴンとは格が違う、文字通り伝説と呼ばれるだけの存在。

 しかし、意外にもギャラルはそれを相手に、大した感情を感じていなかった。

 

「エンシェント・ドラゴン……聖なるドラゴンと戦うなど我にはとても」

「信じないの?自分のこと」

 

 終焉そのもの(まま)や、彼女に付いた仲間と共に、無限とも思われる魔獣や異族さえ呼び戦ったが、かつてのキル姫達は打ち破ってみせたのだ。あの光景に比べたら、あの存在圧に比べたら、目の前のドラゴンなど大したものではない。

 流石に自分一人でそれだけ戦えるとは思っていないが、レッドドラゴンが言ったのだ。自分を信じきれぬのなら、カイムのことを信じろと。

 

「信じれないなら、ギャラルのことを信じていいわよ。ギャラルは、レッドドラゴンとカイムとギャラルなら、あんなの倒せると信じてるわよ」

「……ええい、信じてどうにかなるものか」

 

 ギャラルの言葉さえ素直に受け取れないほど動揺しているレッドドラゴンだったが、カイムが彼女の首にそっと腕を回していた。

 カイム自身、無意識の内に取っていた行動だった。怯え竦むレッドドラゴンを見て、尊大な態度を取り人類を見下してきたレッドドラゴンにも、弱い心があるのだと驚いていたのだ。そんな弱さを見せるレッドドラゴンに、自分が取っていた行動だ。

 

「は、離れろ!暖めてどうなるものでも……まったく、どうかしておる!」

 

 驚いたレッドドラゴンが声を上げる。しかし、そのカイムの行動が彼女の冷静さを取り戻した。……或いは、冷静さを投げ捨ててしまったのかもしれない。

 

「……ああギャラルよ、信じようぞ。だからそなたも信じよ」

「あんなのに負けるなら、世界なんて救えない。こんな所で止まれない!」

「伝説も神も善悪も関係ない、酔狂な馬鹿者と契約した身を恨むことにしようぞ」

 

 レッドドラゴンは進んでいく。伝説の前に躍り出る。カイムもまた剣を抜き、ギャラルも神器を構える。

 伝説を超えることさえできないのなら、彼らの旅はここで終わる。

 

「偉大なるドラゴンよ。我らのような馬鹿者に出会ったことを後悔するがいい!」

 

 エンシェントドラゴンへ宣言するように、力強くレッドドラゴンが叫ぶ。

 伝説に群れる子を散らすために、先程までの戦いで溜めてきた魔力をいきなり解放する。大魔法を放ち、子を次々と焼き落としていく。

 それを明確な敵意と感じたのか、エンシェントドラゴンと子も攻撃を始めていく。それぞれが吐く炎があっという間に弾幕となり、レッドドラゴン達を襲う。

 少しでも子を減らすために、ギャラルは扉を呼び出し、巨大な魔力をぶつけていく。こちらだって、伝説の武具の力を借りてる存在なんだと、声には出さず主張していく。子一匹一匹は、ワイバーンよりも力のない存在ではあるが、それでも数千という数を減らすのはそう簡単に出来るものでもない。

 カイムも剣を必死に振り、飛んでくる炎を一つでも落とす。レッドドラゴンが自力で避けきれるような数の炎ではない。更に近くまで飛んでくる子を落とすために、信義の魔法で凍らしていく。

 子の吐く炎は、一つ一つは小さく大した火力を持っていなかったが、避けきれず当たっていく炎がダメージを蓄積させていく。

 ギャラルもあっという間に魔力を使い切ってしまい、神器での援護ができなくなってしまう。デボルポポルへと持ち替え、カイムと同じく炎の迎撃をする。

 その間も、レッドドラゴンは必死に炎を吐き、吐き、吐き続け、魔法も交えながら子の数を減らしていく。

 

『ドラゴンがドラゴンに挑む……そんなバカげた戦いがあろうか!』

 

 地上から、その余りにも馬鹿げた戦いを見ているヴェルドレが呟く。レッドドラゴンとブラックドラゴンのような、対等の戦いではない。エンシェントドラゴンという、明確に格上の存在にさえ"挑む"ドラゴンの姿は、異様に映ったのだ。

 

「わたくし達も、負けていられませんね!」

 

 戸惑うばかりのヴェルドレと違い、七支刀は覚悟を決める。隠れているだけでは前に進めない。まだ終わっていない世界を救うためにしないといけないのは、進むこと。

 

『カイム!そなたとドラゴンの間に何があった?そなたの何がドラゴンを駆り立てる?』

 

 それでも、ヴェルドレは理解できない。レッドドラゴンがエンシェントドラゴンへと挑む理由を。

 エンシェントドラゴンと契約しているヴェルドレだからこその、疑問なのだろう。

 しかし、その疑問へ答えるだけの余裕はない。レッドドラゴンも、カイムも、ギャラルも、目の前のとてつもない存在へ剣を振るい炎を吐くので必死だ。

 レッドドラゴンの奮闘の末、子の数がだいぶ減ってきた。エンシェントドラゴンへの道筋が出来る程度には。数千もいた筈の子が、ここまで減ってきたのだ、

 しかし、これまでの戦いで疲れ果てる寸前まで来ている。その先に待つは伝説。レッドドラゴンの心が再び折れそうになる。そんな彼女へ、ギャラルが吠える。

 

「ギャラル達、馬鹿者なんでしょ!」

「ああ、そうだ。我も……とんでもないバカ者になっただけだ!」

 

 勇気を奮い立たせ、レッドドラゴンの翼が力強く開き、空をかける。

 子が減り、いよいよエンシェントドラゴンも本気になったのか、炎に交え強大な魔力も放つ。緑の玉が、レッドドラゴンの側を掠めていく。直撃すれば、間違いなく死ぬと理解させられるだけの、強大な魔力の塊だった。

 子への対処は、カイムとギャラルが全力で行い、レッドドラゴンが伝説へと相対するのに不自由がないようにする。そこまでしなければ、伝説を超えることなど出来ないだろう。

 レッドドラゴンの真紅の炎が、子ではなくエンシェントドラゴンへ向けて放たれる。それは確かに直撃し、僅かながら皮を焼くがその程度。力の差は歴然だ。

 だが、力の差が何であれ負けを認めるわけにはいかない。がむしゃらになりながらも、エンシェントドラゴンの放つ魔法だけは全力で躱し、撃てる限りの炎をエンシェントドラゴンへ返していく。

 そんな中、初めてエンシェントドラゴンに変化が訪れる。体を丸まらせて、周りに子を集める。そして高速で飛びレッドドラゴンから距離を取っていく。

 また子を掻き分けながら接近しないといけないが、それはレッドドラゴンの炎が効いているという証拠でもあった。

 

「はははっ!エンシェントドラゴンがなんだというのだ!」

 

 少し遠くでまた翼を広げ、また構えだすエンシェントドラゴン。しかし、その姿に恐れを抱くものはいなかった。

 炎が効いているのならば、これは勝てる戦いだと、無謀な挑戦などではなかったのだと確信出来る。

 士気も上がったレッドドラゴンを、止められることはできなかった。エンシェントドラゴンは何とか強大な魔力をぶつけ目の前の障害を排除しようとするが、単体で当てられるものでもない。子の炎と連携して排除しようとしても、戦いが長引くほど子の数は減らされ丸裸になっていく。

 レッドドラゴンの勢いは止まらない。ついに全ての子を殺され、ドラゴン同士が対峙する。もはやレッドドラゴンの負ける理由など何処にもない。遂に、真紅の炎がエンシェントドラゴンを焼く時が来たのだ。

 魔力を使いすぎたのか、当てられないと悟ったのか、エンシェントドラゴンもまた撃つものを炎に戻す。お互いの炎が空を飛び交い、敗れたのは……エンシェントドラゴンだった。

 炎に包まれ、焼かれ、堕ちていくエンシェントドラゴンを見てレッドドラゴンが呟く。

 

「……礼を言うぞ、カイム、ギャラル。我は今、我自身を超えられた気がする」

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