ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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全てが終わった。
神の洗脳が解け、死を望むマナをカイム達は冷たく突き放す。

ヴェルドレは再び封印が必要だと嘆く。そこで声を上げたのは……


第7節 閉じた魂

 祭壇へと落下したマナの元へレッドドラゴンは降下する。避難していたヴェルドレと七支刀も祭壇へと戻ってくる。

 ギャラルがレッドドラゴンから降りるが、力を使い果たしたのもありふらついてしまうが、カイムが支えてくれる。心地の良い感覚に、そのままカイムの腕へとしがみつく。

 マナはうつ伏せている。死んだ訳ではない。それぞれがゆっくりとマナの近くへ歩いていく。

 すると、突然マナが笑いだす。

 

「……ふふ、ふふふ、あははははは!あなた達、ほんっとバカね!せっかくの再生の好機を逃したりして」

 

 ゆっくりと起き上がり、演説でもしているかのように語りだす。

 

「神はすべて見ているのよ!最後の審判なのよ!わたし達は変われるのよ!何も不安はないの!愛されているんだから!」

 

 偶然近くにいたからか、或いは神の名を語ったからか、ヴェルドレの元へ歩いていく。

 しかし、ヴェルドレは無言で突き飛ばす。封印という慈悲さえ踏みにじった司教へ、今更かける情けを持つほどヴェルドレは情に厚い男ではない。

 カイムはギャラルを優しく腕から離し、マナへと剣を抜く。今度こそ、殺してしまうつもりで。

 

「……憎いのね?わたしが?……殺してもいいよ」

 

 そんなカイムを挑発するように、マナは語りだす。カイムの近くを回りながら、大げさな態度を取りつつ。

 

「おにいさん!殺しなさいな。遠慮なんかいらないわ。ぐっさりぐっさり殺してよ。ほら、殺してよ。おにーさん!」

 

 しかし、その言葉は必死さを帯びていく。殺される覚悟なんてものではない、殺してほしいと懇願するように訴えかける。

 

「わたし平気なんだから。だって、愛されてるの。神に愛される子供は、お母さんにも愛されるはず。ぜったい平気なの。愛されてるの、だから!」

 

 だからと口にした途端に、頭を抱えうずくまってしまう。

 ギャラルは改めて、この幼い少女は母の愛に飢えていることを理解する。かつての自分と同じなのだ。

 殺さないでほしいとカイムへ伝えようとするが、その必要がないことに気がつく。カイムも剣を降ろしている。

 ただ、カイムは彼女に同情したのではない。こんなクソガキのせいで、両親も国もフリアエも、何もかも失ったことに呆れていたのだ。

 

「殺せよ!おら!殺さねえと、わたし……わたし……これからどうすればいいんでしょうか?憎むぐらいなら殺してください。

一気に殺してください。憎まないで、憎まないで、お母さん!わたし、死ぬから。ね?」

 

 七支刀は、封印を破り最後まで抵抗した彼女を、それでも殺すことには戸惑いがあった。

 しかし今はそれ以上に、必死に死を願い懇願するあまりの姿に絶句していた。見たところまだ10も行ってないだろう幼い子供が、必死に殺せと言う姿は普通ではない。

 

「あなたでもいいわ。わたしを殺してください。お願いします。あなたでも、あなたでもいい。殺してください。殺して。殺せー!!」

 

 カイムに殺意がないと分かったマナは、ヴェルドレと、ギャラルと、七支刀、この場にいる者へ殺せと懇願して回る。

 しかし理由はどうあれ、その願いを叶えてくれるものは一人もいなかった。

 

「カイムはおぬしを一生許さないそうだ。やすやすと死ねると思ったら大間違いぞ」

 

 レッドドラゴンがカイムの変わりに声を上げる。その怒りをはらんだ声と、言葉の内容も相まってマナは小さく悲鳴を上げながら尻もちをつく。

 

「カイムだけではない。この世界の何千もの魂がおまえを許さない。わかるか?おぬしは一生憎まれるのだ」

「う、うふふふふ……いや……やぁよ」

「罪の深さにもだえ、のたうちまわりながら生きるがいい。我が言ってやろう。おぬしに、救いはあらぬ!」

 

 レッドドラゴンはハッキリと告げる。死という逃げ道など、救いなどないことを。マナの犯した罪は一生をかけても許されるものではない、それほど重い物だと。

 彼女に情が移っているギャラルや七支刀でさえも、彼女の所業を許すつもりはなかった。同情の余地はあるが、それで許されるほど簡単な話ではない。

 

「いやああああああ!おかーーさーん!許して、許して、許して、許して……ごめんなさい。もうしませんもうしません」

 

 罪の重さを受け止められないマナは、絶望の声を上げる。のたうち回りながら、許しを請う。しかし、この場にいない母親へ許しを請うマナの姿は、あまりにも惨めで滑稽だった。

 見ていられなくなった七支刀が、マナを優しく抱きかかえる。ただ泣き叫んだところで、誰も許してはくれない。この場にいない母親だって、そうだろう。

 

「同情するくらいなら、殺してくてください……」

 

 小さく呟くが、その言葉に耳を向けるものはいない。

 

 マナへ言うこともすることも、この場に残る三人にはもはやない。レッドドラゴンの方へ向き直ると、そのレッドドラゴンが質問をヴェルドレへ投げる。

 

「封印の適合者はおるのか?」

「一刻も早く、新しい女神を探し当てねば……」

 

 そう、まだ封印は解かれたままであり、世界が滅ぶ危機なのだ。

 ギャラルは一瞬だけ、自分が封印の女神になるという選択肢を浮かべた。それならカイムや世界を救うという当初の目的も達せられるし、どうせ一度はユグドラシルに封印された身なんだと考える。

 しかし、かつての封印は自分一人ではなかった。キャールブとグレイニプルが共にいた。終焉という希望を抱えた仲間が、母と姉のように接することの出来るくらい、優しい仲間が。

 それを、こんな異世界で、しかも全身に苦痛を伴うような封印を、キル姫の永い寿命で受け続けなければいけない……考えるだけでゾッとする。

 

「また誰かを犠牲にせねばなりません。私は……さしずめ死刑執行人です」

 

 その犠牲に立候補することは、ギャラルにはできなかった。

 

「また進めぬようになった。……暖めてくれぬか?」

 

 ヴェルドレを一瞥したレッドドラゴンは、カイムへと声をかける。それは、エンシェントドラゴンに対峙した時のように、温めてほしいという願い。

 カイムに断る理由はない。彼女の頭を優しく撫でる。

 しかし、何に怯えているのかは分からなかった。敵は全て倒したのだ、今更何に怯えるのだと疑問を感じていたが、それでも彼女の願いだ。

 レッドドラゴンも、キューと鼻を鳴らす。カイムに撫でられるのは、とても心地の良いことだろう。

 ギャラルはそんな彼女の様子を見て、自分も撫でてほしいと言えば撫でてくれるだろうか?とぼんやり考える。

 

「……もう、だいじょうぶだ」

 

 レッドドラゴンもまた、優しい声でカイムに言う。カイムはそっと彼女から離れる。

 そして、カイムに向けられた優しい声とは違い、いつもの彼女らしいハッキリとした声でヴェルドレに告げる。

 

「我を封印に使うがよい。精神力、生命力、すべてにおいて人間の比ではないぞ」

 

 カイムもギャラルも、言われたヴェルドレも驚く。

 ギャラルは理解する。先程自分が感じていた封印への恐怖があったからこそ、カイムに撫でてもらっていたのだ。……無でてもらっただけで、その恐怖を乗り越えたのだ。やはり自分なんかとは違う、高潔な存在なのだ。

 

「そんなことが!?……よろしいのですか?」

「我の気が変わらぬうちに済ませたほうが良い」

 

 ヴェルドレは、レッドドラゴンへと深く、深く一礼をする。

 

 封印の儀式が始まる。ヴェルドレが呪文を唱えると、レッドドラゴンは苦しみだす。カイムはレッドドラゴンの首元に抱きつき、ギャラルはその隣に立つ。ギャラルも、自分なんかがレッドドラゴンに触れていいのかと一瞬だけ悩み、それから手を当てる。

 呪文が完成する。文字が御札のような形に現れ、その文字はレッドドラゴンへ飛んでいく。封印の文字はレッドドラゴンの全身へとまとわりつき、身体へと刻まれオシルシとなる。

 全身が焼かれるような痛みにレッドドラゴンが悶え苦しむ。カイムはよりいっそう強く彼女へと抱きつき、ギャラルも抑えるようにしがみつく。

 

「おぬしの……涙……初めてみる……な」

 

 カイムは、泣いていた。フリアエが死んだときですら出なかった涙を流していた。親愛なるレッドドラゴンのために。

 レッドドラゴンがゆっくりと頭を上げようとする。それを察した二人はそっと彼女の首元から離れる。

 しっかりとカイムを見ながら、彼女は話し出す。

 

「……覚えておいて……もらいたいこと………が……ある」

 

 カイムとギャラルも、しっかりと彼女を見つめる。

 

「アンヘル……それが我が名だ」

 

 しかし、カイムは堪えきれなくなり顔を逸らそうとする。気がついたギャラルはカイム頬をつねる。

 いきなりつねられて驚きギャラルへ振り向くが、今度は顔を押して視線を無理矢理レッドドラゴン……いや、アンヘルの方へ戻す。

 

「目を逸らさないで」

 

 今までカイムと共にしてきて、気がついたのだ。大事なときに、いつも目を合わせられなくなることに。きっと、今もそうなるのではないかと思い少し気にしていたのだ。

 

「…人間に名乗るのは最初で…最後だ」

 

 アンヘルの顔へ近づき、その名を呼ぼうとする。しかし、当然だがカイムの口から声が出ることはない。

 

「……カイムのこと……頼んだぞ」

 

 ギャラルの方へ向きながら言う。……アンヘルが頼むと言ったのだ、カイムのことを。自分のことを、アンヘルに認められていたのだ。

 

「うん!アンヘル!」

 

 カイムの手を握りながら、ギャラルはハッキリと彼女の名を口にする。声にならないカイムの代わりになるかも分からないが、それでも今はその名を呼ぶべきだと感じたから。

 

「さらば……だ、馬鹿……者……」

 

 最後の言葉と共に、アンヘルの体が光の玉へと変わっていく。アンヘルの身体を安置するために、転送させるのだ。

 消えていくアンヘル。壊れた神殿から覗く青い空が世界が正常に戻ったことを教えてくれる。

 親愛なる者が消えてしまった悲しみに堪えきれず、崩れ落ちるカイムをギャラルが優しく抱きかかえる。

 

「神よ……それでもあなたは、生きろとおっしゃるか?」

 

 ヴェルドレが空を見上げながら呟く。カイムもゆっくりと起き上がり、ギャラルも、七支刀も、この瞬間は同じ空を見ていた。

 

 

 a fallen Angel never smiles

 

 

 A fresh shrine will be built by the hands of the lord on top of numerous sacrifices.

《幾多もの犠牲の上に主の御手の新たな祠が作られるだろう》




二人のキル姫の干渉はあったが、本来のA世界線と同じ結末を迎えた、と。
しかし、マナの贖罪の旅にギャラルホルンが加わってカイムも含め三人の旅となっており、七支刀も世界を立て直すのに尽力するようですから、これからが大きくる変わっていく筈です。この先は私の管轄外なので、次に任せますが。
興味深いのは別の世界線の方でしょう。キル姫によって発生する分岐……
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