たった今、帝国によって全てを失った哀れな男。
燃え盛る家の前に、男が座っていた。ナイフを自らの首にあてがうようにして。
男の前には、三人の少年が倒れていた。それは、レオナールの弟達。いや、死んでしまっている以上、弟だったものと形容すべきか。
「ラウム、リベサル、ルーキフーゲ、こんな情けない兄を許しておくれ」
死んだ弟達に、謝罪の言葉を述べる。
先程までこの男は、とある用事で家を離れていた。その離れていた少しの間に、家まで帝国軍が襲来し弟達を惨殺していったのだ。
自らも命を絶とうと、首にあてがったナイフを突き刺そうとする。死への恐怖と葛藤しながらナイフを刺そうとしていたが、触れた瞬間にナイフを落としてしまう。
ナイフの先端には血がついている。表面を傷つける程度の傷は出来たが、その程度。死の恐怖に打ち勝つことなど、この男にはできなかったのだ。
自死を選ぶことさえできない情けなさで、俯いていると何か音が聞こえた。
驚きながら周りを探すと、彼の周りに小さな光が飛んでいた。その光はレオナールの前に止まる。妖精だった。
妖精へと、懺悔するようにレオナールは語りだす。
「……私は汚らわしい人間なのです。弟達が殺され、家が焼き払われていることも知らず裏の林で……」
その言葉を遮るように、妖精も喋りだす。目の前にある滑稽なものを嗤うように。
「ん?おいおい、それからどうした?アレか?おまえ、弟達を見捨てちまったか?おお、哀れでみじめな弟達よ、キャハハハハハッ!お気の毒っと!ますますおもれぇ!一等賞!」
妖精の罵倒は止まらない。死んだ弟の前に飛びながら、口は回り続ける。
「うげえ!こりゃまた派手にやられたなァ。おいおい、見ろよ。この可哀相な目!最期に何見て死んだんだろうな?アッハハハ!」
しかし、レオナールはそんな弟の目を見られない。吐き気を堪えながら何とか言葉を絞り出す。
「見たくありません。……私には見られないっ!」
そんなレオナールを罵倒するように、いや、罵倒するために妖精の口は回り続ける。まるで罵倒を止めると死んでしまうかのような勢いで。
「キャハハハハ! 気持ち悪いってかァ?人間なんてダメだね。ぜんぜんダメ!汚いし、臭いし、……死ねばぁ?そーだ!死ねよぉ!いのち捨ててちょうだい!ダメダメダメダメ。最低。はい、決定!」
「私は……」
確かに死のうとはした。しかし、結局できなかった。それが今の有様だ。否定の言葉を口にしようとするレオナールを遮り、まだまだ罵倒は回る回る。
「キャハハハハ! 怖いんだろ?死ぬのがよっ!死にたくねぇんだろ?本当はよっ!ワアチャー!!うざってぇ!!マジで!さっさと死ねよ!!」
罵倒を並べ続ける妖精の中に、一つの考えが浮かぶ。……正確に言えば、その考えは最初からあり、まるで今思いついたような態度を取っただけだが。
「…………待てよ?な・ん・な・ら!ちょっと“契約”してみっか?」
「それは……どういう……?」
突然の提案に固まるレオナール。死ね死ね死ねとひたすら罵倒していた妖精の、あまりにも突然の提案。
「あ?わかんねーかなァ?もしもーし!その頭は飾りデスカー?キャハ!これからおまえと俺は手を組むのヨ。一生離れられないのヨ。キャハハハハーハ!ダッサー!ウソ、ウソ、お願いしマース。契約してくだサーイ!」
契約のお願いをしながらもなお罵倒が止まらない妖精に、レオナールは贖罪のためにも提案に乗ることにした。