別れて行動していた七支刀とイウヴァルトが辿り着く頃には、戦いが始まっていた。
フリアエ達が潜む岩場の周りに敵影がないことを確認しながら、二人は走る。
「ありがとう、俺一人ではあの子を助けるなんてできないんだ」
「困ったときは支え合う、そういうものですよね」
若干、お互いの言葉がすれ違っていることに気づかずに二人は走り続ける。
イウヴァルトは七支刀の戦いをまだ見ていないが、ギャラルの強さを考えれば彼女もかなり強いのだろうと想像していた。実際、キル姫はその辺の一般兵なんかよりも圧倒的に強い。
アンヘルの姿を追い走っていたが、途中でアンヘルが止まる。若干小さめの姿のドラゴンの群れとの戦いが始まっていた。そして、その下に捕虜収容所が見える。
「わたくしからなるべく離れないようにしてください。一人は危険です」
「ああ。背中を任してもいいか?」
「わたくしこそ、お願いします」
二人は距離が離れすぎないように気をつけながら捕虜収容所へ走る。
空のドラゴン同士の戦いに気を取られ、周囲への警戒を怠っている帝国兵の一団へと、七支刀が斬りかかる。巨大化させた神器で一薙ぎすれば、何人も巻き込まれ死んでいく。
今一番の脅威となった七支刀へ、複数の弓兵が構える。もっとも近い場所にいる弓兵へイウヴァルトが駆け寄り、剣で手甲を叩きボウガンを落とし、返す刃で帝国兵の首を狙う。
イウヴァルトが倒した弓兵を背後に取り、他の弓兵からの攻撃を防ぎながら七支刀は進んでいく。いくら神器が大きいとはいえ、散開している弓兵を一撃で屠ることはできない。今度は七支刀から遠い場所で構えている弓兵を狙い走る。
そうして、何とか一団を壊滅させるが敵はまだまだいる。
「やはり、君も強いんだな」
自身よりも大きい剣を振り敵を壊滅させる姿に、やはり自分の強さが到底敵わないものだとイウヴァルトは理解させられる。
「イウヴァルト様も強いですよ。わたくしは剣技が得意というわけではありませんから」
イウヴァルトは、周りの契約者やキル姫と比較して自身を弱いと卑下しているが、実際はそんなに弱い訳ではない。
カイムの父親であり、剣の達人であったガアプから剣を教わったのだ。カイムが異常なだけで、イウヴァルトも磨かれた剣技は常人のそれではない。ただ、常にカイムと比べてしまっていたせいで気づいていないだけだ。
「いいや、俺なんか……」
空の敵を殲滅したのか、アンヘルが地上へと降下し炎を撃ち始める。レオナールも背からおり、魔法を放ち敵団を壊滅させていく。
「もっと、圧倒的な力が欲しいんだ。でなければ、フリアエを守れない」
「フリアエ様のことが、好きなんですね」
「元許嫁だからな。女神になってそれもなくなったが、想いだけは変わらない」
もはや二人が戦わなくても、帝国兵は壊滅していく。それを察して、足を止める。そして、七支刀はイウヴァルトの目を見て、話し始めた。
「だから、強くならなければならないんだ。さっきも、ギャラルがいなければ俺達は助からなかった」
「剣を振るのは誰にでもできます。けれど、フリアエ様を愛せるのはあなただけです」
「……くっ」
七支刀は、彼らの関係を知らない。フリアエがイウヴァルトではなくカイムを選んだことを、知らない。だからこそ、純粋にイウヴァルトのことを応援する。だからこそ、イウヴァルトは悔しい気持ちになる。
「それとも、フリアエ様は強い人にしか興味のないような方なのですか?」
「違う。ただ、フリアエは……」
ふと、イウヴァルトの脳裏に浮かんだ景色。幼い頃、難しいしがらみに絡まれる前、純粋に友達として三人仲良く過ごしていた時の記憶。フリアエは、笑っていた。それは……
「違う。守れなければ意味がないんだ」
歌。フリアエは、確かにイウヴァルトの歌を聞き喜んでいた。城から出立する前に歌った時も、少し嬉しそうに聞いていた。
それがなんだ。歌で喜んでくれたとして、守れなければどうするんだと考えを否定する。
「フリアエ様の心を救えるのは、イウヴァルト様かもしれません。わたくしにはフリアエ様の心がわかりませんが、きっとそうだと信じています」
そう言ってから、七支刀は振り向く。捕虜収容所の看守であった重装兵もカイムの剣の前には破れ、死体へと変わっていた。
改めて契約者の強さを見せつけられたイウヴァルトは、自身の無力さを嘆く。
七支刀は、この場で散ったもの達へ祈りを捧げることしかできなかった。