イウヴァルトは自分の存在意義を確認するように、フリアエのために一曲歌う。
「君は神殿に向かわなくていいのか?」
「わたくしは"声"で連絡が取れませんし、フリアエ様の守りも必要でしょう?」
神殿へ飛んでいくアンヘルを見守りながら、二人は会話している。
捕虜収容所とその付近の帝国軍は壊滅したとはいえ、いつ襲ってくるか分からないため守りは必要だと七支刀は残った。
七支刀に悪意はないのだが、イウヴァルトは自分では守りにさえならないと言われているようで納得が出来ない。いや、実質彼女に比べたら大して強くはないのも事実だが。
「しかし、帝国はギャラルホルンをどうしたのだろうか」
疑問を口にするのはヴェルドレだ。捕虜になっていないのなら、もしかすれば殺されてしまったかもしれない。最悪のパターンが脳裏によぎる。
「なあ、フリアエ。こんな時で悪いんだが、一曲歌わせてくれないか?」
「……イウヴァルト?」
イウヴァルトからの突然の提案。捕虜収容所付近で七支刀と話してから、彼の頭の中でずっと引っかかっていた。
強さが必要なのだと、それがなければ意味がないのだと必死に否定しようとしても、歌を聞き喜んでいたフリアエの姿を忘れられない。
もし自分に強さがなくても、せめて歌だけはフリアエを喜ばせられるのなら、必要とされるのならと、すがるように考えてしまう。
「帝国に、場所を教えてしまうのでは?」
ヴェルドレの懸念はもっともだ。自分から音を出して場所がバレてしまえば意味がない。
「そんな大きな音で演奏はしないさ。砂漠だし、音も響きにくいはずだ」
「……わたくしは、イウヴァルト様の歌を聞いてみたいです。フリアエ様も、いいですよね?」
七支刀はイウヴァルトへ助け舟を出す。彼の歌を聞いてみたいというのも本音ではあるのだが。
フリアエも同意する。今すべきなのかは分からないが、フリアエにとってイウヴァルトの歌はかけがえのないものの一つなのだ。
イウヴァルトはハープを取り出し、手頃な岩に座り歌う。周りにいた連合兵も歌に呼び寄せられるかのように彼の周りに集まってくる。
普段はまるで無感情かのような顔をしているフリアエも、穏やかな笑顔で聞いている。
やはり、イウヴァルトには力以上に大切なものがあるのだと七支刀は確信する。彼女もイウヴァルトの歌に聴き惚れていたが、聴き続けたい気持ちをぐっと抑えヴェルドレに声をかける。
「ヴェルドレ様、今大丈夫ですか?」
「……ええ。どうかなされましたか?」
ヴェルドレもまた、彼の歌に聞き入っていたのだろう。少し遅れて返事が返ってくる。
「わたくしは封印のことを知らないのです。ヴェルドレ様の知っている限り、教えてもらえませんか?」
「構いませんとも。封印とは……」
この世界には封印が存在し、その封印を維持するためには封印の女神が必要であり、女神の負担を減らすために神殿が各地に存在している。その一つが今カイム達の向かっている砂漠の神殿もその一つ。
封印の女神とはいわば人柱であり、常に全身に激痛が走っており、性的な行為も禁じられている。普段は外界との接触も禁じられ、顔を合わせることができるのも神官長、つまりヴェルドレのみである。
その封印が解かれると、再生の卵が出現するとも言われているし、世界が終わるとも言われている。とにかく解いていいことが起きるようなものではない。
「実際に解かれた姿を見たものはいない。私にも世界がどうなるかは分かりません」
「……じゃあ、イウヴァルト様の婚約がなくなったのも?」
「女神に選ばれるとは、そういうことです」
つまり、フリアエの意志がどうあれ結ばれることのない愛だったのだ。
けれど、イウヴァルトの焦り方はそれだけには見えない。もっと、別の理由があるような気はするのだが、その正体が見えてこない。
「……待ってください、まさか封印が!?」
「うっ……」
ヴェルドレが突然大きな声を上げる。それとほぼ同時に、フリアエが苦しそうにする。
「フリアエ!?大丈夫か?何があったんだ!」
イウヴァルトは驚き演奏をやめ、フリアエを抱きかかえる。何が起きたのかとヴェルドレへ問い詰めるが、その表情が良くないことが起きたのを物語っていた。
「砂漠の神殿が、破られました」