フリアエを攫われてしまったことに、カイムは怒りを露わにし、イウヴァルトは絶望する。
カイムは怒りに任せ剣をその場で振り回し、ヴェルドレへと突き付ける。
「……ギャラルホルンに刃を向けられた時、私の心にあったのは慈悲でも無でも、恐怖ですらなかった。私の心には、怒り、ただそれだけがあった。……今さら、人に何かを説くなど」
『それが普通だ。やつは敵だ。敵に慈悲をかけようとするのがおかしいんだ』
カイムは少しずつ冷静さを取り戻していく。剣を収め、思案する。何故やつは俺のことを庇った?単に世界を滅ぼしたいだけならば、ここで俺達を皆殺しにすればいい。それに、最後にギャラルホルンが向けてきた表情は、敵に向けるものではない。むしろ……
「……カイム、僕には何も出来ないのか?」
カイムの思考を遮ったのはイウヴァルトだった。カイムが冷静でいられるのは、ギャラルホルンが誰も殺さなかったことにある。少なくともこの場で殺さないのなら、殺せない理由があるはずだ。
しかし、イウヴァルトはそこまで頭が回るほど余裕はない。会ってから数日とはいえ、気にかけてくれていたギャラルホルンが裏切りフリアエを攫ったのだ。しかも、自分は手も足も出なかった。
『いや、あいつは……』
説明しようとして、カイムの声が伝わらないことを思い出す。レッドドラゴンも傷を負っており、代わりに声を出してくれることは期待できない。
それを察したレオナールが口を開く。
「彼女が我々を殺さなかったのには理由があるはずです。女神も無事でしょう」
「……無事、なのか?カイム、フリアエを助けてくれ!僕には出来ない」
『ああ、言われなくても助けるさ』
露骨にしょぼくれている親友の姿に、カイムは色々と思うところはあるが伝えることはできない。今になって契約の代償が響いてくることに、歯がゆさを感じる。
「一緒に助けましょう、イウヴァルト様。カイム様でも一人は大変な筈です」
「それでも、僕なんかじゃ力にはなれないさ」
「……わたくしだって!」
いつまでもへこたれているイウヴァルトを見て、七支刀の中で何かが弾けた。
珍しく大声を上げたことに、その場にいた者たちは驚く。
「わたくしだって、何も出来ませんでした!あなたが思っているほど、わたくしは強くありません。それでも、お互いが手を取り合って協力して、前に進めるのです」
『……お前でもいないよりはマシだな』
七支刀のことを心から嫌ってはいるし、今の言葉もくだらないとは思ったが、一人で戦うよりかはマシなのも事実だ。ただ殺して回るのなら一人でもいいが、フリアエの命がかかっている戦いなのだ。
「俺なんかでいいのか?きっと足を引っ張るぞ」
「その時はわたくしが支えます」
七支刀はハッキリと告げる。その瞬間、イウヴァルトの中で何かが起きた。それが何なのか自覚も出来なかったが、せめてカイム達と一緒に行くくらいの勇気が自然と湧いてきた。
「ありがとう。そこまで言うのなら、頼らせてもらうよ」
「……はい!」
イウヴァルトの元気が戻ったのを見て、僅かながら七支刀に感謝する。俺よりも、お前みたいなやつの方がイウヴァルトには似合っているのかもな、と考えるが"声"にはしない。
「その分わたくしも、イウヴァルト様を頼らさせてもらいます。剣を、教えてもらえますか?」
「俺でいいのか?カイムの方が上手いぞ?」
イウヴァルトがカイムを見るが、首を振りながらアンヘルの方へ向かう。あんな面倒な女、そのまで見てやるつもりはない。それに、イウヴァルトも教えている方が気晴らしにはなるだろう。
「ドラゴンの傷は深いようです。我々も、もう少し休んでから追うべきかと」
アンヘルの傷が癒えるのを待ちながら、各々の時間の使い方をしていった。
全てはフリアエを取り戻し、世界の滅びを防ぐために。