だが、その先でカイムとフリアエを待つのは、司教マナが仕組んだ最後の儀式だった。
祭壇にはベッドが一つぽつんとあり、ナイフが刺さったぬいぐるみが転がっていた。その側に、フリアエの姿が。
フリアエに駆け寄ろうとするカイムだが、その近くに誰かの姿があることに気がつく。
「あの子が司教よ」
ギャラルホルンは説明しながらも、カイムの背後に回る。逃がすつもりはないらしい。
「兄さん!?」
フリアエもギャラルホルンの言葉に反応してそちらを初めて見た。そこには愛しい兄の姿があった。
しかし、司教ナマは笑う。その姿に見合わない男の声で。
「天使は笑わない。天使は起こしてはならない……」
すると突然、何かに引っ張られるようにフリアエの体が浮き、近くの柱へと叩きつけられる。そこにくっついて離れなくなる。
カイムが動き出すよりも先に、マナは言葉を紡ぐ。
「ラララララ、ララ、ララララ……私は女なのに、普通の女なのに、どうしてこんな……ちぇっ、ちぇっ、クソが!」
見た目の相応の少女の声と男の声が混じる。
「やめて……」
フリアエは苦痛に顔を歪ませる。それは叩きつけられた痛みからだろうか。それとも……
「封印がなんだってんだよ!私を助けろよ!役に立たない男どもめ!助けてください。おねがい。助けて。抱きしめて。お兄ちゃん」
「いや!!」
心を暴かれる苦痛からか。
「わたし、あなたの心が読めるの。ふふ、うふふふ……」
「違うわ、私……そんなこと思ってない」
フリアエは必死に否定しようとする。よりにもよって愛する兄が目の前にいるこの場で、汚い心を、本性を暴かれるのだけは避けたいからだ。
「憎い、憎いよ、クソ野郎!こんな世界滅びればいい!」
「違う!」
しかしマナは容赦なく言葉を続ける。当然だ、その為にカイムを連れてきたのだから。女神の薄汚れた本性を、愛する、男として愛する兄の前にぶちまけて晒すために。
「汚いの。私、汚いの。女神なんかじゃない。諦めてるだけ。お願い、お兄ちゃん。私に……」
「ごめんなさい!!」
もう認めるしかなかった、薄汚い自分の本性を。でなければ、マナは言葉を続けていただろう。
絶対に口にされたくない。こんな汚い女が、血の繋がった兄を男として愛しているなんて。兄妹で男と女の関係だなんておかしいと、理性があるからこそ否定してしまう。兄もそれを認めないだろうと考えてしまう。
「はい、女神失格……どうする?」
女神失格の言葉と同時に、フリアエの拘束が解け柱から離れる。
マナは楽しそうにフリアエを見守る。これから何が起こるのか期待しているのか、或いは知っているのか。
カイムは突然のことに呆然としながらも、フリアエへ一歩歩み寄る。そんなカイムへ、フリアエは救いを求めるように視線を寄越す。二人の視線は合い、交わり、そして………カイムは、目を逸らした。
カイムが何を思って目を逸らしたのかは、フリアエには伝わない。カイムには言葉を伝える口が閉ざされているから。だから、それは拒絶の意思だと伝わってしまう。
ショックのあまりふらつき柱へもたれかかる。フリアエの視線の先には、ぬいぐるみに刺さったナイフ。そのぬいぐるみからナイフ取り、フリアエは
『フリアエ!!』
自分の胸に、ナイフを突き立てた。
カイムは、代償の重さを知る。カイムが視線を反らしたのは、決して拒絶したからではなかった。それも……愛していた故だった。性的な感情を抱いていたのはフリアエだけではなく、カイムもだった。そしてそれはお互い知ることなく、お互い普通ではないと思い、最期まですれ違った。
ふらふらとフリアエは柱へと戻り、寄りかかる。
「私を……見ないで……」
それが、最期の言葉になった。
「天使は、笑う?」