封印が失われ"再生の卵"が出現してしまった状況でアンヘルは絶望するカイムを叱咤する。
カイムの表情が、憎しみに染まる。怒りに身を震わせるカイムだが、ギャラルホルンにはもはや"カイム"は見えていない。
「ぬひひ……よかったわね、カイム。フリアエは女神の役からようやく降りれたのよ?これで一つ幸せな世界に近づいたわ!」
ただ純粋に嬉しそうに、ギャラルホルンは笑いかける。
『フリアエの死が、よかったと?幸せな世界だと?』
火に油を注ぐように、カイムの怒りは燃え上がる。しかしギャラルホルンへ怒りをぶつけた所で何も解決しない。所詮は帝国の傀儡と化した人形だ。
カイムの視線は自然とマナに注がれる。全ての元凶たる、マナへ。
剣を構えマナの目の前まで走る。
『馬鹿者!!激情に走るな!冷静になれ!!』
カイムの激情から全てを察したアンヘルは、カイムを止めようとする。
『……!!』
勢いよく剣を振り上げ、怒りのままにマナを斬ろうとする。しかし、振り下ろす前に何とか腕を止める。アンヘルの必死の声に、止められる。
『こらえよ、人間! 卵が生まれるのだ。世界が本当に終わるぞ!一刻も早く出て来い!!女神の死を無駄にするな!』
女神の死を無駄にするな。アンヘルの言葉に、カイムはハッとする。そうだ、世界が滅びればフリアエが今まで耐えてきたものは何だったんだ。
理不尽にも女神にされ、あれだけの想いを溜め込み耐えてきていた日々が全て無駄になるんだ。理屈で激情は収まるものではない。しかし、それでも今は世界を守ることを優先すべきだと理性が訴える。
剣をゆっくりと降ろし、マナを一瞥だけしてカイムは祭壇から走り去る。
「ねえ、ママは喜んでくれるかしら」
カイムのいなくなった祭壇で、ギャラルホルンはマナに問いかける。
赤目の病でまともな思考ができなくなっているギャラルホルンにとって、あるのは愛への依存だけ。
「ええ、お母さんは見ているわ。人類が滅んだとき、無二の愛を注ぐでしょう」
自分が求めていたものが何だっのかさえ、もはや見えていない。それは母親への愛だったのか、カイムへの依存だったのか。もしかすればもっと根本的に違う何かだったのかもしれないが、もう見えてはいない。
「カイムも嬉しい?嬉しいよね?ギャラルのこと、否定しないよね?」
もうカイムはいない。虚空に向かって話しかけるその姿を見れば、正気など残っていないことは一目瞭然だ。
「天使を飛ばすな」
「………」
マナが命令を告げる。ギャラルホルンはまるで機械のように、なんの反応もなくカイムを追う。
誰もいなくなった祭壇で、マナは小さく花びらをまいた。