空から落ちるカイムの姿をレオナールは捉えた。しかし、ヴェルドレ達と合流するため少し離れていて、かつ凶暴化した亜人に囲まれている状況では助けに行くことなどできない。
少し遅れて七支刀が、空から落ちる影を見る。七支刀の視線に気が付きイウヴァルトもまた気がつく。
「あれは……カイム!?」
しかし、レオナールと同様亜人に囲まれている上に遠い。生き残りの連合兵と共にヴェルドレを護衛するので手一杯だ。
また何も出来ないのか……!イウヴァルトは悔しさに歯がゆい気持ちになるが、それでどうにかなるものではない。
赤い空、離れていく二匹のドラゴンの姿。こんな所で死ぬわけにはいかないと踏ん張ろうとするが、重力に身を任せ落下しているこの状況で出来ることなどない。例え契約者とはいえ、所詮は人間だ。これだけの距離を落ちれば死ぬに違いない。
戦いの中ではない、こんな無様な形で死ぬんだなと諦めの気持ちがさしてきた頃、空から高速で接近する影。
「カイム!!!」
カイムが地面に触れるよりも早く手を掴むため、必死に手を伸ばす。カイムも無意識の内にその姿へと手を伸ばす。
その姿が……ギャラルホルンの姿が目の前まで迫り、お互いの手が固く握られる。釣られる姿で止まったカイムが下を見れば地上までもう少し。あと1秒でも遅ければ、肉塊になっていただろうか。
「……えっ、あっ」
正気を取り戻したのか……正気を失ったのか、自分が何をしたのか驚きながらギャラルホルンは手を離す。ドサリとカイムが地面に尻をつく。
ようやく、こいつの行動原理が理解できた気がする。決戦の時に助けてくれたのは、今助けてくれたのは、僅かながら正気が残っているからだ。
どうしてそこまで俺にこだわるのかは分からないが、俺を救うという言葉は本気のようだ。
カイムの目の前には、神殿があった。この先に司教の気配がする。全ての元凶、マナの気配が。
『大丈夫か!?カイム!!』
『俺は平気だ。それよりも……』
カイムの背中で、ギャラルホルンが静かに地上に降りる。何故目の前の敵を助けてしまったのかという疑問に首を傾げ、やめた。殺しそびれたのなら、もう一度殺ればいい。
『まずはあいつを終わらせよう』
カイムはギャラルホルンへゆりの葉の剣を向ける。まだ僅かな理性が残っている間に、これ以上罪を重ねる前に、自分を見失ってしまう前に……殺そう。
ギャラルホルンもまた鉄塊を構える。その表情から感情が失われていく。もう一度助けられるなんて奇跡、もう起きはしないだろう。
決意と共にカイムは走り出す。同時にギャラルホルンは飛び、空から迫りつつ鉄塊を振り下ろそうとする。あんな攻撃まともに受ければひき肉になるだろう。大きく横へ飛んで躱し、通り過ぎたギャラルホルンへ視線を戻す。
あいつが飛べば、こちからから仕掛けられるものは魔法しかない。それを分かった上で空からの攻撃を続けるのだろう。
ゆりの葉の剣に込められた魔法を放つ。光の衝撃波が生まれ、ギャラルホルンへ迫っていく。しかしするりと避けられ、二波三波と飛ばしても平気で躱し、鉄塊を盾にし防がれる。
避けに徹し、こちらの魔力が尽きるのを待てば後は一方的に攻撃し放題。そうなればこちらが消耗する一方で、勝てる要素はなくなってしまう。
……普通ならば、そうだ。しかしカイムは契約者で、しかも元から高い運動能力を持っている。魔法が届くくらいの距離まで跳ぶくらいできる。
魔法を更に放ち、ギャラルホルンの行き先を限定させる。それから大きく跳び斬りかかる。しかし、それこそ機械のように冷静にカイムの剣を防ぎ、逆に弾き飛ばしてしまう。更に着地する瞬間を狙うように突撃してくる。
そうはさせるかと魔法を放ち、まっすぐこちらへ向かってくるのを防ぐ。避けるために少し逸れたことで、着地してから構える一瞬の隙が生まれ、ぎりぎりの所で攻撃に耐える。しかし受け流す余裕などなく真正面から防いだことにより、衝撃に耐えきれず剣を落としてしまう。
勝機と捉えたのか空へ戻ることなくもう一度迫り鉄塊を大きく横に一閃。何とか上体を反らして躱し、至近距離で炎の魔法を放つ。
剣ではなく、アンヘルと契約したことで得たカイム自身の魔法。魔力の消費が激しく、好んで使うことはなかった魔法。だからこそ剣がなくとも魔法を放てることを知らなかったようで、躱すこともできずに直撃する。
「ぐっ……!やるわね。ならこれで!」
『気をつけよカイム!神器を使う気だ!』
神器ギャラルホルンは他の武器と共にアンヘルに持たせていた筈だ。
しかし、空からギャラルホルンの元へ神器が落ちてくる。勢いよく飛んできた神器は彼女の目の前に突き刺さる。ブラックドラゴンがアンヘルから神器を奪ったのだ。
ギャラルホルンは意気揚々と神器を掴み、鳴らそうとする。
強力な攻撃が来ると警戒し、ゆりの葉の剣を拾い構え直す。しかし、鳴ったのはデタラメな音だけだった。