帝都に現れた再生の卵を見て、封印を破られたことを察した七支刀は卵を破壊する。
「これが再生の卵ですか……?」
七支刀は目の前に転がっている、巨大な球体の前に立ち止まる。少なくとも自分の身長以上はあるそれをまじまじと見る。
「再生の卵を見たものはいません。封印が破られたとは限らぬ……」
「ならばあれは何だ!?」
イウヴァルトの指し示す先には、暴れる亜人と帝国兵、そして空に集うモンスターやワイバーンの数々、そして赤い空。まさに終末と言わんばかりの光景。
「分かりません。もはや私には何も……」
ヴェルドレも、封印が破られたことを理解はしていた。しかし、希望を求めるあまりその可能性を否定しようと必死になる。だからこそ認めないし認められない。
「これを破壊すれば良いのですよね?」
「その卵を破壊してどうなるか……」
「ヴェルドレはいい!やってくれ!」
七支刀は小さく頷き卵の前に立ち、思いっ切り剣を振る。その感触は余りにも柔らかく、中から白身のような透明のどろっとした液体が流れ出す。殻も溶けるように消えてしまい、液体が残るだけだ。
「……待ってくれ、あれもそうなのか?」
余りにもあっさりしすぎだと驚いている七支刀の前で、イウヴァルトは驚愕の表情が浮かぶ。彼の視線の先には、また卵があった。
「卵は、一つではないのですね……」
「ああ、何ということだ!再生の卵とは、これほどもあろうものなのか!?」
更にヴェルドレもまた卵を見つけてしまう。彼は神官長であり、封印の番人でもあり、だからこそ人より賢く知識もある。
故に、ヴェルドレは理解する。再生の卵とは……無数にあるのだと。一つ一つを破壊するのは簡単だが、全てを破壊するのは不可能であると。
そして、無数に湧く卵に希望があるなど都合のいいことはないというのもまた、頭では理解してしまう。
同時に強大な気配を感じる。そして、彼らの発する"声"も理解する。これは……
『カイム!我々も辿り着きました。七支刀もイウヴァルトも一緒です。封印は!?』
『破壊されたぞ。"卵"を斬れ、滅びたくなければな』
アンヘルの"声"が現実を伝える。直接言われてしまえば、流石に否定することなど出来ない。
『卵を……二人に伝えましょう。ああ、封印なき今、私はどうすれば』
しかし、卵が破壊出来るのは今目の前で確認したが、全て破壊など到底無理だ。しかも進めば進むほど帝国軍の妨害も激しくなるだろう。
「……まさか、カイムか!?」
突然黙りだしたヴェルドレも見て、"声"でやり取りしていたことを察したイウヴァルトは、その相手がカイムだと考えた。
親友の無事に安堵するが、同時にフリアエの安否が気になる。封印が破壊されている以上、そういうことなのだろうが……
「フリアエは大丈夫なのか?一緒にいるよな?」
「……いえ、封印の破壊とは女神の死によってもたらされるもの」
「そんな!?」
フリアエの死と、あのカイムでさえ助けられなかったという二つの事実に驚愕し、落胆する。
ここに来るまでだって七支刀に支えてもらってきたのだ、今更何が出来るんだ。
「……司教を、捕まえましょう。封印を破壊しようとしたならば、これからどうなるかも知っているはずです」
「それでどうなるんだ!」
「まだ世界は滅んでいません!私達に出来ることをするのです!」
絶望のあまり全てを諦めかけているイウヴァルトを、七支刀は叱咤する。
七支刀の、覚悟を決めた表情に自然と勇気が湧いてくる。彼女は諦めていない、彼女と一緒なら何とかなるかもしれない、と。
「私もここまで着いてきました。最期まで、共させて頂きます」
あの丘陵地帯から着いてきて、ここまで生き残ってきた連合兵も、最期まで着いてくると決める。もう大した数もいないが……いないよりかは、七支刀を支えられるだろうと、世界の希望を託せるだろうと信じて。
「……私も行きましょう。司教の気配は……あちらからします」
ヴェルドレの示す先、それは帝都の中央にそびえ立つ巨大な神殿だった。