ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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もはやアレはキル姫でさえない。卵から生まれし怪物に、真実の死を。


第9節 悪魔の翼

 帝都の空へ飛び立った怪物を追う、カイムとアンヘル。まるで天使のような白い翼を宿した、七支刀だったモノ。そこにいるだけでとてつもない存在圧を感じる。

 これまで戦ってきた存在とは格が違う。一人と一匹の心に恐怖が降りる。

 

『何なのだあれは!?卵とは、再生とは何なのだ!?あんなものが再生であるものか!』

『カイム、あなた達に託します。七支刀達に、死を』

 

 喚くヴェルドレと祈るレオナール。いずれも、あの怪物の前には無力だった。

 

「あれはもはやキル姫に非ず。我が炎は奴に通じるのか?」

 

 しかし、怪物はカイム達を待ったりしない。目の前にある障害を、そして滅ぼすべき人類を殺すために。

 オオオオオ!と叫びを上げ、七支刀の刀身の形状をした腕を振るうと、魔力が刃の形になりカイム達へ飛来する。まっすぐ飛んでくるだけなので躱しやすいが……当たれば真っ二つになるだろう、そう考えられるだけの魔力を秘めていた。炎で打ち消すなんて甘い考え出来やしない。確実に躱し、反撃の炎を打つ。

 しかし、白き翼で空を自由に飛び回り、アンヘルの炎もまた軽く躱される。しかも移動しながらも刃を飛ばし続ける。避けては避けられ、撃てども当たらず……

 ドラゴンとて生物だ、あの怪物がバテるのを待つのは現実的ではない。何か次の手を撃たねば、そう考えるが次の行動を取ったのは怪物の方だ。

 尻尾……神器ギャラルホルンの形状をした尻尾から、音が奏でられる。どうやって鳴らしているかなどはもう考える意味はない。人知を超えた存在である以上、そういうものと理解するしかない。

 尻尾の先端から、上空へと魔力弾が幾つも放たれる。雲を突き破らんばかり勢いで飛んでいくが、途中で止まりアンヘルの方へ落下し始める。更に逃げ場をなくすように刃も振るってくる。

 

「異形となりしキル姫と戦うか。全ては儚き夢のようだな」

『ギャラルホルンの死を、夢で終わらせるか』

 

 鉄塊を構え、降り注ぐ魔力弾を迎撃する。アンヘルに当たりそうな弾だけを狙い、正確に弾いていく。アンヘルもまたカイムを信頼し、最低限の回避をしながらも炎を繰り出していく。

 しかし、所詮は鉄塊。降り注ぐ弾の最後の一つを弾いたその時、鉄塊は真っ二つに折れ地上へと落ちていく。

 ギャラルホルンが、ギャラルホルンの力から放たれた攻撃から防いでくれたようで少しだけ感慨に浸る。しかし思考はすぐさま現実に戻る。目を背ければ、待つのは死のみ。

 今の攻撃さえも全て防がれたことに脅威を感じたのか、怪物は立ち止まりより強大な魔力を解放する。七支刀を模した魔力の剣が、怪物の周りに12本も作られていく。その一つ一つが、本物の神器に存在するであろう力を秘めていることを、本能的に理解させられる。

 しかし、同時にチャンスでもある。アンヘルは、帝都に集うモンスターとの戦いで温存してきた魔力を最大限解き放ち、大魔法を放つ。

 作られている途中の剣を打ち砕き、作るために止まっていた怪物にも炎が叩き込まれていく。

 

「堪えよ。これで奴が死ぬなどと甘い考えは捨てることだ」

『……司教は、神は、最初からこのためにキル姫を?』

「語る口はお主が塞いだ。考えるだけ無意味よ」

 

 激情のあまり司教を殺したことを咎めているのか、こうなった以上何がどうなっても手遅れだと嘲笑っているのか……

 ただ、少なくともあのおぞましい存在を前に、人類の脅威の前に共に戦ってくれているアンヘルを、今更疑うようなことはしない。

 炎が晴れると、そこにはやはり怪物の姿が。それどころか、再び12本の七支刀を作り出していた。視認すると同時に、回避行動を取る。目で追いきれない速さで飛ばされた七支刀は、アンヘルの翼の先を斬り裂いた。避けるのが遅ければ、今頃アンヘルとカイムはバラバラに斬り裂かれ、地上へと破片が落ちていただろう。

 

『これが、キル姫の秘めた力……』

「人間ではなく怪物に宿せば、これほどの力を引き出せるということか……?なんにせよ、待つのは地獄よ」

 

 斬られた翼は幸いにも、切り傷程度のものだった。飛ぶのに支障が出るほどではない。しかし、長期戦になれば悪化し、その内影響が出始めるだろう。

 今まで以上に、短期決戦を仕掛けなければいかなくなった。しかし、大魔法の直撃さえ凌ぎ切り反撃までしたあの怪物をどう殺す?

 考える猶予などくれる筈もなく、怪物は再び刃を飛ばし始める。向こうもかなりの魔力を使ったのか、先程の攻撃を連発とはいかないようだ。……あの怪物でさえも、無尽蔵のエネルギーを持っているわけではないのかもしれない。

 

『もう一度、大魔法は使えないのか?』

「使えぬこともないな。しかし、一度までだ」

 

 再生の卵が出現しおかしくなっているこの帝都では、魔素も異常な量溢れかえっている。先程殆どの魔力を使ったが、もう一度魔素を取り込み放つことは出来るだろう。

 ただ、それほどの魔力を取り込むことも、大魔法を当てる隙が生まれることも、あって一度だろうとアンヘルは考える。

 ……あれは、生まれたての怪物だ。戦いが長引けば長引くほど成長し、進化する恐れがある。

 怪物の尻尾が新しい音を鳴らす。聞いたカイムもアンヘルも、自然と闘争心が湧いてくる。聞いた者全てを奮い立たせる、戦いの音。怪物もまた、アンヘルを仕留めに来るつもりなのだ。

 再び空で静止し、12本の七支刀を生み出していく。今なら狙えるだろうが、今は駄目だ。先程と同じことになるだろう。攻撃を避けることに専念し、カウンターで大魔法を……

 そう考えた所で、先程とは違う攻撃が来ることに気がつく。12本の七支刀と、両腕の七支刀、合わせて14本がアンヘルへ狙いをつける。そして、刀身が激しく回転を始める。

 あの攻撃は見たことがある。七支刀があの攻撃を放つたび、敵はバラバラに斬り裂かれ道を開いていた。……それが、14本同時に来る。

 

「堪えよ……!」

 

 アンヘルは急旋回し、大きく空へ飛び立つ。あの攻撃がどこまで届くかは分からないが、とにかく遠くへ逃げる。元々かなり広く届く攻撃だったのが、怪物に合わせて巨大化している上に14本分の威力が重ね合わせになることを考えればとてつもない距離届くことは想像に難くない。

 怪物を中心に嵐が生まれる。近づこうとするものなど端からいなかったが、これくらいなら巻き込まれないだろうと油断していたモンスターやワイバーンが引き寄せられ挽肉に変わっていく。魔力どころか命そのものをかき混ぜ、混ぜり練り上げられたエネルギーは遂に解き放たれる。

 

 轟音。

 

 いや、そんな生易しいものだっただろうか。音というより、衝撃波と形容すべきだろうか。周りから逃げ出していたモンスターは全て引き裂かれ、地上にいたレオナール達の耳さえつんざく。

 雲は嵐に突き破られ、赤い空が広がっていく。怪物の白い翼も相まって、神々しささえ感じる姿。

 

「カイムは!?ドラゴンとてあのような攻撃に……」

「いえ……視えます。カイム達は!」

 

 空から降る赤い影。赤い空に紛れて尚強く主張する姿。弾丸のように落ちながらも、アンヘルは最後の大魔法を解き放つ。全エネルギーを解き放ち、立ち止まっていた怪物へ炎が押し寄せる。

 倒しきったと油断もしていたのだろうか。直撃したばかりか、翼は焼け顔は苦痛に歪む。グオオオと唸り声を上げ、それでも最後の抵抗をしようと両腕を空に上げる。しかしそれよりも速く降りてきたアンヘル。目の前をすれ違うように降り、カイムが怪物を真っ二つに斬り裂いた。

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