その空はキル姫で満ち溢れ、人類に殺戮の微笑みを投げかけていた。
「カイム……我らに終幕はないぞ」
斬り裂いた怪物の息の根が止まっていることを確認しながら、ゆっくりと地上へ降りていく。
しかし、アンヘルの言葉が告げた通り、終わりなど来ない。
カイムの攻撃が怪物にトドメを刺す直前。
レオナールは異変に気がついた。何かの割れるような音。それも一つではない。
「何が始まると言うのです」
「おしまいだ!あれら全てが……!」
ヴェルドレもまた気がつく。そしてレオナールよりも早く、真実に到達する。
帝都に残された卵が、孵化していることに。そこから生まれ出る災厄に。人類に希望など、もはやないことに。
カイムの攻撃が怪物を斬り裂き、そのまま地上へと降下していく。同時に、幾つも影が空へ昇りゆく。
その影は全て……今カイムが倒した、怪物だったのだ。
「それでも、お主は戦い続けるのだろうな」
たった一匹を殺すだけでも命がけの戦いを繰り広げた怪物が、空へ昇る。中には、生き残りの連合兵や帝国兵を殺すべく地上へ攻撃を始めているものもいる。
最初から、帝国軍だの連合軍だの、そんなものはなかったのだ。ただ人類を滅ぼす、それが神の意思だ。
「あーー………」
妖精も、レオナールと契約したことが失敗だったと今更ながらに思う。人類がどうなろうと知ったことではないが、レオナールが死ねば自分も死ぬのだ。
「逃げようぜ。勝てるわけねえよあんなの!」
「いえ、既に退路などありません」
「なっ……ふざけんなよ!あんたが死ねば俺も死ぬんだ!モシモーシ?俺を殺すことに躊躇いはないんですかー?」
そう煽れられても、もうどうしようもないのだ。帝都中にある全ての卵から怪物が孵化したのだ。逃げようにも何処へ逃げればいい。
それに、レオナールの戦いは贖罪でもあった。今更命が惜しいと逃げ出すこともしないだろう。
「キル姫とは、キラーズとは。人類を滅ぼすための……!」
ヴェルドレは初めてその名を聞いた時から、不穏なものを感じ取っていた。キル、殺す。その名を冠する者が平和の使者であるものかと、何処か疑っていた。
七支刀の人間性にほだされ信じていたものの、その正体がこれだと怯え震える。一皮剥ければ皆同じ。アンヘルの言葉が頭の中に木霊する。
「馬鹿者めが。お主と契約した我を呪うぞ」
憎まれ口を叩きながらも、アンヘルは少し嬉しそうにしているように聞こえた。最期まで共に戦うと、心に決めていたのだ。
これは、人類のための戦いではない。カイムのための戦い。
カイムを背に乗せ、赤き翼は空に舞う。向かう先が、死だけだとしても。
killers of Broken spirit
A prayer for peace will dominate the world on the blazing plate.
《かつての平和への祈りは、発火する皿の上で世界を握るだろう》
神の思惑通りにキル姫が利用され、人類が滅ぼされる世界線。この世界線は封鎖ですね。
再生の卵とは、入った存在を人類を滅ぼすための生物へ再生させるための罠といったところでしょう。イウヴァルトが正気のため女神が捧げられることはありませんでしたが、奇しくも彼が愛を抱いた七支刀が犠牲になった、と。
では、次の世界線の記録に移りましょう。新たな契約者と、キル姫と共に……