そこへ神官長からカイムへ"声"が届き、フリアエ達は彼の元へ向かうことに。
更に集落の探索を続けるカイムは、帝国兵の死体のそばに、ある血文字が刻まれているのを発見する……
第肆節 遠くの音
「地獄だ……地獄だよ……」
壊滅している集落を目撃したイウヴァルトは、その場に崩れ落ちる。安寧の地などないのだ。
森に囲まれた集落はドラゴンの身体には狭いため、上空から見下ろしていた。だからこそ違和感を感じる。一方的に襲われ壊滅したのなら、帝国兵の死体があるのはおかしいのだ。
そもそも橋を渡り森に入ってからはまともに帝国兵とは交戦していない。まだ生き残りがいるのではないかと考える。
その思考をしていると、ドラゴンとカイムに"声"が届いた。
「神官長ヴェルドレから"声"が届いたぞ」
「神官長?」
ギャラルは聞いたことのない単語に首を傾げる。
「ああ、知らないんだな。封印を管理する神官の中でも、最上位の者だ。普段はフリアエはその人としか会えないらしい」
イウヴァルトが説明してくれる。ゆっくりと立ち上がりながら空を見上げ、今度はイウヴァルトが疑問を口にする。
「しかし、"声"?神官長も契約者なのか?」
そう、"声"を届けられるということは神官長も契約者ということになる。契約者同士でしか出来ないのだから。
「ああ。相手のドラゴンは既に石化しておるがな」
「彼は今どこに」
そう質問するのはフリアエだ。この場にいる者で、ヴェルドレと面識があるのは彼女だけだ。
「神殿巡礼中で砂漠にいる。異常事態を危惧し、女神の保護を申し出てきた。早急に向かうが良い」
「……すまない、フリアエ。俺ごときではフリアエを守れないな」
中立の場所なら大丈夫だろうと連れてきた挙げ句こと有様な自分と、保護を申し出る神官長を比べてしまい、更に落ち込むイウヴァルト。
「あなたの歌に、私は癒やされます」
「君もそういうんだな。けれど、歌なんかじゃ君を守れない。力が欲しい……!」
そう呟くイウヴァルト。カイムとアンヘル、そしてギャラルの戦いぶりを見ていたイウヴァルトは、より力を欲していたのだ。愛するフリアエを、"自分で"守るために。他の誰でもない、元許嫁である自分で。
ドラゴンの言葉の通り、神官長の元、砂漠へ向かうために一行はまた歩み始める。
しかし、カイムが動き出さないのに気がついたギャラルは止まり、声をかける。
「行かないの?」
「いや、我らはもう少しここを調べる。フリアエのことはお前に任せるようだ」
その言葉が、イウヴァルトとフリアエと一緒にいさせてあげようという気遣いだと理解したギャラルは、ならば自分もここに残った方がいいだろうと考える。
「なら、わたくしは」
しかし、それを察しきれていない七支刀が着いていくと口を開こうとする。
ギャラルは無言で七支刀の袖を引っ張り、イウヴァルト達には聞こえないように話す。
「イウヴァルトをフリアエと一緒にいさせてあげて」
「あっ、そうですよね……」
察するとこの出来ない鈍い自分へ、若干の自己嫌悪を見せる。
「ギャラル達も残るから、神官長に会いに行って」
「そうですか。我々は女神の護衛をします。カイム様のこと、お任せします」
イウヴァルトとフリアエ、そして連合兵達は神官長へ会うために砂漠へと出発した。
残ったカイム、レオナール、ギャラル、七支刀、四人で壊滅したエルフの里を探索しているとすぐにそれは見つかった。
カイムが最初に気が付き、レオナールがキル姫の二人に声をかける。それは死んだ帝国兵の側にある血文字だった。
「……天使を語ってはならない。天使を描いてはならない。天使を書いてはならない。天使を彫ってはならない。天使を歌ってはならない。天使の名を呼んではならない」
ギャラルは読み上げながらも、嫌な顔をする。天使と聞いて思い出すのは、かつて自分を利用していた神々の姿。
これは何なのかとカイムは少しだけ考えて、直ぐに興味が失せた。何か別のものを探そうかと歩き始めるが、棒立ちしたままのレオナールを軽く蹴る。
「……視えます。森が……燃えている」
しかし、レオナールはただ立ち尽くしていたのではない。"視"えていたのだ。
七支刀がカイムの態度の悪さに呆れながらもレオナールに質問をする。
「何が視えるのですか?」
「これは……封印されし森?帝国軍が侵攻しているようです」
カイムも興味を持ったのか、レオナールの元へ戻り顔を覗き込む。
「……どうしますか?」
レオナールはカイムへ質問をする。しかし、聞くまでもなかった。
そこに帝国兵がいるのであれば、殺しに行くのみ。二つ返事でそこへ行くことを伝える。
殺しに行くのはカイムだけだろうが、ギャラルと七支刀も封印を守ることには興味がある。詳しいことは知らないが、封印を守ることに繋がるのだろう。
「ギャラルも行くわ。……でも、この人数で行けるかしら?」
「お前は自力で飛べばよかろう」
「……封印の森って、遠いの?」
「我の翼なら遠いとは感じぬな」
ギャラルがカイムへ助けを求めるように視線を向けるが、カイムはどうでも良さそうだ。確かに戦力は多い方がいいが、アンヘルに無理をさせてまで付いてこさせなくとも……
そこまで考えて、四人乗る方法が頭に浮かぶ。まあ、アンヘルがそれでいいと言うならばだが。
『四人乗せるのは、誇り高きドラゴンといえ厳しいものか?』
「……乗せられぬことはない。だが我の背はそこまで広くないぞ」
『いや、それなら何とかなる。帝国軍を滅ぼすためには一人でも多い方がいい』
「血の気の多い奴め。少しは殺すこと以外考えてみればどうだ?」
四人と一匹は封印の森へ向かうことになる。封印を守るためか、帝国と戦うためか。