その口から吐き出される汚れた言葉から、カイム達は砂漠に居る女神フリアエ達の危機を知る。
「どうもすみません!」
森の最深部に辿り着いたカイム達。そこでレオナールは改めて頭を下げ謝罪した。
「なぜいらぬ情けをかける!?」
アンヘルが改めてレオナールに問う。今までも帝国兵を散々殺してきたのだ、今になってこうも戦うことを拒むのは異常にしか見えない。
例え相手が子供で戦いにくいとしても、戦うなとまで声をかけるのはやはりどうかしているとしか思えない。
「それは……」
その理由を話そうとして、口ごもる。言えるはずがないのだ。
「言えねーよなあ!フヒャ。いつだって本当のコトは言えねーんだよなあ!ひ・み・つ!……プッ。フヒャヒャハアッハ!」
そんなレオナールの様子を見て調子良く妖精は嘲笑う。妖精は知っているのだ。その理由と、それを話せないであろうレオナールの性格を。
「出来ることならここで死にたい……」
「ちょっと!?そこまで無理しなくていいわ。カイムもアンヘルも、ね?」
レオナールの話せない罪とは、新米の兵を相手に出来ない理由とは、そこまで重いものなのだろうか。
ギャラルは少し戸惑いながらも、カイム達を説得しようとする。同時に、レオナールへも言葉をかける。
「罪があるのでしょう?生きていなければ償えないわ」
「そうだよなー?アナタ、死ねなかったからここにいるんだよねー?」
そんなギャラルの言葉をも利用し妖精は楽しくレオナールを煽る。しかし、その言葉は間違いなく事実だ。
「……やだなあ。俺といっしょに生きてくれるって約束したじゃないですか、お兄さん。俺、もうひとりじゃ生きられない身体なんですよ。契約ね、契約。ギャラルちゃんの言う通り生きて贖罪しましょ?フヒャヒャヒャ。おねがーいしマッス」
散々煽るに煽った挙げ句、何かに気が付いた妖精は離れて飛んでいってしまう。森の奥から現れた一際強い光……妖精だ。
「おぬし、まさか……?」
レオナールと契約している妖精とは比にならないほど強い力と光、そしてしわがれた爺さんの様な外見。少なくともこの場にいる中で一番妖精に詳しいであろうアンヘルが、その正体を察する。
「いえ、特に名乗るほどの者では……ただ私は臭くて野蛮なあんた達にこれ以上この森にいてほしくないだけでして。ほぉっほ。こりゃ失敬。いちおう長としてはね、言うべきことを言わないと」
いきなり飛び出してきた罵倒に一行は驚かされつつも、彼が長だと言ったことは聞き逃さない。
七支刀は、妖精が自分ならこの先には行かないと言ったこと、そして今逃げ出したことからしてこの長を嫌っているのだろうと察する。煽るのは好きでも煽られるのは耐えきれないのだろう。
「待って、あなたが長なの?」
ギャラルは驚きながらも妖精の長に質問する。精々あの妖精と同等の口の悪さかと思い込んでいたため、初対面でド直球に全員への悪口を飛ばしてきたことに面食らったのだ。
「燃えた木は元に戻らないんですよねえ?人間ひとり死んだってロクな肥料にならんが、木は森を作る骨組みでしてね、はい」
「確かに森は大切かもしれないけど、その言い方は!」
「おやあんたら小娘がキル姫ってやつですかい、小さすぎて気づきませんでしたな。人間の命が大切って言うなら、その人間をバサバサ斬り殺してるのは何か考えがあってのことですかな?異世界から来たやつの考えは理解できませんな……」
ギャラルと七支刀が最も気にしていたことを、確実に突いてくる。二人は何も反論出来ずに固まってしまう。
「脅すならよそをあたれ。付き合ってられぬわ!」
見かねたアンヘルがフォローに入る。いや、フォローとか関係なしに明らかに脅しに来ている言い方が気に食わないというのもあるが。これだから妖精は嫌いなのだ。
「ほおっほ。脅すなんてそんな!とんだ邪推ってもんですなあ。ドラゴンさまほど位が高いと、さぞかし複雑なことをお考えのようで……人間とじゃれ合うのもひとつの作戦なのか?と。下等なものにやられるのも興のひとつか?と……」
「失せよ!」
口を開けば汚い言葉が飛び出す妖精の長に、アンヘルの怒りは頂点に達した。しかしその様子を見ても妖精の長は態度を変えない。
「ほおほっほっほ。こりゃ失敬。図星はイタイもんですからね。へっへっへ。それはそうと砂漠は暑いですねえ………死体の腐りも早いでしょうなあ」
「砂漠?砂漠がどうかしたの?」
突然、明らかに話の流れをぶった斬って切り替えた妖精の長に困惑しながらも、何とか正気を取り戻したギャラルが質問をする。
確かにみんなを幸せにしたいと考えながら殺しをしている、最大の矛盾は考えるべきことだが、この妖精の前でしてもしょうがない。それよりもその疑問を解決するほうが大切だと考えたのだ。……それが現実逃避になっていることには気が付かず。
「おっと、こりゃ口が滑った。いや、言えませんよ。神官長一行が間抜けヅラ並べてあっさり襲われた、なんてねえ。あんたらのお仲間の無事も定かじゃない。いい気味だ!なんてねえ」
相変わらず煽るのは止まらないが、かなり重要なことを口にしていた。妖精の長とて世界が滅ぼされるのはたまったものではないのだろう。
「カイム!砂漠へ急げ!」
「森の封印は?」
「これほど口が回るのならここの封印は平気だろう。何よりも女神は最終封印ぞ、そちらの方が大切だ」
アンヘルと合流するため、森から出るために歩きだすカイム達の後ろで、それでもまだ汚い口は塞がらない。
「森で散々暴れてくれた黒いキル姫が何の身支度もせずに砂漠に向かったから今頃野垂れ死んでるだろうよ、ざまあない、なんて言える訳ないじゃないですか」
「黒いキル姫……?」
ギャラルと七支刀は、その言葉を聞いて黒いキル姫を連想するが……いまいちパッとしない。ギャラルは、同じく終焉と共にしていたキル姫二人なら黒いキル姫と形容されてもおかしくないと考えるが、別に私服は黒い訳でもない。
ただ少なくとも仲間がいるかもしれないという可能性に、ギャラルと七支刀はお互いの顔を合わせて小さく頷く。
「みんな死ねばいいのに……なんてそんなとてもとてもめっそうもなくて、言えませんってばあ。へっへっへっへ。ほおほっほっほ!」
ギャラル以外もう聞こえない距離まで離れているのに、まだ罵倒をやめない妖精の長を背に森から脱出するのであった。