そして、戦場で見つけたイウヴァルトのハープをフリアエに差し出した。その意味するところは……
そんな時、奇妙な”声”が彼らのもとに届く。
第九節 不穏な"声"
アンヘルに乗ったカイムたちは、フリアエたちが野営している場へと合流する。
アンヘルから降りた三人の元へ、ヴェルドレが歩いてくる。
「やれやれ。女神に何と説明すればよいものか……」
アンヘルやカイムの"声"により、神殿の封印が破壊されたことやイウヴァルトのハープが見つかったことを知っているヴェルドレだが、カイム達が戻ってくるまではと考えフリアエには伝えていなかった。
それだけではなく、フリアエを狙い帝国軍の襲撃もあったためようやく落ち着けている状況だという。七支刀の奮闘により幸い死者までは出なかったものの、負傷している兵も多い。
「カイム様、無事で何よりです」
「七支刀さんが守ってくれました。この隊に死者はいません」
カイムたちを見かけた連合兵も何人かこちらに来て、現状の報告をする。
カイムは最低限話を聞くと、フリアエの元へと歩いていく。
「ギャラルホルン様、封印は……」
残ったギャラルのところに、七支刀がやってくる。傷らしい傷はないものの、表情からも疲弊していることが伝わってくる。しかし、疲弊した表情をしているのはギャラルも同じであり、七支刀も察してしまう。
「ギャラル、七支刀、あなたたちは十分戦ってくれました。異界の者でありながらも、命を賭して封印を守ろうとしてくれたことを感謝します」
せめてもの慰めになるだろうか、ヴェルドレは二人へと謝辞を述べる。ヴェルドレとて神官長という立場にありながらも封印を守ることに失敗している、それに比べたら守る義務も義理もないはずなのに必死になって戦ってくれる二人には感謝しかないのだ。
フリアエは、やってくるカイムの姿を見つける。しかし、イウヴァルトが帰ってきていないことにも気がつく。
「よくぞご無事で。……イウヴァルトは?」
カイムはその答えの代わりに、イウヴァルトのハープを見せる。
「これは、ハープ!?」
「砂漠の真ん中に落ちておった」
アンヘルの言葉を聞いたフリアエは、その場に膝から崩れ落ちる。幼い頃からの友人であり、元許嫁でもあるイウヴァルトが死んでしまったかもしれないというショックには耐えれなかったのだろうか。
フリアエの様子に気がついたヴェルドレは慌ててカイムとフリアエの元にやってくる。
「女神!?砂漠の神殿が破られたゆえ、あなたへの負荷がだいぶ重くなったのでは?」
ただショックを受けたわけではない。封印の負荷を受け持っていた神殿の一つが破られ、今まで以上に辛くなっている状況での悲報だ。カイムもフリアエを支えるように手を差し出す。
また、ヴェルドレの後を追うようにやってきたギャラルと七支刀も、崩れ落ちたフリアエの姿を見る。
「平気です。私なら……平気です……それよりも、イウヴァルトが……」
か細いフリアエの声を聞き、本当に平気だと思う者はいないだろう。
何とか立ち上がるフリアエだが、ギャラルは改めて砂漠の神殿の防衛に失敗したことの重さを見せつけられる。世界の危機というのもあるが、あれだけ辛そうにしているフリアエを見てカイムも内心穏やかではないだろう。
そんな中、ヴェルドレが新たな"声"を拾った。
「カイム、聞こえぬか?」
ヴェルドレの問いに、カイムは耳を澄ませる。ギャラルもまた聞こうとするが何も聞こえない。どうやら"声"のようだと察する。
「かぼそく、しかも少々クセのある"声"だ。聞き取れなくても無理はないが……」
「……おぬしら。この"声"の持ち主と関わるつもりか?」
しかしアンヘルはその"声"を危険だと感じた。関わるだけ碌なことにならないという気配が……
「放っておくと危険かもしれません。無視は出来ないでしょう」
「そうね、助けに行けるならギャラルも行くわ。それに、契約者なら戦力になるかもしれない」
「ヴェルドレよ、自分の力を知っての発言か?……足手まといほど網に掛かりやすいものよ」
呆れながらもアンヘルは答える。救いに行くだけ無駄だと考えるが、どうやらカイム以外は乗り気だと見て分かってしまう。唯一乗り気ではないカイムも、帝国兵がいるとなれば喜んで殺しに行こうとするだろうし止めても無駄だと察する。
「……発信源、わかりませんか?」
「……砂漠にある帝国軍の牢屋だ」
女神の護衛役は七支刀からレオナールに代わり、カイム、ギャラル、七支刀、そして言い出しっぺのヴェルドレも乗せ四人がアンヘルと共に砂漠へと飛び立つのであった。