一人のキル姫が捕虜収容所内に侵入していた。彼女はとある光景を目撃する。
少女は巡回している帝国兵の様子を覗っていた。
「何度聞いても薄気味悪いな……あの声は」
とある牢屋の前で立ち止まり、二人の帝国兵が会話を始めた。
「そうか?聞きようによっちゃ、興奮するぜ」
「はっ!おまえは女ならなんでもいいのか?あんなエルフでも気になるのか?病気だな」
彼らが会話している中、牢屋の中から薄気味悪い甲高い笑い声が響いている。少なくとも、正気の人間が出せる笑い声ではない。
しかし、帝国兵も戦闘中出ない時は普通に振る舞えるんだな……と興味を持ちながら見ていた。戦闘中の帝国兵はまるで機械のように統率を取るのだが、常にそうというわけではないらしい。
「あいつの目を見たことがあるだろ?笑ってても死んでる目……恐ろしいよ!」
「……気の毒なヤツなんだぜ。いっそ家族といっしょに殺されときゃ、幸せだったのにな」
甲高い笑い声はいつまで経ってもやまない。帝国兵の一人がやれやれといった様子で、止めに行こうとする。なんならやれやれと口にまでした。
「……やれやれ。おとなしくさせてくるか」
「気をつけろ。やられんぞ!」
「だいじょうぶだ。おれたちはヤツの好みじゃないだろ?」
機械的な統率を取り、連合軍に対して圧倒的に有利に戦況を進めてきた帝国兵でさえも危険と考えるエルフ。響く笑い声からして正気でないのは誰でも分かるだろうが、"好みじゃない"という言葉が引っかかる。まだ下手に動かないほうがいいだろう。
二人が歩き出そうとした直後、爆発音と振動が響いた。これは……
「連合軍の攻撃だ!ヤツら……」
彼らがそう言い切る前に爆発に飲み込まれていく。幸い少し離れた所で様子を見ていた少女は巻き込まれることはなかったが、当然そこらの牢屋も破壊されてしまう。
……つまり、先程の帝国兵達が話していた危険人物が解放された、ということ。
放置するのも危険だと思い、牢屋の方へ向かってみる。炎の中を越えて探してみれば、両手両足をキツく縛られたエルフの女性が倒れている。
そんなエルフの女性の前に、二つの光が飛んでくる。赤と青の光が回りながら飛来し、"声"をかけた。
『死ぬにはまだ早いぞ』
"声"に反応したエルフの女性は、何とか身体を持ち上げ二つの光を見る。
慌てて隠れ直した少女は、その二つの光の正体を"精霊"だと判断した。実際にこの目で見たのは初めてだが、そういうものがいるという話は聞いている。
『そうだ……我々と来い……』
精霊が行おうとしているのは"契約"だ。人間にとって契約は、圧倒的な力を得るというメリットがある。しかし、契約相手にとっての契約する理由とは何か……?
少女はその理由も聞いていた。それは、人間の心の闇に"惹かれる"……例えるなら恋のようなものだ。厳密には違うが、簡単に理解するならそういうものと思ったほうがいいだろう。
つまり、契約相手にとって契約は損得勘定で行うものではない。この精霊たちも惹かれたのだ、エルフの女性……アリオーシュの持つ深い闇に。