その先には炎と水の精霊と契約した声の主が居た。
そしてその出会いは、また新たな不幸を産む。
「牢獄……人間同士、何を捕らえ合うというのか?無為なことよ」
漆黒の空に羽ばたくワイバーンの、その翼を炎で焼き落としつつもアンヘルは語る。
「確かに、帝国は何故捕らえるのでしょう?あれほど残酷なことをしながら……」
七支刀もまた疑問を口にする。容赦なく連合兵が殺され、エルフの里も荒らされ、妖精の森も焼かれてしまう。そんな無慈悲な進行を続ける帝国軍にとって、捕虜を取る意味があるのだろうか。
「帝国の者とて人の子。カイムとは違い皆殺しにとは考えてはいないのだろう」
先程の会話のことをまだ根に持っているが、余計な一言を加えながらヴェルドレが答える。何というか、ヴェルドレらしい答えだ。
七支刀は博愛主義者であり一途に世界の平和を願っているものの、馬鹿でもなければ盲目的でもない。ヴェルドレほど楽観的な考えはしていなかった。だからこそ、帝国軍の奇妙な動きに疑問を覚える。
『どうせ敵だ。これから殺す相手のことを考えても仕方ないだろう』
「……どうか、無用な殺生はやめていただけますかな?」
嫌味の一つを言われようが相変わらずのカイムの"声"に、ヴェルドレは不機嫌そうに言葉を返す。
ギャラルと七支刀でも、どのようなやり取りが行われたのかはなんとなく想像が付く。二人とも態度がわかりやすい。
背中の上で喧嘩が起きそうになっていることにやや呆れつつも、アンヘルはワイバーンを片手間に倒していく。劣等種のワイバーンなど、レッドドラゴンたるアンヘルの敵ではない。
上空で片付けをしているアンヘルと、仲の悪い二人の契約者にか細い"声"が届く。探しに来た契約者のものだろう。
『死んだ……死んだ……皆死んだ……』
まるで死者の嘆きのような、生気の感じない"声"。間違いなく正気ではない。
そんな"声"の持ち主を探したいが、ワイバーンを援護するように帝国軍の兵器も浮上してくる。別にアンヘルの敵ではないが、流石に数は多い。
「"声"はこのあたりからするのだが……これでは敵が多くて探せぬな」
ギャラルが神器を取り出す。ドヤ顔をしながら。……残念ながら誰にも見えてないが。
先程援護しようとした直後に、不要なのを見せつけられて少しだけ気を損ねていたのだが、今度は活躍できそうだと思ったのだ。だからこそのドヤ顔。
「援護した方がいいかしら?」
「早く探しに行くのならその方がいいだろうな。任せるぞ」
あくまで援護してほしいとは言わないアンヘルのプライドの高さに苦笑いしつつも、神器をかき鳴らす。アンヘルに追従するように扉が現れ、獣がその顔を扉から現す。
アンヘルが迫るワイバーンを相手してくれているので、狙うは遠くの帝国軍兵器。まだ密集しているので、中心のものに撃ち込めばまとめて撃破できそうだ。
ただアンヘルも敵の攻撃を躱すために激しく飛び回っているため、狙いをつけるのが難しい。神器を用いた必殺の一撃を狙っているのだから、消費する魔力も大きいし一撃で決めたいところ。
アンヘルがぐるりと旋回し、ワイバーン達から距離を取る。ワイバーンの翼ではアンヘルに追いつけない。ある程度距離を取れたことを確認してからもう一度旋回。今度は兵器に向かって真っ直ぐ飛翔した。
「今ぞ!」
ギャラルが狙いをつけられてないことを察したアンヘルが、狙いやすいように動いてくれたのだ。そのチャンスを逃さず獣に魔力弾を撃ち込ませる。
兵器が撃ち出す弾も飲み込みながら迫り、炸裂。爆発に呑まれ兵器群は破壊されていく。
「人は皆神の子。争いなど……」
凄まじい戦いに、心を痛める神官長……
そんな雰囲気だが、実際のところはどうだろうか。この場にいる三人は、彼と同行していてあまりいい印象は持っていない。
「神が善良とは限らないわ」
それこそ神々に利用され捨てられたギャラルが、否定の言葉を口にする。
「そなたの世界の神と、我々の世界の神は違うでしょう」
「それでもよ。会ったことでもあるの?」
「……いえ。しかしこの世界の神は絶対にして唯一のもの。悪しきものが世界を創るとは思えません」
ラグナロク大陸……いや、ユグドラシルの存在するあの世界において、神は複数いる。特にギャラルの言う神々とは現在の世界、ラグナロク大陸には存在していないが、それとは別に神話の神々がいるという噂は聞いている。
そんな世界とは違い、この世界の神は唯一の絶対神である。お互いの神のイメージが違うのはこれが原因であろう。
「絶対にして唯一……」
いまいち想像がつかないギャラルは首を傾げる。七支刀もまた後ろで考えているが、根本から違うのだろうと考えを諦める。
「人間は神話を都合よく考える。何を持って善い悪いと言うのだろうな」
この場において明確に人間ではないアンヘルが、また難しいことを言い始める。キル姫も元は人間だし考え方は人間に近いが、ドラゴンともなれば考え方が違うようだ。
そう話している間にも、ワイバーンは全て片付いていた。
「このあたりの地上から"声"が聞こえるな……そろそろ向かうとするか」
「牢獄には囚われた味方もおるはずだ。助けてやってくれ」
あえて助けない理由もない。ただ、助けに行くのではなく救けてやってくれというヴェルドレに、どこか他人事のような冷たさを感じる。
「"声"のする方へ降りるぞ。用心しろ!」
それは、帝国兵の襲撃を警戒してだろうか。それとも"声"の主を警戒してか……
アンヘルの忠告と共に、地上へと降りていく。