ドラッグオンドラグーン 終焉の角笛   作:Ruve

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"声"を追って進むカイム達。砂漠での戦いの中で、新たなキル姫がカイム達の前に現れる。
ギャラルはその顔を知っていたが、あまりにも違う様子に困惑する。


第十三節 黒のキル姫

「"声"がますます不安定になっている!急がねば……」

 

 ヴェルドレが聞き取っている限り、"声"はどんどん不安定なものになっていく。命の危機が迫っているのかもしれないと、焦り気味の様子。

 

「わたくしがヴェルドレ様の護衛を。二人は……」

 

 七支刀が言い切る前に、カイムは走り出す。こうなるだろうと思いヴェルドレの護衛を選んだ。ギャラルならお願いすればやってくれるかもしれないが、すばしっこく飛び回れるという長所を護衛では活かしきれないと考えた。

 ヴェルドレ自身の封印術と七支刀の呪術の組み合わせもあり、この二人で行動するのが安定だろう。

 

「分かったわ。……カイムは先に行ってしまったし、案内頼むわね。神官長様?」

「言われなくとも」

 

 カイムはいつも通り、帝国兵の攻撃をいなしつつも斬り殺していく。ギャラルも神器を装備し、魔弾でカイムを遠くから狙う弓兵を攻撃する。

 その後を追う形で七支刀とヴェルドレも付いていく。

 

『……光?……見えた』

「…『光』?……何を言おうとしているのだ?この"声"は」

 

 いまいち意味を理解できない言葉を発する"声"に、ヴェルドレは疑問の声を上げるが答えるものはいない。

 キル姫二人はそもそも聞こえていないし、カイムは殺すのに夢中だ。アンヘルもわざわざその疑問に答える理由などない。

 

「光……爆発でもあったのでしょうか?」

 

 聞こえないなりに七支刀は想像してみる。戦場で見る光など限られるからだ。

 

「だとすれば、あの者にやはり危険が迫っているのかもしれません。早く助けに行かねば」

 

 ヴェルドレは急かすものの、それで帝国兵が退く訳でもない。カイムとギャラルの頑張り次第である。

 二人の猛攻により帝国兵は確実に数が減るが、新たな兵が姿を現す。赤い鎧の重装兵だ。砂漠の神殿でも苦戦させられた相手。ギャラルは人斬りの断末魔に持ち替えカイムの元へ飛ぶ。

 今回現れた重装兵の武器はハンマーだ。カイムの頭を砕くべく振るってくるがなんなく躱し、反撃をする。しかし盾に防がれてしまう。それでも押し切ろうと力を込めるが、膠着しているカイムの背後から狙われる。

 その背後の敵を狙いギャラルが剣を振るう。空から降りながらの一撃は重く、重装兵をよろめかせる。その間にカイムは目の前の重装兵の盾を弾き飛ばし、返す刃で首を刎ね飛ばす。やはり重装兵を殺すなら狙うべきはそこだ。

 ギャラルも再び飛んで距離を取り、もう一度今攻撃をした重装兵を狙う。逆にギャラルが攻撃する瞬間を狙おうとしている重装兵に向かいカイムは走りハンマーを弾き飛ばす。よろめいた隙に剣を首元へ突き刺す。ギャラルもまた一人にトドメを刺す。

 一度は苦戦させられた相手だが、うまく連携すれば何てことはなさそうだ。

 躊躇なく殺していく二人にまるで恐怖するように、ヴェルドレはまた口を開く。

 

「カイム、心が暴れたら神を持ちなさい。こんな時代だからこそ、信仰は尊いのだ」

「……そんなに神を信じるのね?」

 

 呆れた様子でギャラルが返す。どうやらこの男、意地でも信仰を捨てないらしい。

 

「神とは……何も実在するものでなくていい。ただ心に標を示すもの。信仰とは偶像崇拝から生まれたものよ。神が身近にいたであろう君には難しいかもしれないがな」

「……」

 

 あくまでも神を否定しようとするギャラルへと、ヴェルドレは"神"を説く。

 確かに彼の言う通り、ギャラルは偶像という神を崇拝するということがいまいち理解は出来ていない。信じるものはあっても信仰とはほど遠いものだった。

 カイムとギャラルは再び別の帝国兵へ攻撃を仕掛けに離れる。しかしその隙を狙っていたかのように重装兵がヴェルドレへ攻撃を仕掛ける。

 七支刀が咄嗟に神器で防ぐが、更にもう一人ヴェルドレを攻撃しようとする。ヴェルドレは大慌てで術を唱えるが、赤い鎧の相手では効果も期待できないだろう。

 ギャラルも音で気が付き戻ろうとするが間に合わない。もはやこれまでかとヴェルドレは目を瞑り祈る。

 

 ……攻撃が来ない。代わりに激しい衝突音。目を開けば誰かが重装兵を横から突き飛ばしていた。更に倒れ込んだその重装兵へ容赦なく槍を突き刺す。

 七支刀もハンマーを弾き返し、神器を巨大化させ鎧ごと重装兵を叩き斬る。

 ヴェルドレの窮地を救ったのは、ギャラルくらいの少女だった。知識がなくても理解するだろう、キル姫だと……

 

「……あなた、ロンギヌスよね?」

 

 その顔を見たギャラルは、思い当たる名前を言う。そんなに親しい訳ではないが、かつてギャラル達が世界を終焉させようとした戦いでは擬彩(インテグラル)キラーズの一人として戦っていた筈だ。

 しかし、そのキル姫は半目で睨み返してくる。呆れた様子でため息を吐き、口を開く。

 

「噂の契約者とキル姫も、この程度ですか」

 

 そのキル姫の鋭い眼光と冷たい態度に、空気が静まりかえる。

 

「……それと、私のことはエンヴィと呼んでください。契約者の元へ案内します」

 

 エンヴィと名乗るキル姫は、赤黒く禍々しい槍を重装兵から引き抜く。格好も全体的に黒いので、妖精の長が言っていたキル姫が彼女のことだろうとは察する。

 

「エンヴィ……また奇妙な名だな」

 

 キル姫の名は、そのキル姫の持つキラーズのもの……ということはギャラルから聞いているが、エンヴィとは嫉妬を意味する言葉。そんなキラーズ……伝承に残るような武具があるのだろうか?とアンヘルが上空で考えているが、他の面子は気が付かない。

 そもそもギャラルと七支刀に至ってはエンヴィという言葉の意味にも気がついていない。

 

「ね、ねえ?ロンギヌスよね?」

 

 何度もいうが、ギャラルはロンギヌスと親しい仲だった訳ではない。……が、それでもこんな性格ではなかったと記憶している。慈愛がどうとか説いてたような気がするし、何というか真逆の性格のようにも見える。

 そんな困惑を顔にしながらも、もう一回尋ねる。さっきは無視されたので。

 

「……確かにそうですが、エンヴィと呼んでもらったほうが助かります」

「その方がいいならそう呼ぶけど……」

 

 エンヴィというのは愛称だろうか?普通にロンギヌスと呼ばれていたような……?

 

 そんなギャラル達を無視して、カイムは一人暴れていた。アンヘルを通して見知らぬキル姫が現れたことは知っているが、戦力になるならそれ以上でもそれ以下でもない。

 見える範囲の敵兵を片付けたカイムは、一旦エンヴィの元へ向かう。

 

『居場所を知っているなら早く案内しろ』

「えっと……?」

 

 何も言わずに詰め寄るカイムにエンヴィは困惑した表情を浮かべる。そもそも突然現れた挙げ句、今にも首根っこを掴まれそうな気迫で迫られても何も分からない。

 

「この人はカイム。エンヴィの言ってた噂の契約者はこっちのことだと思うわよ?それで、カイムは契約の都合で喋れなくって……多分早く案内しろって言いたいのよね?」

 

 と、ギャラルが全部説明した。エンヴィも、噂の契約者が随分としわがれた爺さんだな……?と思っていたので納得する。

 エンヴィが向かう先には、隠されるように小道があった。確かに"声"もこの先からするとカイム達も納得する。一応帝国軍の罠かと疑っていたが、その心配はなさそうだ。

 

「この先は帝国軍の牢獄があるはずです。"声"もそちらでしょう」

「はい。ただ、先程連合軍の襲撃があったばかりなので警戒は強まっています」

 

 忠告するエンヴィだが、むしろカイムは笑みを浮かべる。それだけ帝国兵を殺せるということだからだ。

 エンヴィは変な人だなと思っているが、顔に出ていたのかギャラルに気にしないでと言われる。エンヴィからすれば、ギャラルも七支刀も見たことのないキル姫なので疑問の対象なのだが……まあ時間はあるだろうと今は黙っておく。

 

 小道を抜け牢獄が見えてくると、その手前の広場に帝国兵が大量にいるのが見えてくる。

 カイムは武器を堕天使の槍へと持ち替える。エンヴィを意識してだろうか、単純にそちらの方が戦いやすいと踏んだのか。

 カイムとエンヴィが迷わず広場へと走り出し、それを追いかけるようにギャラルが飛ぶ。七支刀は奇襲を警戒しながらヴェルドレの元へ残る。

 残ったヴェルドレへ語るように、アンヘルは呟いた。

 

「血と祈りは表裏一体であることに、なぜ人間は気づかぬのだ?」

 

 それはそこにいる七支刀も含めての発言だろうか。しかしあくまでも独り言。答えるものはない。

 迷わず走り出したカイムとエンヴィを狙い弓兵がボウガンを放とうとするが、それより早くギャラルが神器で攻撃を仕掛ける。獣が扉から顔を出し、弓兵を狙い強力な魔力で潰していく。

 魔法の効かない重装兵を倒すために二人は走り、エンヴィが懐に飛び込み槍で腹を貫く。カイムは重装兵を飛び越えながら頭部を狙い貫く。

 喜々として、或いは淡々と帝国兵は処理されていく。ここまで来て、初めて敵を殺すことに嫌悪感を覚えない相手に会いカイムは少しだけ満足気だ。

 

 三人の連携であっという間に帝国兵は全滅した。後は中に突入するだけ……という所で、あっとエンヴィは一つ思い出し質問する。

 

「そういえば、あなた達の名前を聞いていませんでした」

 

 エンヴィの乱入が突然だったのと、その後のカイムの行動もあり確かに聞いていなかった。

 

「私はギャラルホルン。ギャラルって呼んで」

「わたくしは七支刀です。初めましてですね」

「私はヴェルドレ。神官長を務めております。先程は助けていただきありがとうございます」

 

 有耶無耶になっていた謝辞をヴェルドレは述べ、深く頭を下げる。

 

「我は名乗らぬぞ。人間に語る名など……」

「そう言わないでよ、アンヘル。仲良くしましょ?」

 

 勝手に名前を教えられ、アンヘルはそっぽを向く。こんなことなら二人に名前を教えるでなかったと後悔する。……なぜかは分からないが、この二人相手ならいいかという気持ちになったのだ。

 

「ありがとうございます。……それと、私はここで待っています」

 

 エンヴィは契約者となった女性の、先程の光景を見ている。あまり積極的に会いに行こうという気にはならない。

 一緒に行けばいいのにと思いつつ、ギャラル達は牢獄に踏み込んでいった。

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