しかし、奇跡など起こらないと否定するアンヘルと共にカイムとギャラルが追撃し、遂にブラックドラゴンとイウヴァルトを墜とす。
かつての親友は、フリアエと共に眠りにつく。
第四節 眠り
イウヴァルトの落ちた先へとアンヘルは降りる。カイムとギャラルはその背から降り、イウヴァルトの前へ向かう。
残った力を振り絞り、眠るフリアエの元へおぼつかない足取りで向かう。辿り着くと同時に膝を付き、必死に言葉を紡ぐ。
「カイム……お願いだ。俺をフリアエと一緒に……逝かしてくれ。頼……む」
死を察した、イウヴァルトの最期の願い。かつての親友の願いへと、カイムは静かに頷く。
安堵したイウヴァルトは、そのままフリアエの隣へと倒れ込む。結局、最後までカイムには勝てなかったなと、思うが……もはや、そんなこともどうでもいい。
「あぁ……しあわせだ……」
ただ、愛する人と眠れる幸せに身を包まれながら、イウヴァルトの意識は沈んでいった。
彼の最期を見届けた二人。ギャラルはちらりとカイムの顔を見たあと、アンヘルに声をかけようとする。
「ねえ、これからどうするの?アンヘ……ル……!?」
ギャラルと振り向くと、そこにいたのは黒いドラゴンだった。ブラックドラゴンは先程倒した筈で、契約者のイウヴァルトも死んだ。なのに……!?と混乱しながらも、反射的に剣を抜く。
「落ち着け、我だ」
「……アンヘル、何だよね?」
アンヘルの声で冷静さを何とか取り戻すが、もうレッドドラゴンとは言えないであろうその姿に困惑するばかりだ。
しかも、よく見れば頭部だけは白くなっている。まるで頭骨が剥き出しになっているような不気味さ。カイムもまたそのアンヘルの姿に、不安そうな表情を見せる。
「安心しろ、深化しただけだ」
深化とは……こうも姿が変わるものだろうか?ギャラルはもちろん、カイムも決してドラゴンの生態に詳しい訳ではない。そういうことだと納得する。
そこへ、足音が聞こえてくる。二人分だろうか、走っている音。ドラゴンがいるのに襲いかかってきた、無謀な亜人でもいるのかと剣を構えるが、やってきたのはエンヴィとレオナールの二人だった。
エンヴィはアンヘルの姿を一瞥してから二人に声をかける。姿が見えないレオナールはともかく、エンヴィもそこまで驚いてないようだった。
「無事でしたか?女神は……」
イウヴァルトのせいで見えづらかったが、よく見ればフリアエも倒れている。帝都中の様子で察してはいたが、やはり封印は破壊されたようだ。
「二人……と、ドラゴンは祭壇へ向かってください」
「祭壇?……あの建物のことよね」
いつもより積極的に見えるエンヴィに違和感を覚えつつも、とりあえず分からないことを確認する。
「はい。きっと、そこに司教が」
「貴様らは付いて来ぬのか?」
「アリオーシュと、彼女を追いかけた七支刀と逸れてしまいました。彼女達も探さねばなりません」
こんな状況だろうと、あいも変わらずアリオーシュは制御不能で、しかもヴェルドレもこの状況に怯えまともに使い物にならなくなったせいで七支刀が奔走していた。
エンヴィとレオナールも、元々は二人を探して行動していた。アンヘルの降りてきた姿が見えたので一旦合流しただけである。
「そうか。ならば我らは先に向かっているぞ。来るのならばな」
「……?」
アンヘルの意味深な言い方に、一同首を傾げる。どうやら誰も分かっていない様子だ。そんな様子を見ながら、鼻で笑う。アンヘルが何を見て何を理解しているのか……カイムにさえ伝わってこない。
「……いよいよか」
司教との決着。全ての終わり。先を見据えたアンヘルが、小さく声を漏らした。
同刻。祭壇
司教マナは祭壇にいた。一際大きな再生の卵の前に、機嫌を良くしていた。だから……余計なことを、口にしてしまったのだろう。
「もうすぐ。もうすぐ……ドラゴン……神の使い……私のしもべ達よ……」
神殿の中に待機しているドラゴン達へ声をかけながら、そちらに歩いていく。
しかし、私のしもべ、というのは如何なものか。確かにマナは神の力を分けてもらっている。しかし所詮は人間の子供、誇り高きドラゴン種にとって屈辱的な発言だったに違いない。
迂闊にもドラゴン達へ近づいていっているマナに、激怒したドラゴンが声を荒げ口を開く。
「ひぃっ!お母さーーん!」
突然に訪れた命の危機。もう神にとって用済みになったマナに、ドラゴンから身を守る手段など残されていない。
尻もちを付き、距離を取ることさえできなくなったマナへ、一体のドラゴンが歩み寄る。そして……無惨にも、捕食されるのであった。
世界を滅ぼそうとした天使の教会の司教、その最期はあまりにも呆気なかったのである。