七支刀達へ合流するエンヴィ。彼女は突然の始まりを告げる。それは虚しい戦いの始まり。
全ては神の掌の上にあることを、カイム達はまだ知らない。
アンヘルと共に神殿内部へと突入するカイムとギャラル。祭壇まで辿り着くものの、いやに静かだった。
床に残された血の跡を見て、アンヘルは司教の末路を悟る。
「……ヤツは我が同胞に食い殺されたようだな。卵を前にしたドラゴンに、人間の司教ごときの洗脳は効かぬ」
祭壇には再生の卵が一つ。ベッドを押し潰す形でそこにあった。
「我らドラゴンの存在意義を人間は思いもつかないだろう」
突然のアンヘルの言葉に、カイムもギャラルも困惑する。ドラゴンの存在意義……それが今、何に関係するというのだろうか。
「アンヘル、それはどういう……?」
「赤子は水浴びを喜ぶ。……いつまでもさせてやりたい。しかし、季節は変わるのだ」
ギャラルの言葉を無視し、アンヘルは言葉を紡ぎ続ける。いまいち要領を得ない言葉の数々……ギャラルの中にはただ嫌な予感だけが膨れ上がっていく。
その嫌な予感は、直後に現実へと変わる。
「カイム……我らの契約はここに終了する」
契約が終了。次々と叩きつけられる言葉にカイムは飲み込むのが遅れ、驚きアンヘルの方へ振り向く。もちろん驚いたのはギャラルも同じ。
「………!!」
「何で!?どうしたのよ、アンヘル……」
「我らの戦い……それは道理を越えた場所にいるお方の摂理によるもの。もはや心臓など関係無いのだ」
カイムはあまりのショックに、ふらふらとアンヘルから距離を取る。ギャラルもまた衝撃から立ち直ることは出来ていないが、"道理を越えた場所にいるお方"というものがなんのか、察してしまう。……神だ。
「カイムよ……おぬしは深く生きすぎた。ここまで来たからには我は本能によっておぬしを殺さねばならぬ。人類を守ろうとするギャラル、おまえもだ」
カイムは苦悶の表情を浮かべる。これまで共に戦ってきた最強の戦友に告げられた現実。アンヘルと戦わないといけない。
しかし、カイムは全てを理解する。カイムは今ここで、アンヘルと戦わないといけない。全てを諦め受け入れ、覚悟と共に剣をアンヘルへ向ける。
ギャラルもまた、そんなカイムの様子を見て覚悟を決めなければならないということを実感させられる。アンヘルは本気だ、もう何と言おうが戦いは避けられない。静かに剣を抜き構える。
「許せ!」
誰も望まない、悲しき戦いが始まろうとしていた。
同刻。エンヴィとレオナールは七支刀を発見する。近くで亜人相手に暴れているアリオーシュも。
「申し訳ありません!わたくしではアリオーシュ様を止めることが出来ず……」
頭を下げ謝罪する七支刀と、奇声を上げ剣を振るい続けるアリオーシュ。異様な光景である。
アレを止めることなど誰にもできないと、エンヴィは察していた。完全に心が壊れてしまっている。世界が滅ぶか救われるか……どう転んだところで、死ぬまで狂気をまき散らすだろう。
まあ、救われることはないだろうなと思ってはいるが。
「私が止めてきます。七支刀とエンヴィ、貴方がたはカイム達の援護へ」
次なる獲物を求め走り去るアリオーシュと、それを追いかけるレオナール。残されたキル姫二人の視線が交差する。
七支刀がカイムの所在を尋ねようとすると、エンヴィが先に口を開く。
「ブラックキラーズに課せられた使命、誰にも話していませんでしたよね」
「……聞いてないですが、それがどうかされましたか?」
突然の独白。理解が追いつかない七支刀を置いて、エンヴィは勝手に喋り続ける。
「私の背負った大罪は嫉妬です。あなたを見て思っていました、純粋に平和を願えるその心が、その想いに縛り付けられて力を振るい切れないその余裕が、妬ましいと」
明らかに敵意に満ちた視線。いつも半目だし暗い顔をしているものの、今はそういう気配ではない。
エンヴィは槍を構え直しながら、尚も想いを語る口は止まらない。これまでずっと我慢してきたと言わんばかりに、感情の枷が外れたかのように。
「ラグナロク大陸は平和そうでいいですよね。自分との殺し合いもない、キル姫が人間の道具ではない。そういう環境にいたことも妬ましい。ましてや……神の道具ではない!」
七支刀へ距離を詰め、黒葬槍を突き出す。怒りとか憎しみとか、ドス黒い感情がごちゃ混ぜになった一撃を、咄嗟に神器で防ぐ。
「いいですよね、神器も使えて。ああ妬ましい……!」
「やめてください、エンヴィ様!どうして!?」
ここまで共に戦ってきた戦友の、突然の独白と裏切り。七支刀には到底理解できるものではなかった。だからこそその理由を聞く。でなければ……
「聞こえませんでしたか?私は神の道具です。人類と人類に味方するキル姫は、全て私が殺します」
「……!?」
槍を受け止める腕が限界で、僅かに横へ力を逃す。槍は神器の上を滑りながら逸れていき、エンヴィは体制を崩すがすぐに立て直し振り向く。
「……本当にあなたのそういうところが妬ましくて、嫌いです!」
「どうして……!」
エンヴィの殺意は間違いなく本物で。もう何を口にしたところでエンヴィは止まらないことを、七支刀でも察してしまう。
七支刀の望まない、虚しい戦いが始まろうとしていた。