ヴェルドレと合流したカイム達は、帝国軍の狙いを知ることになる。
第四節 無念の思い
捕虜収容所から、囚えられていた連合軍の兵士が姿を表す。次々とギャラルへと感謝を告げていく。
「助かりました。しかし君のような子供まで前線に……」
「あちらの青年がカイム隊長ですか?ギャラルさんもそうですが、ずいぶんと若いのですね」
連合兵達は、ギャラルのような子供がいることはもちろん、兵を率いていたカイムでさえまだ若いことに驚きを隠せないようだ。
「レッドドラゴンから話は聞いていました。貴方がギャラルホルンですね」
「ギャラルでいいわよ」
兵達の中にいた高齢の男性、彼が神官長ヴェルドレだという。契約者であるため、先にレッドドラゴンから"声"である程度のことは聞いていたらしい。
ギャラルとヴェルドレが話しているところに、カイムと七支刀が現れる。
「貴方がカイムですか。そしてそちらがエンヴィ……」
ヴェルドレがエンヴィを見る。遅れて七支刀も姿を現す。この世界で集まった三人のキル姫の姿に驚くが、それよりもと言葉を続ける。
「帝国軍は国への介入に飽き足らず、もっと根本的なところから創造しなおそうとしているようです。」
「世界か?」
「はい……封印がすべて解けた時に出現すると言われている”再生の卵”、彼らの狙いはそれでしょう。だから最終封印である女神の命まで」
ギャラルはその話を聞いて、少し罪悪感を覚えた。かつて、世界を終わらせようとした者の一人として。世界を創造し直す、もしかすれば昔の自分と同じように人々を救うための行いかもしれない。一瞬そう考えるが、帝国兵の正気の無さげな言動や、余りにも残虐な戦い方を考えるとそれはないと否定し直した。
「”再生の卵”だと?真実を都合のよい神話にゆがめるのは、人間どもの悪い癖だ」
「"再生の卵"、アンヘルは何か知っているの?」
吐き捨てるように言うアンヘルにギャラルは質問する。
「我とて全てを知っているわけではない。が、碌なものでもないことは容易に想像が付くだろう」
「帝国軍の聖地破壊を止めてくれぬか?封印を解いて世界が無事なはずがない。……まして、神殿の封印がやぶられるごとに女神の負荷はますます重くなるのだ」
ヴェルドレの言葉に答えるように、カイムは強く剣を振り上げる。
ギャラルはカイムがどう応えたのかを推測することしか出来ないが、ヴェルドレは契約者だからこそカイムの"声"を聞く。
「おぉ、そんな!帝国軍とて人の子、慈悲を持って穏便に……」
「この男に説教は無駄だ。世界がどうなるかより、己の恨みをどう晴らすかで頭がいっぱいらしい」
カイムはヴェルドレを軽蔑するように睨みそれから振り返ってしまう。ギャラルはそんなカイムの手を取る。
「復讐……ギャラルにその苦しみは分からないけど、きっと戦い続ければ晴れるものよね」
「お主は否定しないのだな」
「なんて言っても、カイムは止まらないでしょ?」
ギャラルを一瞥した後に、カイムは無意識に手を握り返す。どうしてこの少女がここまで自分を肯定しようとするのかは分からないが、不思議と悪い気分ではない。が、慌てて手を振り払う。こんな子供に何が分かると言うのだ。
ヴェルドレとギャラルを背に、歩いていこうとするカイムを見てヴェルドレが呟く。
「神よ、哀れな子供らに祝福を」
「祈る者と殺す者に何の違いがあろう?ひと皮むけば、人間など、みなおしなべて愚劣よ」
平和を祈る者が、剣を手に取り殺す者になる。まさに今の自分だとギャラルは思うが、それでも戦わなければ守れないものもあるのだ。綺麗事で救われるような世界でないことは、もう嫌ほど理解させられた。
そこへアリオーシュと共に精霊たちがやってくる。サラマンダーとウンディーネはそれぞれ口を開く。精霊がどうやって喋っているのか、少し気になってはいるもののとりあえず今は静かにする。
「無駄だ」
「それはどういう……?」
「砂漠の神殿の封印はすでに破られた」
衝撃の事実にヴェルドレはよろめく。エンヴィは、まあそうだろうなと一人納得していた。もしかすれば、妖精の森も今頃堕とされているだろうかと考える。
「そなたらは何も感じぬのか?」
「う、うそだ!封印が破られるなんて……」
カイムは静かにヴェルドレを見つめる。精霊の言葉を信じるかどうかを問いかけるように。
しかしそこでエンヴィが口を挟んだ。普段あまり意見しない彼女の進言に、視線が集まる。
「あなた達と合流する前に少し帝国の様子を見てきましたが、これから神殿に攻める様子には見えませんでした。精霊の言葉は本当でしょう」
「おお、なんということだ。ならば残る神殿を死守しなければならない」
「……海の神殿へ行くのだな?」
次の目的地を、アンヘルが言う。カイム達が向かうべき場所は決まった。