そこで見たものは、帝国軍の船団が何の罪も無い子供達を海に棄てるという非道な行為だった。
第1節 海蛇の苦悩
七支刀とヴェルドレは女神の守りに付くために残り、それ以外の契約者とキル姫は向かうという意思を表示した。
しかしアンヘルもそこまで乗せられないと拒絶する。そうして仕方なしに出来たのは……
カイム、レオナール、アリオーシュの契約者三人はアンヘルに乗せられ、ギャラルは飛ぶことになった。エンヴィはといえば、ギャラルの背に乗っていた。
そこまでしてもらってまで行くのなら待ってると主張するエンヴィだったが、七支刀に後押しされ渋々乗せてもらうことになった。
曰く自分と違い迷いなく戦えるエンヴィ様なら、大きな戦力になるだろうとのこと。そんな言葉を恨めしそうな顔で受け取っていたが、その理由までは誰も察せられなかった。
海へ近づいてくると、最初に異変を感じ取ったのはギャラルだった。遠くから悲鳴が聞こえてくるのだ。それも、おびただしい数の……
一人や二人なんてものではない。数十人、下手すれば数百もいるだろうか?里から拐われたエルフが全ているのでないかと錯覚するくらいの数がする。
その悲鳴に動揺しふらついて、危うくエンヴィを落としそうになる。
「ご、ごめんなさい……」
「どうしました?」
「凄い悲鳴が聞こえてくるわ。それも、多分子供の」
しかし、そんな二人の会話を聞いていたレオナールとアリオーシュの目が変わる。
「子供……ふふふ!」
が、いち早く行動を起こしたのはアリオーシュだった。突如アンヘルから飛び降りて海へと落ちていく。そして泳ぎ出した。
「アリオーシュ!?」
「待て、レオナール。封印が先だ。封印を守る者は大勢いよう。しかし最後まで守り抜く者は少ない。急ぐのだ!!」
「この悲鳴、なんて酷いことを……」
カイム達にも"声"として悲鳴が届く。あまりに悲痛な"声"にレオナールは顔を歪める。よりにもよって、子供なのだ。
「小さき者を弱き存在と思うのはみな同じ。ゆえに守るか?捨てるか?その違いよ」
「なら、ギャラルはアリオーシュを止めに行くわ!エンヴィは……」
「このまま一緒に行きます」
その言葉に続けて、エンヴィはこれが神のやり方ですかと呟く。どういう意味なのか気になったが、今はそれどころではない。
アンヘル達に帝国の艦隊が見えるようになる。当然、艦隊もアンヘルを撃退すべく大砲を向け迎撃しようとする。更には気球型の船も飛んでおり、それら全てがアンヘルに向けられている。
『おいしいモノはどおれ?』
喜々として泳いでいくアリオーシュ。彼女の目的は一つしかないだろう。ギャラルやエンヴィに注がれていた視線が、今向けられている先はエルフの子供たちだろう。
アンヘルが気球を狙い火球を吐く。その間にギャラルは海上スレスレまで降下していく。なるべく艦隊に狙われないようにするためだ。
同時にアリオーシュを探すがもう姿は見えない。帝国の妨害を受けずに進めたのだろうが、それにしたって泳ぐのが速すぎる。
『子供……あたしの子供たち……待ってて……今行くわ』
砲撃の大半はアンヘルに向けられ飛ばされている。気球隊を軽く散らし、艦隊への攻撃を始めたのもありほとんどがそちらに意識を持ってかれているが、流石にギャラル達に気づかないということはないようで近くの艦は砲をギャラルへ向けてくる。
「私が対処します。少し我慢してください」
「えっ何?うわあ!?」
エンヴィはギャラルの背中を蹴り跳躍した。黒い槍に赤い光が纏わりつき禍々しい輝きが放たれる。光はそのまま真っ直ぐ船へと落ちていき、触れた瞬間に爆発が生じた。
エンヴィが飛んでいった船とは反対側へギャラルは向きを変え、神器を演奏する。扉は開け放たれ、終焉の力が船へと落ち崩壊させる。船が破壊されたのを確認してからエンヴィの方へ飛んでいき、そのまま回収する。
「……強いですね」
「ありがとう。でも、エンヴィだって強いわ」
回収する際に、お姫様抱っこの形で抱えてしまったので、お互いの顔がよく見える。笑顔で素直に称賛してくれるギャラルの顔を直視してしまい、恥ずかしさと、妬ましさを隠すように顔を逸らす。
しかし二人共派手にやりすぎてしまったか、アンヘルへ向いていた視線が幾らか二人へと集まってしまう。
アンヘルが強いとはいえ、全ての艦隊を一瞬で壊滅なんてできるわけではない。確実に数は減っているが、この様子では逃げきれそうにはない。
「あの、この姿勢では戦いづらいですよね。適当な船に降ろしてもらえますか?」
「大丈夫?」
「船から近くの船へ跳べば移動はできます。……最後は回収してもらえると助かりますが」
「もちろんよ。置いていったりしないわ」
砲弾を避けながら最寄りの船まで接近し、投げるように甲板へエンヴィを降ろす。
彼女らの猛攻で艦隊は壊滅させられる。エンヴィを背中に乗せ直したギャラルとアンヘルは、アリオーシュを追うために飛翔する。