なんか世界って機械のせいで荒廃したらしいですね   作:饅頭おとこ

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三十六計逃げるに如かず:やっべぇ時、手に負えない時は逃げろ。


三十六計逃げるに如かず

 見渡す限り雪原地帯の場所に奇妙な生物がいた。

 

 頭の上にチョコンと可愛らしい二本の長い耳。黒いクリクリした瞳はウサギのように見えるが、体表は汚染されたかのようにいくつもの紫色の斑点

 

 そんな奇妙なウサギの前をひらひらと、これまた同じような蝶々が無警戒に通り過ぎようとしていた。翅の部分は黄色と紫色のグラデーションで、触覚なのか足なのかそんなように見える部位は数えるだけで数十本はあった。

 

 

 バグッ!

 

 

 ウサギの顔に大きく十字の切れ込みが入ったかと思えば、まるでモンスターのようにガバッと開き蝶々を一瞬にして丸呑みにした。

 口を戻せば十字の切れ込みはたちまち消え、愛らしいウサギの姿に元通り。目を細めて美味しそうに咀嚼するウサギ。

 

 そんな中、唐突にウサギは体を硬直させた。

 

 ピクピクッ

 

 耳だけを忙しなく動かし、足を二倍以上を膨らませた瞬間――ダン! 美しい雪原地帯に紫色の液体が飛び散った。

 

 ウサギを探せば、少し離れた位置に頭部から矢が突き刺さった状態で地面に縫い付けられていた。「ギィァギィァ」と気色の悪い鳴き声をあげ、しっちゃかめっちゃかに暴れまわるが、少しも動くことができない。

 

 そんなウサギの元へ、金属と金属がぶつかり合うような音を響かせながら何かが近づいてくる。

 

「ギャシャァァァ!!」

 

 口を十字に限界まで開き、円口類のような歯を覗かせ威嚇するウサギ。その視線の先には生物を冒涜するような、悍ましい生物とは言えない存在がいた。

 

 鋼で作られた八本の足。所々から長いコードが伸び、動き方から蜘蛛だと錯覚するが少し視線をずらして上を見れば、すぐに顔を顰めるだろう。

 なぜならライオンと羊の頭部から直接、鋼の足が生えているからだ。

 

 

 それは世界が崩壊した原因となった機械生命体。数ある機械生命体の一つ捕食融合個体(キメライド)だ。

 

 

 捕食融合個体(キメライド)の二つの頭部からは到底正気を感じられない。虚な眼差しに、弛緩した口から舌が飛び出ていた。

 

 喚くウサギを楽しんでいるのか、はたまた何も感じていないのか、ゆったりと捕食融合個体(キメライド)はウサギに近づいた。ウサギの目の前に立つと、捕食融合個体(キメライド)は一本の足を振り上げ、ウサギの胴体へ突き刺す。

 

 ギュルルル!

 

 ウサギが悲痛の声を出すが、それ以上に捕食融合個体(キメライド)の耳障りな音が響き渡る。一瞬にしてウサギはカラカラに乾き、骨と皮だけになった。

 

「ギャオオオオオ!!」

「メェエエエエエ!!」

 

 先ほどまで死んでいるようにしか見えなかった二つの頭部は見る見るのうちに元気を取り戻し、雄叫びを上げる。

 目を爛々とさせ、足を器用に使いウサギの死体を貪り始めた。羊は草食動物のはずだが、関係なしに横にあるライオンの頭部と奪うように骨や皮を頑丈な顎で噛み砕く。

 

 

 ダダン!!

 

 

 場面を繰り返したように再び二つの鈍い音が響いた。今度は緑色の粘着質の液体が雪原に飛び散る。しかし捕食融合個体(キメライド)は先ほどのウサギのように地面に縫い付けられることはなく、それぞれの頭部から矢が生えながらも、周囲を注意深く警戒する。

 

 捕食融合個体(キメライド)の二つの頭部がキョロキョロ見回している時、視界外から槍が飛んできた。

 

 ドンッ!

 

 回避するよりも早く、槍が捕食融合個体(キメライド)の二つの頭部に突き刺さる。槍からは剥き出しのコードと機械の装甲が貼り付けられており、電気をバチバチと放出していた。

 

 捕食融合個体(キメライド)は足を使い槍を引き抜こうとした瞬間、槍から雷だと思わせる轟音と眩しい光が爆発した。

 

 

 聴覚と視覚が狂ってしまう中、少しずつ収まると、捕食融合個体(キメライド)の二つの頭部はプツプツと真っ黒に焦げ、そのまま千切れ落ちた。

 すると二つの首の重なる当たりだろう場所に丸く赤い球体が露わになった。

 

 それは捕食融合個体(キメライド)の導入源、つまり心臓(コア)だ。

 

 それが出てきたのが合図になったのか、近くの雪原からガバッと男性が勢いよく飛び出てきた。男性の顔には斜めに白と青の塗料が塗られてあり、手には小銃。

 すばやく照準を捕食融合個体(キメライド)を向けた。

 

 プシュッ

 

 男性が引き金を引くと、気の抜けるような音。それだけでコアは破裂し、捕食融合個体(キメライド)は音を立てて地面に倒れ伏す。

 

「ふぅ……」

 

 男性は警戒しつつも頭まで被った白い毛皮を下ろした。固まった首を解すように左右に小さく振ると、淡い青色の長い髪が靡く。

 凛とした顔立ちと無造作に束ねられている髪によって、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

 男性が持っていた小銃はいつのまにか形を変え、銃のグリップに変化。それを握りしめながら捕食融合個体(キメライド)に近づく男性。

 

「こいつ……」

 

 男性はすぐに気づいた。捕食融合個体(キメライド)のコアは一つじゃないことに、そして男性を油断させるために死んだふりをしたことに。

 

 男性の頭の中でうるさくカンカンと警鐘が鳴り響き。

 

 

 ブゥゥゥン!!

 

 

 捕食融合個体(キメライド)の壊れたコアの更に奥にあったもう一つのコアから、赤いレーザー光線が男性目掛けて発射された。

 

「くそが!!」

 

 男性は勢いよく横に回転しながら避け、持っていた銃のグリップを強く握りしめると、無骨な一本の長剣に変形。

 

「ざァッッけんな、遠距離相手に剣かよ!!」

 

 悪態をつきながらも長剣を握り直した男性は、地面を滑るように捕食融合個体(キメライド)へ近づき思いっきりコアへ長剣を突き刺した。

 

 

 

 ◆◇

 

 

 

 俺の名前はマキ。北方連合の一つ……なんだっけ、確か結構前に婆ちゃんに教えてもらった気がする。

 

 眉間を必死に揉んでいると、ピカーン!

 

 そう、『飛鳥』だ!

 ……そんな感じだった気がする。う、うん。それの防人とかいうやつに所属してるぜ。

 え? なんでいきなり自己紹介したって?

 へ、へへ。お前、外見てみろよ。

 

 いくつもの金属片や壊れた機械が重なってできた空間から外に目を向ければ、夥しい量の機械生命体と一体の巨大な汚染体が戦っていた。

 

 うん? 汚染体って、なんだって? 俺もよく覚えてないけど確かあれだよ。なんか機械生命体とかいう名前を言うたびに噛みそうなやつの、うんちゃらかんちゃらっていう個体の汚染物質に侵された……やっべぇやつだよ。

 ッるせぇ! これ以上聞くんじゃねぇ、ぶん殴るぞ!

 

 俺が言い訳をするように手を振り上げた瞬間、振動のせいでそいつがコロコロと転がった。

 

 あっ!!

 

石ころちゃーーーん!!

 

 サッと手を伸ばしたが、石ころちゃんは意外と早い速度でそのまま外に飛び出ていった。

 

 そう、それは俺がさっき見つけた良い感じの石ころちゃん。

 最近婆ちゃんから「いつもいつもゴミを拾ってくるな!」と説教されたが、左から右に流した。男なら良い感じの物を見つけたら拾っちゃうだろ?

 まぁ、そんなことは置いといて。

 

 くそぉ!!

 

 怒りから地面を殴るがすぐに手が痛くなり泣きべそをかく俺。ちょっと土に汚れてヒリヒリする手のひらをフーフーしながら体育座りをする。

 

 はぁ……喋る相手いないとマジで暇だな。早くあいつら全員共倒れしてくれねぇかな。

 

 外をチラッと見ればギャァギャァうるさいやつら。

 大きくため息を吐いて項垂れると俺は気づいた。

 

 ……ていうか、外の奴ら普通に全員ぶっ殺せばよくね?

 何してたんだろ。あほくさ。

 

 立ち上がって、固まった身体を軽く解す。そしてポケットから最近加齢臭がしてくるおっさんにもらった《物干し竿》を取り出して右手で強めに握る。すると《物干し竿》はたちまち変形を始め、大きな筒のある銃になった。

 

「うーん。今回はまぁまぁだな」

 

 口では馬鹿にしたが、《物干し竿》の表面を軽く撫でてやる。無機質相手に機嫌取りもクソもないが、褒めたら良い感じのやつに変形する確率が高い気がするからだ。

 

 肩に《物干し竿》担ぎながら外へ出れば、俺をここまで付け回してきたストーカークソクソ汚染体が、これまた顔を顰めそうになる機械生命体と元気いっぱいに戦っていた。

 

 汚染体は婆ちゃんから以前聞いた象とかいう動物とキリンを混ぜたようなよくわからん形をしていた。がっしりした胴体から長い首が天に伸び、ちょこんと小さな頭。そこからどうしてそんな物を生やそうとしたのか謎な長い鼻。

 全く意味がわからん。そして体表には汚染体特有の紫色の斑点がびっしり。

 そいつと戦っているのはハゲワシの頭とミミズの胴体に、虫のような機械できた翅の機械生命体。

 

「どっちもキモすぎだろ」

 

 思わず心の声が漏れ出ると、耳聡く聞きつけただろう数体の機械生命体が目標を俺に変え、突っ込んできた。

 

「はぁ……めんどくせッ」

 

 機械生命体の中心あたりに《物干し竿》の照準を定め、カチリッ。

 

 音もなく空間が歪み、近くにいた機械生命体を吸い込むように圧縮するが、すぐに空間は元の大きさに戻ろうと逆再生を起こし膨張した。巻き込まれた機械生命体たちはボロボロになって、そのまま地に堕ちていく。

 

 よっわ。ザコじゃねーかよ。俺の時間を返せ!!

 

 八つ当たり気味に《物干し竿》の引き金をカチカチ引きまくって、殺到してくる機械生命体を撃ち落としていく。

 

 

 

 

「……多すぎじゃね? どうなってんの?」

 

 最初は楽しく機械生命体をイジめていたが流石に百を超えてくると俺もウンザリしてくる。地面には無数の機械生命体。しかもまだ生きてるやつもいるのかモゾモゾ動いていて、寒気がする。

 そいつらの息の根を止めようと、引き金を引こうとしたら馬鹿竿がいつのまにかクソグリップに戻ってやがった。

 

「こ、この馬鹿竿がッッ」

 

 ブチギレそうになったがこいつがいなければ俺はただの美味しいエサ。寛大な俺は媚びるように馬鹿竿……《物干し竿》様を撫でる。

 

「お、お願いします。《物干し竿》様ァァ!!」

 

 カチリッ

 

 祈るように《物干し竿》様を握った。ゴ、ゴクリ……変形を始めた《物干し竿》様をすがる思いで見ているとなぜかどんどん小さくなっていき、短剣になった。

 

「ざっけんなっっ!!」

 

 クソゴミカス竿を地面に叩きつけてやった。しかし、思いっきりやったせいで短剣はそのままバイーンと地面から跳ね返り、機械生命体の死体の山へ飛んでいく。

 

 やっべぇぇ!! うぉぉぉぉぉ!

 

 まるでスローモーションの中、短剣に手を伸ばす俺。そしてその俺に突っ込んでくるキモい機械生命体。

 

 

 

 お、俺の運命は如何に!?

 

 

 

 カッコつけたけど別にそのまま喰われるほど俺は弱くない。回し蹴りを放ち、ハゲワシの頭部を爆散させる。

 

「ぐわぁぁ!」

 

 間近でやったせいで緑色のネバネバが全身にぶっかかった。

 

「……最低な気分だぜ。クソドリがよぉぉッッ!!」

 

 両手を構え、近づいてきた機械生命体をぶっ殺そうと睨みつけると、俺を警戒して近づいてこない。

 その隙に足へ力を入れ、一気に体を捻り百八十度回転させた。猛ダッシュで短剣に駆け寄り、掴み上げる。

 

「クックク……形成逆転だなァァ」

 

 ネットリした顔で短剣をペロペロすれば、機械生命体どもは怖気付いたように俺を見てくる。

 

 婆ちゃんから言われたことを覚えといてよかったぜ。最新個体の機械生命体にもぶるっちまう感覚があるってな!

 

「シネェェッッ!!」

 

 

 シュンシュンッ、シュンッッ!

 

 

 ……クソ竿を振り回すが、何も出ない。しかもリーチが短すぎて機械生命体に微塵とも当たらない。

 

 

 ダッッ!!

 

 

 三十八計逃げるが勝ちってな!

 あれ、三十六だっけ? ま、まぁなんでもいい!

 

 俺は綺麗なフォームでその場から逃走した。

 




続かない
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