皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
大日本帝国の帝都東京、総合参謀本部の陸軍部、陸軍大臣室。コポコポとコーヒーサイフォンが音を立て、珈琲の香りが満ちる部屋にノックの音がして、扉が開き、山本が入ってくる。
「失礼致します。」
既に連絡をしていたのだろう、魔理沙は後ろ手で扉を閉める山本を見て驚きもせずに椅子を勧める。
「五十六君か、待っていたぞ。それで話とはなんだ?」
勧められた椅子を仕草で断り、立ったまま山本は話し続ける。
「東南アジアの軍政地域についてです。」
「ビルマでの事件についてなら暗殺を計画した人間は既に更迭してある。君が気にすることではない。」
「更迭なのですか?日本が独立を認めたビルマの首相を暗殺しようとしたのですから、明らかに国家に対する反逆罪ではないでしょうか。我が政府の意向とは完全に食い違っています。」
それを聞いた魔理沙はほんの少しだけ口角を上げる。しかしその眼は笑っていない。
「五十六君は別に暗殺未遂事件について話に来た訳ではないのだろう?」
「はい、仰る通りです。」
山本は力強く魔理沙の方を向き話す。
「今回は我が帝国政府のインドネシアに対する処遇についてお尋ねするために来ました。」
すっと魔理沙の口角が戻り真剣な表情になる。山本はそれを見て言葉を続ける。
「インドネシアでは独立の未達成に対する不満が増大しています。今村大将によれば反乱の可能性もあるとのことでした。インドネシアは何時頃独立を容認する予定なのでしょう?」
魔理沙は山本から視線を外し、ぴったりとドアが閉じられていることを確認して山本の目をじっとりと見ながら口を開く。
「君は口が固い方だったな。今から話すことは他に口外するな。」
「帝国軍人としてお約束致します、口外は絶対に致しません。」
その真剣な目を見た魔理沙は、目を閉じて視線を遮断するといつの間にか前傾していた姿勢を直して再び目を山本に合わせる。
「そうか……五十六君は先ほどバー・モウ首相の暗殺は政府の意向に反すると言ったが、実は少し間違っていると言っていい。」
「……?」
黙ったまま疑問を浮かべている山本に対して魔理沙は機密に踏み込んだ話を口から出していく。
「2年前に行われた未公開の御前会議があったんだが、そこで「大東亜政略指導大綱」というのが決まった。簡潔に内容を言おう、スマトラ、マライ、ジャワ、ボルネオ、セレベスは大日本帝国の永久確保地域にするというものだ。」
「永久確保地域……?つまりは……」
「日本によるアジアの植民地化だ。」
それにショックを受けたのか、軽い動揺を見せながら山本は声を発する。
「ちょっと待ってください!しかし、フィリピンやビルマは独立を認められているではありませんか!」
「その2つの国家は先ほど挙げた地域に含まれていない。永久確保地域外の場所だ。」
冷静に返した魔理沙は、一呼吸置いて山本に考えさせるよう、少しだけ速度を落として話す。
「大東亜会議にスカルノだけ呼ばれなかったのを考えてみろ。軍部は元々インドネシアを独立させる予定などないのだ。」
「しかし、スカルノやハッタといったインドネシアの独立家の解放は我が帝国軍が——」
「それは今村大将の独断で行ったものだ、軍部は一切指示を出していない。実際にその行動に嫌気がさした大本営は彼をラバウルに異動させている。」
「では、大東亜戦争とはいったい……?」
「ヨーロッパの植民地支配からアジアを開放することが目的の一つであるのは間違いない。だが、犠牲の払った戦争には戦利品が必要だ。そこで目を付けたのがインドネシアの資源地帯だったわけだ。」
震える手をどうにか抑えようと拳を握り締めながら山本は声を絞り出す。
「では、スカルノや郷土防衛義勇軍はどうなるのでしょう……。」
「恐らく容認されない独立に不満が爆発、スカルノ率いるインドネシア人は反乱を起こし、日本はそれを大軍を利用して制圧し日本の領土に編入というのが東条内閣の考えだと推測している。これは陛下の御前で決定された内容だ、変更は容易にはできない。」
「……これはインドネシア人のみならず、アジア人やアジア開放を信じて戦う日本兵に対する裏切りではないでしょうか。」
握り締められた拳から血が流れる。余りの握力の強さに爪が彼の掌を裂いているのだ。
「もしこの事を今村大将が知れば……」
魔理沙は数瞬だけ目を閉じ、一触即発とも言える雰囲気を視線と共に切ると、「私と霊夢の個人的な意見だがな、」と前置きして口を開く。
「我が帝国軍人の多くが信じているアジア開放の夢は正しいと思っている。」
「つまり……」
「スカルノを含めたアジア人を裏切らないため、私と霊夢参謀総長はできるだけの努力をすることを約束する。上手く行くかは分からない、だが1946年中にその結果は分かるだろう。」
山本の拳の力がふっと緩むと同時に、魔理沙は一層真剣な表情で宣言する。
「我々は決して欧米諸国と同じ道を歩んではいけないのだ。」