皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
夜八時、帝都東京のとある屋台。物資の供給が安定化したとはいえ銃後の士気の関係から未だに配給制になっている酒を持ち寄った二人が、大声で笑いながら話している。
「やはり聯合艦隊は世界最強だ!アメ公の艦隊はこっちの空母に傷一つ付けることもできずに逃げ出していったぞ!」
「そうだな!このまま行けば日本はアメリカを全面降伏させられるぞ!」
二人の大きな笑い声が、料理の湯気と共に空へ飛んでいく。二人の着崩されたスーツについているバッジは、彼らが参謀本部の事務員であることを示していた。
「そうしたら講和会議で何を請求するんだろうな?」
「まず賠償金をたっぷりと貰う!それから資源の輸入に関する条約も作る!それで俺達の生活をもっと豊かにするんだ!」
「なんだ、案外お前も欲なしなんだな。」
「どういうことだよ!?」
提灯のように赤く染まった顔で突っかかる彼に、もう片方の男は笑いながら答える。
「我らが日本主導の繁栄を東亜だけに留まらせておく理由があるか!?太平洋諸島、オーストラリアとニュージーランド、それから南アメリカにアラスカ、アメリカ西岸部!それらを全て併合し、大東亜共栄圏、いや環太平洋共栄圏を作るんだよ!」
「なるほど、そいつはいいな!日本は鬼畜米英の植民地支配からアジアだけでなく太平洋を解放し、天皇陛下は太平洋を治められる!そしていずれはヨーロッパを支配し八紘一宇を本当のものに……最高だ!」
「だよな!未だにイギリスというちっぽけな島一つ攻略できないドイツよりも大日本帝国の方がヨーロッパを治めるに相応しい!共産主義なんて幻想に染まったソビエトのアカ共よりもだ!」
また二人は大声で笑う。酒に酔った幸せそうなその笑い声は、この国が戦争をしているという事さえ彼らが忘れてしまったのかと思わせるほど高らかに響いていた。
「それにしても山本長官はお盛んなことよ!」
「どういうことだ?」
「知らないのか!?山本長官が愛人を囲ってたって話は有名だぞ!」
「ああ、それなら俺も聞いたことはあるが……戦争が始まってからは全然聞かなくなったし、長官も御国の為に我慢してるんじゃないのか?」
「いいや、あれは絶対によろしくやってるね!だって考えてもみろ、長官は根っからの陸軍だった霊夢参謀総長と魔理沙陸軍大臣と親しくしてるんだぞ!?あの美しい、そして陸軍の二人と!」
「確かにそうだが……別に不思議なことじゃないだろう、彼女たちの昇進もそこまで唐突だった訳でもないし、陸海軍の協力の為に根回しとして接近したんじゃないのか?」
「そうだとしても、あれほどの美人と親しくなって意馬心猿にならない方がおかしくないか!?」
「それは……」
二人の低俗な会話を遮るように、屋台の端に座っていた男が立ち上がって「君たち」と声をかける。
「あまり根も葉もない噂話をするものではないぞ。特に本人の前ではな。」
怒鳴りたい衝動を必死に抑え込んでいるであろう怒気を孕んだその声に二人は驚き、「す、すいません!」と頭を下げると店主に代金を渡してそそくさと去っていった。
「貴方があの五十六さんですか、ここ3年間の戦果は本当に素晴らしいですね。ああ、お代はいりませんよ。あんな話を聞いちゃどんな料理も不味いでしょうから。」
店主の気遣いに構わず空になった皿の横に代金を置いて、山本は席を立ち夜の街を歩き始める。あちこちから歓声が聞こえる帝都を歩いている彼の心には、何か不気味なものが立ち込めていた。