皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
「全員揃ったのか?」
大本営のとある会議室にて、上座に座った一見すれば少女と勘違いしかねないほどに華奢な女性が隣に立っている男に聞く。
「いえ、海軍の人間がまだ来ておりません。」
「こんな事にも足並みが揃わないのか?」
「代理に永野元帥がいらしております。」
二人の視線が動き、その先にいる男が軽く頭を下げる。
「今日はよろしく頼みます、霊夢新陸軍参謀総長、魔理沙新陸軍大臣、山下陸軍大将。」
はあ、とため息をついて「代わりがいるならよいか」と呟いた霊夢は山下に説明を促す。それに短く答えた山下は机に広げられた地図を指しながら戦況を語り始める。
「現状、大日本帝国は三つの戦線を抱えています。太平洋戦線、ビルマ戦線、そして中国戦線です。現在は我が帝国の海軍が未だ少なからず戦力を保持していることから米軍による上陸作戦は離島での小規模なものが散発的に行われるに留まっていますが、今後フィリピンや沖縄などに上陸してくる可能性は極めて高いでしょう。」
「そして、更なる戦線が生まれる可能性があります。」
そう話しながら山下が指した場所を見て、魔理沙は「満州戦線か」と呟く。
「はい。モスクワの占領に失敗しイタリアの内戦に巻き込まれた盟友ドイツの力は日に日に衰えつつあり、ノルマンディーに上陸されたことでその衰退はより加速するでしょう。政府は日ソ中立条約があるため問題ないと認識しているようですがもしドイツが降伏したならソ連はすぐにでも条約を破棄し満州への大規模な侵攻を行うことが容易に予想できます。」
「もしそうなれば大日本帝国は終わりだな。」と霊夢が返す。
「つまりは、我々に残された猶予はドイツが降伏するまでの間ということになります。それまでに戦局を打開しなくてはなりません。」
「兵力を集中運用して一つの戦線を打破しなくてはいけないな。それに最も相応しいのは……やはりここだろう。」
霊夢が指差した場所を見て魔理沙と山本は同時に頷く。
「やはり中国戦線の打破が最も現実的かつ効果的だろうな。」
「私もその意見で一致しております。中国戦線には現在約130万人の兵士が配備されており、これは我が帝国軍の総兵力の三分の一以上に当たります。もし中国戦線で勝利することができればそれらの兵士を新たな戦線へ配備することが可能になり、太平洋における兵力不足は解消されるでしょう。さらに言えば、中国の抵抗勢力を制圧し大陸の沿岸部を租借することで劣悪なビルマへの補給問題の解決にも繋がります。」
それを聞いた霊夢の目が山下の方を向く。
「そうか。ところで牟田口が行っていたウ号作戦はまだ実行中なのか?」
「はい、作戦は続行しているようです。」
「あの作戦は悪評しか聞かない、後で中止命令を出しておいてくれ。」
そう斬り捨てた霊夢に山下は「了解しました。」とだけ返す。
「一ついいかね?」
話が切れた頃合いを見計らって永野が山下に話しかける。
「確かにその意見の理論はしっかりしているが、ではどうやって7年も突破できなかった中国戦線を突破する?」
「それに関しては、太平洋戦線に配置された兵士を引き抜くことで突破力を増進させることができるでしょう。現在中国戦線に展開されている軍は確かに絶対量で見れば多いですが、戦線の広さに対して考えればむしろ少なすぎると言ってもいい程です。そこに適切な兵力を分配すれば精神的、技術的に優越している日本陸軍は必ず戦線を突破してくれるでしょう。」
「その間に太平洋で敵軍の攻撃に晒される重要拠点、マリアナやサイパンを誰が守る?」
「率直な意見を申し上げますが、」と前置きした山下はじっと永野の目を見つめる。
「それらは本当に重要な拠点であるのでしょうか?この際、絶対国防圏をさらに縮小し少ない兵力で万全な守りを固めるべきでしょう。」
「海を知らぬ陸軍らしい意見だな。第一次世界大戦で大勢の兵士たちが血を流して獲得した土地をみすみす米兵に明け渡した上でそんな少数での負け戦を提案するなど海軍軽視も甚だしい。第一、そんなものを誰が担当するのだ?」
二人の間に流れる不穏な空気を察したのか扉が開き、一人の男が入ってくる。
「私が行いましょう。」
その声を聞いた霊夢がほっとしたように息をつく。
「やっと来てくれたか。
——山本五十六長官。」