皇国最後の反攻:novelized   作:[このユーザーは存在しません]

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第十九話:銃後

 重厚なヴァイオリンの音がレコードから流れる参謀総長室で、霊夢と山本は互いに椅子に座り対峙していた。

 

「まずはマラッカ海戦での大勝利、おめでとう。空母2隻撃沈と聞いて胸を撫で下ろしたよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「東南アジアにおける掃討戦は順調に進んでいる、危機は何とか脱せられそうだ。」

 

「部隊の補給状況はどうでしょうか?」

 

「山下将軍からの報告によれば、民間船も全て導入して補給を確保しているそうだ。前線の兵士が餓死することはまずあり得ない。」

 

「安心しました、非常に大規模な部隊運用でしたから……。」

 

「他には今村大将が整備していた現地の耕地も利用できている。その影響も大きいだろうな。」

 

「そういえば、インドネシアの独立家が率いていた部隊があったと聞くのですが本当でしょうか?」

 

「本当だ。かなり活躍をしたと連絡が入ってきている。」

 

 そこまで聞いたところで山本は少しだけ押し黙り、声をほんのわずかに押さえて本題に入る。

 

「魔理沙大臣から、彼らの独立を援助するためにお二方が準備を進めているとお聞きしましたが、それは1946年選挙のことでしょうか?」

 

「察しがいいな、まさにその通りだ。戦局の好転で前回と違って予定通り選挙が行われる予定だが、ここで早期講和派と東亜独立派を集め東条内閣の土台を破壊し大東亜政略指導大綱を白紙にするのだ。」

 

 霊夢は天井を向き、音楽に耳を傾けながら話し続ける。

 

「次の選挙の根回しをだいぶした。後は結果を待つだけの状況だが、もし東条内閣を崩せれば、総理大臣は自由主義派の皇族である東久邇宮殿下が御就任遊ばされるだろう。皇族の御方であるから内閣の形成も順調に進む。外務大臣は重光さんの続投になるだろうが、国務大臣は斎藤君に頼もうと思っている。」

 

「反軍演説をしていた彼がですか……それは強力な一手となりそうですね。」

 

 山本は手を組むと応接机の上に置く。

 

「もう一つお聞きしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

 

「遠慮なく言ってくれ。」

 

「ありがとうございます。では早速、霊夢参謀総長はなぜ東条内閣の瓦解に注目するのですか?」

 

「……というと?」

 

「アジアの解放を本当の意味で達成することを一つの目的としているのは分かりますが、何か他にもっと強い理由があるように思えてならないのです。」

 

 彼と同じように手を組み机に置いた霊夢は、深刻な面持ちで質問に答える。

 

「戦地から離れるほど楽天主義は蔓延する。戦争が現実のものと思えなくなるからだ。銃後は今その状況に陥りつつある。本土上陸部隊を退け爆撃隊を排除したことで安寧が訪れた本土では、日常会話の話題が終わってもいない戦争の講和会議で持ちきりだ。」

 

 それを聞いた山本の脳裏に昨日の光景が蘇る。余りにも大きすぎる夢を語っていた二人の事務員の姿が。

 

「この戦争では余りにも人が死に過ぎた。国民はその対価を求めているのだ。アメリカの西部併合など現実的ではないことばかり話されている。我々の戦争目標は「有利な内容で講和」である。戦争から手を引くタイミングはそこであり、米国に降伏を求めることではない。しかし、今の世論の中でもしその講和内容が知られるようになったなら、国民は恐らく暴動、反乱を起こすだろう。日比谷焼き討ち事件のように。」

 

 霊夢の表情はさらに険しくなる。

 

「その時は政治が正さなければいけない。だがその政治は一体どうだ?国民の楽天思想はもはや軍の中枢にも入り込みつつある。アメリカの西海岸を非武装地域にするなど無茶なことが掲げられ始めているのだ。アメリカはどこまでいっても大国だ、新型兵器を開発したとも聞く。戦争の引き際を見極めなければ唯一の脱出点を見逃しかねない。」

 

 昨日の屋台で見た光景が、大日本帝国の危機とも言える状況をそのまま表していたことを山本は理解する。レコードの音が止まり静寂に包まれた中で、霊夢は決意を固めた声で言う。

 

「次の選挙で政治の中枢を一新し初期に掲げられていた戦争目標を維持する。数百万人が死んだこの地獄の戦争から、日本を解放しなければいけないのだ。」

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