皇国最後の反攻:novelized   作:[このユーザーは存在しません]

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第二十二話:演説

 1946年の暮れ。総合参謀本部の朝日が差し込む廊下で、霊夢と魔理沙が歩きながら話している。

 

「選挙の結果はどうだった?」

 

「講和派の大勝だったな。徹底抗戦派もまだ勢力を保ってはいるが、結果を聞いた東条首相は来週中にも辞職する決意をしたそうだ。次の首相は予定通り東久邇宮殿下が御就任遊ばされる。」

 

「やれやれ、軍人が政治工作とは嫌なものだな。」

 

「そう言うな、その工作のおかげでこの戦争の終着点がまとまったんだ。後は突き進むだけでいい。それに東久邇宮殿下には就任後、軍部の権力の縮小を必ず成し遂げると仰って頂いた。帷幄上奏や現役武官制にもしっかり対処なさるそうだ。軍人が政治に介入するのもこれが最後になるだろう。」

 

「それにしても……徹底抗戦派はアメリカの全土を制圧して無条件降伏を突きつけるように言っているが、そんな事はたとえ日本が2個、いや3個あっても足りないぞ。」

 

「全くもってその通りだ。しかも彼らは原子爆弾を持っている。1発で街1個を消し飛ばせる爆弾だ、上陸地点に落とされればそれだけで一個軍が壊滅する。」

 

「交戦派はどうもアメリカが国民や前線の兵士を見捨て、焼き払い、疎開した民間人の帰る場所を消すなんて事はしないと考えているのだろうが……「窮鼠猫を嚙む」と言う、もしアメリカを限界まで追い詰めてしまえば彼らも容赦はしないだろう。そして一度そうなってしまえば最早話し合いで解決することなどできない。」

 

 霊夢はまるで自身が話す会談に寒気を覚える噺家のように、ぞっとした声で話す。

 

「限界まで追い詰められた生物は時代、個人、集団、知性のあるなしに関わらず皆狂う。それは敗戦という限界に追い詰められた国家にも言える話だ。その「国家の狂気」は国民にも波及し、無条件降伏と壊滅以外の終着点、そして目的すら消失した「決戦」を招くだろう。」

 

 はあ、というため息が霊夢の口から洩れる。

 

「その状態……狂気に陥った状態の生物と交渉、話し合いなどできるはずがない。できることは相手を絶滅させるまで戦い続けることだけだ。だからこそ戦争の終着点をあからさまに掲示し、彼らを講和会議の舞台に立たせ、互いに狂気へと陥る前に戦争を終わらせる必要がある。中国権益が第二次下関条約で認められた以上、更に多くの若者を死地に送り込んで戦う理由は我々に存在しないのだからな。……我々は日本を「戦争」から解放しなければならないのだ。」

 

 

 

数日が経った頃、陸軍大臣室に設置されたラジオの電源が埃を払われて動かされ、そのスピーカーからニュースが流れていた。

 

「1947年1月6日、東条首相は戦争の安定化を理由に辞任し、4年続いた東条内閣はここに終わりを迎えました。新たなる首相には明治維新以来初めての皇族兼首相として東久邇宮成彦殿下が御就任遊ばされました。殿下は国家をより良くし大日本帝国をより良い国とするため内閣の改造に着手されました。」

 

 華やかな音楽を背景にアナウンサーが続ける。

 

「新たな大臣として外務大臣と大東亜大臣は重光葵氏、内務大臣に吉田茂氏をご推薦なさり、また両名もこれを快諾し就任しました。海軍大臣は山本五十六氏の就任をご検討なさいましたが、同氏が「帝国軍人たるもの終戦まで軍務を離れてはならない」と宣言しこれを辞退したため米内光政氏が就任しました。国務大臣には斎藤孝雄氏が就任し、殿下の元で新しい大臣と続投した大臣が一丸となって大日本帝国の、そして大東亜共栄圏の更なる発展を誓いました。」

 

 軍部の検閲を受けた原稿が読み上げられるが、ラジオのスイッチを動かしたこの部屋の主はここにはいない。彼女は内閣発足後の御前会議に出席していた。そしてそこで大東亜政略指導大綱は「前近代的な欧米主義」と糾弾され、終戦までに大幅な見直しをすることが決定されたのだった。内閣の改造によって講和・終戦への準備は完璧に整えられ、あとは軍事的勝利を掴み取ることのみが課題となった。

 

 

 

 1947年4月3日の神武天皇祭。多くの人が集まる中でまた一人の話が終わり、霊夢が演壇の下に立つ。進行を務める司会が彼女を紹介し演壇の上へ案内した後、しんと静まり返った会場に彼女の声が響き始める。

 

「皆さんこんにちは、霊夢参謀総長です。私からはこの場をお借りして是非とも大東亜戦争についてお話させて頂きたい。我々は支那事変から始まり、十年間も戦争を続けてきた。十年間だ。六年前に対米戦争が始まってからは更に戦争が肥大化し、我々はアジアを解放するべく世界の半分で戦闘を繰り広げた。一時は劣勢であったが今は確実に勝利に近づきつつあり、米帝の力は日に日に衰え続けている。」

 

 そこまで言うと霊夢は声を引き絞り、一気に暗い雰囲気を醸しながら演説を続ける。

 

「だが、私はこの戦争の中で何か恐ろしいことが起きているような気がしてならない。それは兵士が敵兵を殺すことではない。それは単なる「戦争の日常」だからだ。では恐ろしいこととは何か?ぜひ答えよう。私が非常に恐れているのは「戦争が日常になっている」ことである。余りにも長く続いた戦争を前に、我々は兵士が敵兵を殺すという行動を恐ろしいほど冷静に見ている。我が軍が敵兵を射殺し、敵軍は我が兵士を爆殺し、互いが敵のスパイを処刑する。そんな狂気と死の連鎖をまるで当たり前の事かのように我々は澄ました顔で見ているのだ。」

 

 ゾクッとした恐怖が民衆の間に流れ、何人かが身震いをする。

 

「こんな事は当たり前ではない。当たり前であってはならない。当たり前になってはいけないのだ。軍隊と政治、そして生活が密着した今の日本は、たとえこの戦争が終わったとしても次なる戦争に平気な顔をして参加するだろう。100万人が死んだこの大東亜戦争の後でさえもだ。腹を括って避け得ない戦争に挑むのと、深く考えず不要な戦争に参加するのでは全く意味が違う。」

 

 演説の声は暗いものから段々と力強く、勇気を感じるものになる。

 

「我々は日本を作り直す機会を手に入れるためにアメリカへ攻撃を仕掛ける。必ず勝利を掴み取ってくる。そうしたらその後は君たちが仕事をする番だ。軍隊と政治、生活を引き離してやってほしい。そして戦争に束縛されたこの年代の次に、少なくとも平時は戦争を気にせずに過ごせる臣民を取り戻すため、自らの行いを否定するために戦地で死んでいく兵士たちを忘れないでいてやってほしい。」

 

 ここで一呼吸を置いた霊夢は、声を大にして叫ぶ。そこには情熱と希望、そして確かな決意があった。

 

「私はもう一度「戦争」を非日常のものに引き戻したい!「戦争」を当たり前ではないものにしたい!日本を「戦争」から解放したいのだ!」

 

 最後の一言を声高に叫ぶ為、霊夢は声を抑える。

 

「我が大日本帝国軍は米国本土に大して最後の大攻勢を実行する。我々の勝利を祈っていてほしい。そして次の世代へ「本当の日常」を取り戻してほしい。皇国の未来はこの戦争に懸かっているのだ!」

 

 演説が終わり、数秒が経って、会場に万雷の拍手が巻き起こった。

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