皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
帝都東京の中心地にほど近い霊夢の家。電気を節約するため電燈ではなく灯篭に照らされた和室で霊夢と魔理沙の二人は陸軍参謀長と陸軍大臣としてではなく旧来の友人として話をしていた。
「就任初日なのに随分と大きくぶち上げたな、霊夢。永野君は随分とバツの悪い顔をしていたぞ。あれで本当に大丈夫なのか?」
「むしろあれぐらいまでしないと皇軍が変わることなんかないよ。良薬口に苦し、ってとこだね。」
「それは勿論そうだが、私達みたいな人間が軍部の最高権限を握ることができるなんて本当に千載一遇の好機なんだ。改革の途中で辞任を強制させられたりなんかしたらそれこそ元の木阿弥だぞ。その反動で軍部がさらに硬直なんかした日には、たとえこの戦争に勝ったとしても……」
「それで辞めさせられる皇軍なら、そこまでの価値しかなかったって事だよ。それに成果が出てないから大っぴらに文句を言えるんだ。中国戦線の突破が成功すれば、誰も文句なんか言わなくなるさ。山本君が海軍乙事件と第一空母機動艦隊の練度不足を理由にZ作戦の中止を進言した時もミッドウェー海戦の事を引き合いに出して非難した奴はいたけどそれ以上に戦果が大きくて結局中止になったからね。」
「そうだといいんだが……」
そこで沈黙が訪れる。ひゅうと部屋の隙間から吹き込んだ生暖かい風は、帝都に今年もやってきた梅雨がまたその憂鬱な涙をすぐにでも落とし始める事を予感させた。その陰鬱な空気に当てられたのか、気を紛らわすように再び魔理沙が話を始める。
「ところで、あれ以外にも海軍の司令部にまで入り込んで色々とやっていたそうだな。山本君とあちこちを走り回っていたが一体何をしていたんだ?」
「確か……いくつかの空母の建造許可、第110号艦の空母改装命令、二号研究とF研究、それから人間魚雷の研究の中止、あと研究中の航空機をかなり篩にかけた上で残ったものへ注力させるように命令したね。」
「それはまた随分と海軍の管轄に踏み込んだな……」
「別に問題はないはずだよ、今日樹立されたばかりとはいえ陸海軍の協力体制ができたんだから。それに私達は今苦境に立たされているからね。たとえ中国戦線を突破したところで、いつドイツが降伏するのかも分からない状況で先の見えない研究に金と時間と人員を浪費できるほとの余裕はないよ。」
再び沈黙が二人を包む。ぽつ、ぽつ、と雨音が聞こえ始めた。
「そろそろ雨が本降りになるな。私はそろそろ帰らせてもらおう。」
「別にここへ泊まっていっても構わないんだけど……」
「生憎、まだ準備が終わって無くてな。作戦実行と同時に大陸へ行く予定だろう?」
「そうだね……じゃあ、また明日。」
「ああ、また明日。」
別れを告げた魔理沙が出ていき、雨の音がしなくなった暗い部屋の中、霊夢は一人で畳の上に寝転がり、手を上に伸ばして、誰に言うでもなく呟いた。
「この戦争は元々中国との戦争だったはず……でも中国を降伏させたところでドイツの状況を考えれば連合が講和に応じる訳もないし、東南アジア地域での活動を東条内閣が白紙にしたがる筈もない……そうなったら、一体どこまで戦えばいいんだろう?」