皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
台湾の真西にある福健。日本軍による大陸打通作戦により中華民国から切り離された兵士たちが、攻勢を開始した日本軍とあちこちで対峙していた……というのは少々語弊があるかもしれない。
何せ6師団ものチハと数千の航空機が、歩兵として編成され、塹壕と建物と山岳地系以外には要塞も戦車も自動車もほとんどない状態で待ち構えていた中華民国軍に攻勢を仕掛けたのだ。それらと戦闘を試みた兵士たちは日本軍の熱烈な士気によって蹂躙され、撤退を余儀なくされた。
今まさしく港に向かって走っている二人の男も、包囲網の内部に浸透してきたチハ戦車部隊によって近くの都市から壊走したある防衛隊の一部だった。
「くそったれ!一体どうなってやがるんだ、上は「先の作戦の規模からして今年中に日本がまた攻勢することはない」って言ってただろ!?」
「分からん!だけど実際に奴らは来てるんだ!過去の事なんか考えてる暇なんてないぞ、逃げろ!」
そう言い終わった途端に台湾から飛んできたのであろう近接航空支援機が彼らに機関銃を放っていった。二人は近くの穴ぼこに隠れようとするが、一発が片方の男の左腕を貫通し、使い物にならなくする。
「がああっ!!!」
「大丈夫か!?」
二人はこの地獄の中で、走馬灯のように過去を思い出していた。戦争を理由に徴兵され、宿舎で出会い、赤い酒に運命的な友情を映しながら盃を呑み交わし、死ぬときは同じと義兄弟の契りを結んで、共に地獄に出兵した。
しかし二人は、本当のところ自分たちが死ぬことなどないと確信していた。塹壕の中で催吐ガスを吸い込み自分のか他人のかも区別できないほど多くの吐瀉物にまみれながら日本兵の万歳突撃の雄叫びを聞いていた時も、補給途絶による武器も満足にない不安と食糧の不足からくる飢餓の中で自分たちが日本軍に包囲された事を察した時も、あちこちの建物にチハの砲撃が命中しガラガラと崩壊する音を聞きながら部隊のことなど忘れ必死にここまで走ってきた時も、自分たちは死ぬことなく戦争の終わりを見届け、中華民国の一市民としてこの地獄を酒の肴としながら一生を終えると確信していた。
「い、痛い……腕が……俺の腕……」
「耐えろ!もうすぐ港だ、いったん脱出してから出直してあいつらに一泡吹かせて——」
その時だった。突如として二人が向かっていた港から火柱が上がり、乗り込もうとしていた船が轟音と黒煙と共に沈んでいった。
「な、なんだ!?何が起こっているんだ!?」
「日本軍の艦砲射撃だ!あいつら、俺達を港から逃がさないようにここを戦艦か何かで砲撃してやがるんだ!」
彼の推理は大正解だった。数十km離れた洋上では、山本の乗った「大和」率いる聯合艦隊が沿岸を目がけて一斉に砲撃をしていた。そして二人が空を見上げた時、彼らの根拠のない確信を嘲笑うかのように、直径46cmの巨大な砲弾が二人をめがけて飛んできていた。
「奴らを一人たりとも包囲から逃してはならない。全力で砲撃し逃走を阻止せよ。」
無線で各艦を激励した山本は、主砲発射の衝撃から未だに回復していない三半規管を慰めるように艦長室の窓から空を見上げる。そこには近接航空支援機の不足を補うため駆り出された一式陸攻が曇り空の下を飛んでいた。