皇国最後の反攻:novelized 作:[このユーザーは存在しません]
1944年6月1日、ドイツ占領下のパリにて二人の男が話していた。
「パリは依然として平和だな、もし10年前の人間にここの写真を撮って平時か戦時か聞いたなら、100人中100人が平時と答えるだろう。」
「街並みはそうですが、フランス人の目線は厳しいですな。」
「彼らも連合軍の上陸が近いことを察しているんだ。たとえ今我々に敵意を向けても、秘密警察より連合軍が先に来てくれると信じている。気を引き締めていかないといけないな。」
連合軍の上陸を阻止するためにパリへ来た男、B軍集団司令官のエルヴィン・ロンメルは建物の中で隠れながら彼らを睨む市民の一人を見ながら言った。
「それにしても、ヒトラー総統があれを譲渡してくれたなんて未だに信じられません。」
ロンメルと共に歩いていた装甲兵大将、レオ・シュヴェンペンブルクは空を見上げ、ロンメルもそれに続く。
「装甲師団のことか、私も正直驚いた。しかし直々に師団の譲渡を願うためベルリンに行く予定だったのが中止になって本当に良かったよ。パ・ド・カレーよりもノルマンディーの方が上陸作戦において連合国有利だという事を資料と共に説明して閣下を納得させるのは非常に骨の折れる作業だっただろうからな。」
「部隊は既に沿岸部に?」
「勿論だ。ティーガー2が配備された第五装甲軍はすでに臨戦態勢だ、連合軍が明日来たとしてもすぐスクラップにしてやれる。」
「頼もしい限りです。しかし、予報によれば今後数日間は悪天候が続きます。連合軍は上陸して来ないでしょうし休暇を取ってはいかがでしょうか?」
「油断は大敵だぞ、天気予報はいつだってあてにならん。それに最早いつ来てもおかしくない状況なのだから、奴らを迎え撃つ万全の体制を維持し続けるべきだ。もし連合軍が上陸を成功させた時、それはドイツの敗北を意味するからな。」
「あまり不安なことを言わないでください。確かに東部戦線は押し戻され始めていますが、イタリア戦線は膠着が続いていますし、何より第五装甲軍に配備されたティーガー2に勝利でき、しかも強襲上陸まで可能な部隊は連合国に存在しません。それでも連合国の上陸を警戒し続ける必要があるんですか?」
「まあ、確かに現状は君の言う通りだが、その不安定でいつ倒れてもおかしくない安寧の上に座り込むこと自体が油断なんだ。ましてや休暇なんて取ってしまっては、自ら負けにいくようなものだぞ。」
そう返したロンメルは、「はあ……。」と納得できなさそうなシュヴェンペンブルクを無視して空の雲を睨む。悪天候の予兆を見せるその雲は、ドイツの未来を暗示しているかのように彼には感じられた。