ガンダムビルトインターセクション deep in shadow 作:クロノ09
「…夢、か」
目の前をカゲトと魔王の二人が駆け抜けていくのを見届けると、コートの男は物陰から出てくる。
「そうだ、所詮はアレは夢だ、俺は"アイツ"じゃない…」
まるで自分に言い聞かせるかのようにそう呟きながら、二人とは別方向へと、歩いていく。
「俺は俺だ、おれ以上でもそれ以下でもない、魔女にだって、奇跡にだって、翻弄されるのは後免だ」
思わずグッと拳に力が入る。
ここがリアルなら、血が滴っていたいただろう。
それ程に、夢の中の"彼"の存在が頭の片隅にずっと、残り続け、苛立ちが収まらない。
「…また、悪夢の話かい、ナイン?
全く、折角のボクとのデートだというのに、それはどうなんだ?」
歩いていく彼の後ろから少女の声が響く
声の主は男の有無を言わさずに、勝手に横に並び立つ
「…アルカか、まずお前とデートの約束などしたつもりはないぞ
それと、盗み聞きは止めろと言ったはずだ」
アルカと呼ばれた少女は悪びれる様子もなく、彼、ナインの顔を覗き込みながらため息をつく。
「全く、キミも薄情だな
折角、世界一の美少女が慰めてやろうというのに、もっと喜びたまえ」
全くナインの言うことなどお構い無しに、アルカはまくし立てながらナインの腕を引きながら、広場のベンチへと無理やり座らせる
「自分で言うか…」
「事実だからね」
されるがままにされながら、渋々腰を下ろすと、ナインは頭の片隅に残りつづける"それ"を忘れようとするも、結局顔を歪ませる。
「だから言ったはずだ、キミは過去に捕らわれ過ぎている。
…いや、それとも、縛られてるのは未来か?」
「っ…!何を… いや、お前には関係ない話だ」
図星だったのか、思わず声を荒げそうになるも、押さえ込む
「魔女〈オルタナティブ〉との因縁とキミは向き合っている、それがキミの咎のいうのならば、ボクは止めはしないさ、だが…」
「なっ…おい…!」
グッと距離を詰めると、ナインの眼前にせまり、ベンチへと押し倒す
「キミを蝕んでいるのは"誰"だ?
"それ"は呪いだ」
「…あぁ、そうだな」
ナインはそれを否定しない
「ボクが欲し、ボクが求めるのは"ソレ"じゃないキミだ
ソレは誰だ?ボクが欲すのはソレじゃない…」
虚ろな目でアルカはナインを問い詰める。
その目に映るのは目の前のナインではない
「あぁ、分かってる、分かってる…つもり、だったな…」
ナインは投げやりに、自分に言い聞かせるかのようにそう、呟く
「俺には何もなかった、アイツは俺の欲したものを手に入れ、そして、その先に行った…」
夢に出てくる"彼"は自分自身そのものだった
魔女に呪われ、運命を呪い、そしてその呪縛から解放された
燃え盛る車、窮屈な病室、呪われた幸運
それは全て偽りなく自分自身の記憶だ
だが、彼はある結末では、その身を犠牲に奇蹟を発現させ、またある結末では、自らの願いを叶えていった。
それは間違いなく、理想的な結末だ。
ずっとそれを求め続けてきた。
「だけど、それはキミじゃない」
「…っ」
そうだ、だけどその結末は"ナイン"が描いたものではない。
「…敢えてこう言おうか、"式神 黒野"
彼は死んだ」
「…………あぁ」
それは呪いの名、ナイン、などという記号を名乗った所で消し去ることの出来ぬ呪縛
彼、黒野はオルタナティブを呪われ、そして結末を迎えた。
その未来は確定している。
「問おう、キミは誰だ?ナイン?」
「俺は、俺の名は…」
式神 黒野?
…いや、違う
その名は捨て去り、過去の者へと、いや、異なる未来へと進んでいった。
ならば、今の彼は…
「俺は、ナイン、そして黒瀬 式〈クロセ・シキ〉」
そう、その名に刻む進名は新たなもの
「クロノ、その名はくれてやる
生きるも死ぬも勝手にしろ、その運命はお前のものだ」
言い聞かせるように、いや、誰かに語りかけるかのようにそう、口を開く。
「だから、これからは俺は俺の好きにさせて貰うぞ」
彼は彼の物語を歩む
それは魔女にも、運命にも、縛ることは出来ない。
運命の交差点が生んだ光と影
それがこの世界に与える影響は計り知れない。
彼らの物語は始まったばかり、その結末は他でもない、自分自身のものだ…